第34話 ― 終わりが来た
読書をお楽しみください。
騒ぎを聞きつけた看守たちが踏み込んできた。
目の前の光景を見て、立ち止まった。
俺が一人で立っていた。
手にスプーン。
足元に、囚人たちが倒れていた。
包囲された。増援が呼ばれた。
一人が命令した。俺は従わなかった。
警棒が肩に飛んできた。
俺はその男を見た。
目は——空だった。
「何だ……蠅でも払ったか」
男が後退った。
別の看守が腕を掴んで言った。
「独房に入れる。刑期が終わるまで、ずっとだ」
「独房?……実験の一種か」
全員の目が俺を見ていた。
声には出さなかった。
だが目が言っていた。
——こいつは何だ。
「違う。罰だ。一人で閉じ込められる」
「……悪くない」
連れていかれた。
中に入れられた。
――――
日が過ぎた。
組織からの手紙が届いた。
色々書いてあった。
その中に一行あった。
「俺たちならお前を出せる」
破った。
サカに教わったトレーニングを思い出した。
朝も夜も動いた。
汗が滝のように落ちた。
止まらなかった。
そうやって——七年が過ぎた。
二十五歳になった。
一通の手紙が届いた。
「ニノが高校を卒業した。大学へ進んだ」
今日——出所する日だった。
その朝、差出人不明の手紙が来た。
「ニュースを見ろ」
画面を見た。
速報だった。
「緊急】19歳前後の女性が行方不明——」
近づいた。
テレビの前にいた看守に聞いた。
「何の事件だ」
「女が——暴行されたか、攫われたか」
「名前は」
「確か……ニノ、だったと思う。一週間前のニュースだから、はっきりは覚えていないが」
は?
ニノが——攫われた?
なぜ。
どうして。
まさか——
死んだのか。
光が——消えた。
希望が——消えた。
その看守を殺しそうになった。
教えたから、ではなく——
教えたから、だった。
――――
刑務所を出た。
悲しかった。
向かう場所が——なかった。
看守が後ろから来た。
「これ、今日届いた手紙です」
封を開けた。
ニノからだった。
胸が——砕けた。
息ができなかった。
呼吸を取り戻そうとした。
だが息が——出ていかなかった。
サカが死んだ時と、同じだった。
気を失った。
看守の前で。
――――
落ちていった。
底のない闇だった。
出口がなかった。
サカが死んだ。
今度はニノまで——
なぜいつも——俺だけが残る。
闇の中で、薄い光が現れた。
声がした。
——闇は痛い。怖い。誰も望まない。だが——誰が作った。組織じゃないのか。“殺人”という名前を避けるために、あいつらがやった。
突然、落下した。
闇に沈んだ。
感覚がなかった。
ただ——空だった。
上から、黒い手が伸びてきた。
右手を上げた。
触れた。
声が聞こえた。
人間の声じゃなかった。
もっと——深いところから来る声だった。
「始まりだ」
声が——消えた。
――――
目が覚めた。
見慣れない病院の光だった。
思い出した。
目が覚めるたびに感じていた、ニノの温かさを。
目が覚めるたびに流れていた、ニノの涙を。
今は——なかった。
場所が——冷たかった。
看護師に聞いた。
「今日は何日だ」
看護師が少し怯えながら答えた。
「月曜日です。午後1時です」
「ありがとう」
窓を見た。
色のない空だった。
雲が、まばらに散っていた。
ふと——窓ガラスに何かが映った。
部屋のドアの陰に——何かいた。
指先が、ドアの縁から覗いていた。
歪んだ形の——指だった。
頭の中で声がした。
シィ——ッ。
素早く振り返った。
何もなかった。
看護師が不安そうに言った。
「大丈夫ですか?」
答えなかった。
見もしなかった。
自分に言い聞かせた。
「今日は月曜日だ。金曜日に——全員殺す」
立ち上がった。
看護師が叫んだ。
「動かないでください。心臓が——まだ無理です」
「気にするな。俺の心臓はもっと酷いものを経験してきた」
看護師が体を張って止めようとした。
俺は考えた。
——俺は顔がいい。体もいい。使えるな。
看護師の手を取った。
驚いた顔で俺を見た。
引き寄せた。
ベッドに座らせた。
混乱して固まった。
縛った。
ドアを閉めて——走った。
叫び声が聞こえた。
名前を呼ばれた。
構わなかった。
走った。
壁にぶつかった。
真っ直ぐ走れなかった。
体がついてこなかった。
今の俺には——何もない。
一人だ。
まず武器を手に入れる。
病院を出た瞬間——
眼鏡の女を見かけた。
辺りをきょろきょろしながら、見知らぬ路地へ入っていった。
後をつけた。
女は何度も振り返りながら歩いた。
やがて——見知らぬ男と合流した。
女が言った。
「頼んだことはやった?」
男が答えた。
「ああ。あの女の件だろう」
女が言った。
「そう」
少し間があった。
「タイ——お前は今、私のものだ。必ず手に入れる」
小説の応援をお願いします




