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ラフィムはわたしを鳥かごに閉じ込めると、満足した様子で部屋から出ていった。
彼がいなくなってから、かごの中をくまなく調べてみたが、このかごは入り口がどこにもない。かごは鉄で出来ており、隙間も10センチほどしかないので、通り抜けることも出来なかった。キュクレイはこの状態から、一体どうやって抜け出したのか。
オーディやコーネリア。アニエスは一体どうしているだろうか?
この部屋は窓がないので、時間が全く分からない。もしかしたら彼等も閉じ込められているのではないかと、不安に感じたときだった。
ガチャガチャガチャガチャ
扉からけたたましい音が鳴り響いた。誰かが扉を開けようとしたみたいだが、先程ラフィムは部屋に鍵をかけて出ていったようだ。扉は開かなかった。
扉に鍵がかかっていることが分かったのか、扉は静かになった。その後すぐに鍵を開ける音が聞こえたと思ったら、勢いよく扉が開いた。
「やっぱり!またこんなことをして!」
扉から入ってきたのは、金髪で青い目をしたエルフの女性だった。髪と目が同じ色だからそう感じるのだろうか?彼女はどことなくわたしと似ている気がする。
彼女はわたしを見ると、急いで鳥かごの前までやってきた。
「やっぱり魔法を封印されているのね。解除してあげるから、手を出して」
わたしは言われるまま、彼女に手を差し出した。彼女の手がわたしに重なると、バチッと静電気が起こった。地味に痛い。
「さぁ。もう魔法が使えるはずよ」
わたしは封印魔法を知らなかったのだが、こんなに簡単に魔法が解けるとは思わなかった。
とにかくわたしは、彼女に言われて転移魔法を使った。あんなに出るのに苦労していた鳥かごから簡単に抜け出せたことに、なんだか拍子抜けしてしまった。
「ありがとうございます。わたしはカトレバス国の…」
「知ってるわよ。シヴィルでしょ」
わたしにはエルフの知人はいない。もしかしたらムウラ王妃の知り合いだろうか?わたしが首を傾げていると、彼女はにっこりと笑って言った。
「私はケツァ。あなたの祖母よ」
「えッ!?」
彼女がムウラ王妃の母親ということは、わたしの祖母ということになる。昔ムウラ王妃から、祖父は亡くなったと聞かされていた。てっきり祖母も亡くなっていたものだと思っていたのだが…意外な言葉にわたしは驚いた。
しかし目の前にいる彼女の歳は、どうみてもわたしと同じ歳くらいだ。彼女が祖母なんて信じられない。ケツァはわたしの驚いた様子を見て、クスリと笑った。
「エルフは人間と違って寿命が300歳ほどなのよ。それに成人するとそれ以上歳をとらないの」
「ということは、母上やわたしも?」
「あなた達も老化はしないかもしれないけど、人の血が混じっているから、寿命は人と同じよ」
300年も生きていたら、まわりの人達の死を何度も目の当たりにすることになる。しかしそんな心配はないようで安心した。
そうなると、成人すると成長が止まるということが気掛かりだ…
わたしは自分の胸を見た。実はわたしは胸が小さい。それもあって王子の姿でいてもバレなかったりする。
王子のままでいるならこの方が都合がいいと思ったが、卒業して王女として生きるのだったら、正直もっと大きくなりたい。
「女性の魅力は胸だけじゃないから大丈夫よ」
そう言うケツァの胸は巨乳だった。ムウラ王妃も胸が大きいのに、なぜわたしは小さいのか…世の中不公平だと思う。
バンッ
胸の成長に悩んでいると、突然扉が勢いよく開いた。ラフィムが戻ってきたらしい。彼はかごから抜け出したわたしとケツァを見て驚いている。
「ケツァ!?もしかしてキュクレイもお前の仕業だったのか!」
「ラフィム王子。こんなことをしても友達は作れませんよ。なぜキュクレイはあなたから逃げたのか考えなかったのですか?」
やはり、昔この鳥かごに閉じ込められたのは、キュクレイだったようだ。そのとき抜け出せたのは、どうやらケツァのおかげだったらしい。
しかしラフィムは友達が作りたくて、わたしをかごに閉じ込めたのだろうか?それなら素直に言えばいいものの、こんなやり方ではキュクレイに病んでいると言われても仕方がない。
「シヴィルとは結婚するんだ!そうすればずっと一緒にいられる」
「王子。結婚はお互いが愛し合ってするものですよ。シヴィルの気持ちを無視して、一方的に閉じ込めるなんて。これではただの監禁です」
「…ッ」
ケツァの言葉にラフィムは言葉を失ったようだ。彼はその後何も言わずに部屋から出ていった。
「王子は生まれたときに両親を亡くして、この里にも若い者はいないから、心を許せる相手がいないのよ」
彼はまだ幼い。両親も、遊べる相手もいないため、彼は寂しくてわたしやキュクレイを閉じ込めたのだと思った。
「それなら最初に言ってくれたらいいのに」
「もう閉じ込めることはないとは思うから…よかったらまた遊びに来てあげて」
あんなことをされた後だが、そう聞いてしまうとラフィムに同情してしまう。正直もう来たくはないが…ケツァの言葉にわたしは頷いた。
*
ケツァから、里の酒場にコーネリア達がいることを聞き、わたしは城からでた。どうやらもう夜になっていたらしい。森の中には外灯はなかったが、空からキラキラ光る粉が降っていたため、外は明るかった。
葉の階段を下りて行くと、一際明るく賑やかな家があった。どうやらあそこがケツァの言っていた酒場のようだ。
「あ!…モグモグ…シ…モグモグ…お帰…モグモグ」
「殿下ッ…ゲホゲホッ!」
「…アニエス。お前食べたもの飲み込んでから話せ。ほらコーネリア水だ」
コーネリア達がどこにいるか探すまでもなかった。酒場に入ると、すぐ目の前の席に彼女達はいた。
三人はすぐにわたしに気付いたようだったが、コーネリアとアニエスはまた口に沢山ほうばっていたのだろう。アニエスは何を言っているのか分からない、コーネリアに関してはむせている。そんな二人をオーディは介抱していた。
わたしが空いている席に座ると、口の中の物を飲み込んだアニエスが真っ先にわたしに話しかけてきた。
「殿下!お帰りなさい。クシャタに言っても、王子と話してるからって中々殿下に合わせてくれなかったんですよ!おかげでラフィ×シヴィを見損なっちゃいました!」
「殿下を待っている間、クシャタに里の中を案内されていたのですけど、夜になっても殿下は現れませんし、クシャタは私達を置いて何処かに行ってしまいましたから。すごく心配していたんです」
「…お前ら。今まで食べ物に夢中でシヴィル様のこと忘れてただろ」
「そ、そんなことないですよ!」
「そ、そうよ!失礼ね」
二人とも思いっきり動揺しているところをみると、どうやら図星のようだ。しかし三人とも特に何事もなく、無事で良かったと思った。
「それじゃあ。帰ろうか」
「えっ!帰っちゃうんですか!まだ食べてないものがあるのに」
「こんなに遅くに馬車で帰ったら、危険ではないですか?」
「シヴィル様。カトレバス国まで距離もありますし、ここからですと転移魔法は使えませんよ」
オーディの言うように、転移魔法はあまり距離が離れていると使えない。その為エルフは魔法ではなく、馬車を使って城まで迎えに来たのだ。しかしわたしは転移魔法を使わなくても、馬車より速く帰れる魔法を使える。
「大丈夫。ドラゴンを喚ぶから」
「え!ドラゴンに乗れるの!やったぁ」
「空の旅なんて素敵だわ!」
「シヴィル様…禁断魔法も使えたんですね…」
今日は元々街に出掛ける予定だけだったので、もし今日中に帰らなければ、コーネリアやアニエスの両親が心配するだろう。
わたしも早く帰らなければ、タイタム王が大騒ぎしそうだ。…もう大騒ぎしてそうだが。
「それじゃあ、さっそく行きましょう!」
ドラゴンに乗れると聞いて、アニエスは一番に酒場から飛び出した。アニエスの後を追い酒場を出ると、彼女はスキップをしながら階段を下りていた。それにしてもよく足を踏み外さないものだ。
「準備オッケーです!」
「楽しみだわ!」
里の入り口まで来ると、コーネリアもアニエスも期待した目でわたしを見た。とりあえずここであれば家もないし、エルフ達もいない。わたしは召喚魔法を使った。
実はこの魔法を使うのは初めてで、もし失敗したら…空中浮遊の奇術魔法で帰ろうかと考えていた。夏の夜空は涼しくて気持ち良さそうだし、この世界の魔物は空を飛べないので、空さえ飛んでしまえば襲われることはなかった。
しばらく間があったので、やはり失敗したのではないかと思ったのだが…どうやら魔法は成功したようだ。
空から現れたのは、10メートルくらいある赤いドラゴンだった。ドラゴンは器用に木を避けると、わたし達の前に降り立った。
わたしが近づくとドラゴンは翼を広げ、わたしはそこからドラゴンの背中に乗った。わたしの様子を見て、アニエスも嬉しそうにドラゴンの背中に乗った。
全員が背中に乗ると、ドラゴンは大空へ飛び立った。アニエスはキャーキャー楽しそうに笑いながら鱗に捕まっていたが、コーネリアの顔は一変し青くなっていた。オーディはそんなコーネリアを見てタメ息をついている。
晴れ渡った夜空には、コーネリアの悲鳴がいつまでも響き渡っていた。




