第3話
人生初
インフルエンザ
マジきつい 世々原よよ、心の叫び───
「王太子アイザック・シルヴェーヌだ。魔女の力を乱用していると聞いた。捜査に入らせていただく。」
王太子様は、お兄様がドアを開けた瞬間に告げた。
周りに護衛の方も、魔女と思われる方もいらっしゃるのだから、そちらが先に出るものだと思っていたけれど… 何か特別な事情があるのかしら。
「…どうぞ。」
お兄様は苦虫を噛み潰したような顔をしながら家の中に彼らを通した。
意外にも人数は少なく、王太子様、騎士の方が2人、魔女だと思われる方の4人だけだった。
「アンダーソン。そこの魔女を拘束しておけ。」
「…! 失礼ながら王太子殿下。妹はまだなんの罪にも問われていません。拘束など…!」
あっという間に縄で結ばれる横で、お兄様が王太子殿下に申し出る。ありがたいけれど、お兄様の立場がなくならないか心配だわ。
どうも王太子殿下は機嫌が悪そうだし…
「念には念をだ。口出しをするなら、お前も拘束するぞ。」
「っ……」
「アンダーソン、ステップニー。魔女に事情聴取を」
「「はっ」」
「ヴァージル・ジェフリーズは私と来い。」
「…はい」
お兄様は小さく答えると、私を何度も振り返りながら王太子殿下について行った。
◇◇◇
「カリスタ・ジェフリーズ伯爵令嬢で間違いないな。」
「はい。ジェフリーズ伯爵家の第三子長女、カリスタと申します。」
アンダーソンと呼ばれた男性が聞いた。私はプラタナスの塔の応接室で、アンダーソン様、ステップニー様、そして魔女のアンバー様と向かい合わせに座っていた。
拘束した縄はすぐに解いてくれた(あれ、結構優しい?)
居心地が悪いわ… ここが自分の家、いや塔なのが信じられない。
「カリスタ。どうしてあんな酷いことができるのですか!」
アンバー様が涙ながらに訴える。私は呼び捨てにする許可を与えた覚えはないのだけれど… 私は伯爵令嬢だからそこそこ位は高いし、そもそも初対面で貴族に対して呼び捨てすることはマナー違反だわ!
────もう私を罪人と認識しているというの?
「魔女様。私は噂のような極悪非道な所業はしていません。」
「嘘までつくだなんて… 早く罪をお認めになった方がよろしいのではないですか?」
涙の奥で嘲るように笑う魔女アンバーは、背筋がゾクっとするような声で言う。
「…詳しく話を聞いても?」
「はい。まず私は魔女ではありません。」
「「「はい?」」」
んー。全く信じていない顔だわ…
「ですから、私は魔女ではありませんし、そもそも魔法が使えません。魔力すらありません。」
「カリスタ? そう言う嘘は私たちの年齢ではもう通用しなくってよ!」
相変わらずこの方は何様のつもりなのかしら……あ、魔女様か
「では、魔力測定をしてください。魔女様ならできますよね?」
「あら、自分から嘘をばらすの… もちろんいいわ!」
「それと魔女様。私は呼び捨てを許可した覚えはありません。カリスタと呼ぶのは結構ですが、せめて敬称をつけてください。」
「罪人を敬うほど私は慈悲深くないわ。」
アンバー様は嬉々として私の頭に手をかざし、視界が金色の光で溢れる。
本物の魔女の魔法を見るのは初めてだ。いつも見ているヴァージルお兄様の魔法は空色の光を放つ。
今まで見た魔法の光の中で、一番美しいわ…
自然と口角が上を向きそうになるのを、慌てて戻す。
いけない! こんな時でもワクワクしてしまうのは悪い癖ね…
しおらしく。しおらしく。
「な、なんで! なんで魔力がないの!?」
その言葉を皮切りに、アンダーソン様とステップニー様がガタンと音を立てて席を立つ。
…その椅子結構高級品だから、大切に扱ってくださらないかしら。
「どう言うことだ! 確かに被害者の方はジェフリーズ伯爵令嬢にやられたと…」
ステップニー様が顔を青ざめさせる。
「あんた! まさか魔力を隠す魔法なんてものを発見したんじゃないわよね! あっそうか。あんたの兄は魔法の発明に長けてたし、だから魅了魔法で繋ぎ止めてるのね!」
アンバー様がヒステリックに叫び出す。
もちろん魅了魔法なんて使ってないし、使えない。
そしてあのシスコン兄には絶対に必要ない。
────って言うかアンバー様、王太子殿下がいる時は心優しい魔女様って言う顔をしていたのに。
人は見かけによらないものね… 気をつけなくちゃっ!
「私は魔力がないので、魅了魔法なんて使えません。それに、被害者だと言うの方の話をよく思い出してみてください。」
「話…?」
「誰も、直接魔法をかけられたとは言っていないはずです。」
「それは、確かに…?」
そりゃそうだ。 だって私は魔法が使えないのだから!
「ちょっとついてきていただけますか?」
「「はい。」」
いまだにヒステリックな叫び声をあげているアンバー様とは裏腹に、騎士の方は冷静に判断を下している。
さすが、王太子殿下の直属に選ばれる実力がある方ね。
***
「ここは、一体…?」
「こちらは、私の仕事場です。」
私は自慢の実験器具を見せた。
騎士の方からしたら、何がなんだかわからないだろう。
魔法の再現なんて王宮どころか、世界中を探しても私しか挑戦していないはずだ。
私は手袋をすると、クツクツと煮えているフラスコの一つを手に取り、ガラス瓶に移した。
この瓶はヴァージルお兄様が作ったもので、熱いポーションをあっという間に冷やすことができる魔道具だ。
「騎士の皆様は、こちらのポーションを見たことがありますよね。」
私は手に、薄いピンク色をした液体の入った瓶を持つ。
「これは、回復のポーションですかな?」
「正解です。私はこの部屋で、魔法を再現できるポーションを作っているのです。」
「しかし、それは魔女が作っていて…」
「それはどこからか勝手に湧いてきたただの噂ですわ! 製作者がバレるのも面倒くさかったので、そのまま放置していました!」
私はにっこりと微笑みながら、手に短剣を握る。
それが見えた瞬間に2人とも自分の剣に手が伸びるのは、さすがとしか言いようがない。
「ご安心ください。皆さんを傷つけてつもりはありません。」
私は剣を鞘から引き抜いて、自分の左腕にそっと押し当てる。
っ… じんわりと滲んだ血が腕を伝う。 思ったよりも痛い…!
そしてちゃんと傷ができていることを見せ、私はポーションを腕に振りかける。
瞬きを3回ほど繰り返せば、傷があったことなんて誰にもわからない綺麗な肌に戻った。
「性能は、普段お使いのものと変わりませんね?」
「…はい。」
どうやら騎士の方々は私がただのポーションを作っている令嬢だとわかってくれたらしい。
最初は怖かったけど、真面目なだけだったみたいで良かった〜
「あれ、カリスタ?」
「お兄様? 塔の案内は終わったのですか?」
「ああ。残りはこの実験場だけなんだが…カリスタ! なんで血が出てる!」
あっ… お兄様が、後から入ってきた王太子殿下そっちのけで私の方に駆け寄る。
思ったよりも血が出ちゃったから、服にもちゃんと跡が残っていた。
「誰にやられたっ! 俺がそいつを────」
「これは自分でやったのです! 落ち着いてください!」
「ならカリスタが自分を傷つけるように仕向けた奴を────」
「自分の意思です!」
まったく… シスコンの兄を持つと大変だわ!
王太子殿下の前だと言うのに、一人称が『俺』に戻ってるし…
「ジェフリーズ伯爵令息。この部屋は。」
「こちらはカリスタの実験場です。ここからはカリスタに説明をしていただいた方が…」
「ならさっさと説明しろ。」
私はみんなに見守られながら、騎士の方々へ伝えたものと同じ説明をした。
アンダーソン様は頷きながら聞いてくれたし、ステップニー様はポーションの実演の話を『この目で見届けた』と言ってくださった。
良い人…!
「なるほど。魔力がないと… 確かに、髪を染めたことや、毒薬の話はそれで説明がつく。しかし公爵令息に魅了魔法をかけたと言うのは?」
「「あっ!」」
騎士の方々が思い出したように顔を上げる。
流石に王太子殿下は一筋縄ではいかないか。この説明をするのは気が引けるのだけど………仕方がない。
「自分で言うことではありませんが、見ての通り私はめちゃくちゃ美人なんです! 公爵令息は、夜会でたまたますれ違った私に一目惚れしただけですわ!」
はっずーっ!
こんな説明を自分でしたくないし、隣のお兄様はうんうんと頷いているから絶対にお願いできないし!
顔を真っ赤にしながら半分叫ぶようにして言うと、『確かにカリスタは可愛い』と納得しているお兄様と、いまだに鬼の形相をしているアンバー様以外が目を丸くした。
あっ王太子殿下笑ったかも…! ちょっと嬉しい。けど恥ずかしい。
「今までもたびたびあったのです。急に恋文と共に大量のお菓子が届けられたり、顔どころか名前も知らない相手からサイズピッタリのドレスが届いたり…」
お兄様… せっかくの美貌を憤怒の表情で台無しにしないでください。
「そうか。それなら私もよくあるから共感できるな…」
王太子殿下… 共感しないでいただきたかったけれど、殿下の地位で守られていてもあるのですね…
顔面の強さ恐ろしや………
「しかし、私も昔はよくお菓子が届いたが、しばらくないな。老けたかな?」
お兄様… 大丈夫です。まだまだかっこいいし、多分老けても美しいと思います。良い感じのイケオジになるはずです。
思い当たる理由は………
「お兄様は私が好きすぎるのです。自分の好きな相手がシスコンとか、悲しいので誰も近寄らなくなっているのですよ!」
「なるほど! しかしそれだと、カリスタは俺のことを…」
ショックでどんどん萎れていくお兄様。また一人称が『俺』に戻ってます…
「私は当主の座を継ぐ可能性が一ミリもないので、夜会には最低限しか出席していません。参加する夜会で片っ端から妹自慢をしているお兄様とは違うのです!」
「じゃあ、カリスタはお兄様を嫌いじゃ────」
「大好きですし、王太子殿下の前でこんな会話を繰り広げさせないでください!」
あーもう… 王太子殿下と騎士のお二人が完全に呆れていらっしゃる……
「仲が良いのは本当のことなのだな。では、邪魔になるようだし私たちはこれで失礼するとしよう。」
王太子殿下が生暖かい目でこちらを見てくる…!
あっ騎士の方々も同じ目を……!
なんかすれ違いがありそうだけれど、まあ……一件落着?
「アイザック殿下。本気で言っていらっしゃるのですか…? 魔法を再現できるポーションだなんて…」
「現物がある以上、これ以上は問えない。アンバー嬢、転移魔法を頼む。」
「……わかり、ましたわ」
アンバー様は納得していないような顔で魔法陣を展開する。相変わらず美しい魔法の光に王太子殿下が包まれる。
隣で、お兄様が駆け出したような気がした直後────
「ゔっ… ぐはっ………」
王太子殿下の腹部に、リンゴほどの大きさの大穴が空いていた。
えっ…… どういうこと…? なんで、あっち側が見えるの…?
もう書き置きがありません!
誰か私に文才と集中力をください!




