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タイの物語  作者: Shadow
第I部:第II部:過去の根源と真実
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第二十三章 ― もう、どうでもいい

目を覚ました。


視界に入ったのは――

あの男だった。


煙草を売っていた、あの男。


……あいつが、すべての元凶か?


最初から――ずっと?


男はゆっくりと歩み寄り、口を開いた。


「ようこそ、俺の世界へ――“白の実験場”へ」


「どうだった? 実験は……タイ?」


……なぜ、俺の名前を知っている。


俺は名乗っていない。

何も話していない。


それなのに――


男は愉快そうに笑いながら言った。


「不思議か?」


「お前は分かりやすい。調べるまでもない」


「それに――お前の情報は、すでに出回っている」


「懸賞金は800万だ」


「サカから聞いていないのか?」



……指名手配?


そんなはずは――



サカを見る。


……目を伏せていた。



胸の奥が、軋む。



「サカ……どうして言わなかった」


「俺は……お前と一緒にいた」


「病院でも、ずっと――」


「どうしてだ」



静寂。



そして――



「お前は、俺の弟子じゃない」



時間が、止まった。



「ただの……ゴミだ」


「道端に捨てられていた、それだけの存在だ」



――何かが、崩れた。



身体が冷える。


視界が揺れる。



……また、置いていかれるのか。



嫌だ。



やめてくれ。



一人は――嫌だ。



暗闇も、寒さも、あの路地も――


もう、戻りたくない。



「……冗談、だろ?」



声が、震えた。



だが――


返事はなかった。



代わりに、男の笑い声が響く。



「はは……なるほどな」


「また捨てられたのか」


「じゃあ――ここで殺しても、価値はないか?」



何も言えなかった。



ただ――涙が止まらなかった。



サカが、口を開く。



「……ああ」


「そいつを殺しても、意味はない」


「殺すなら――俺を殺せ」



……は?



お前が……死ぬ?



なんでだよ。



なんで――そんなことを言う。



その瞬間――



闇が、すべてを呑み込んだ。



サカも、男も――消えた。



落ちる。



どこまでも。



底のない闇へ。



その中で――



“何か”が現れた。



俺を見た。



そして、消えた。



次の瞬間――


声。



「お前は、自分を過小評価しすぎだ」



……どこだ。



「お前は、ここに来るべくして来た」


「なら――殺せるはずだ」



「……なら、お前が代われ」



沈黙。



そして――笑い声。



「馬鹿だな」



「俺は、お前だ」



「お前は“感情”」


「そして俺は――“理性”だ」



……理解した。



俺は――弱い。



「だが、見くびるな」



「何かを捨てる覚悟があるなら――道は開ける」



「サカを救いたいなら……進め」



声は消えた。



静寂。



――そして。



光が消えた。



何も見えない。



だが――立ち上がる。



現実へ戻る。



男の声。



「無駄だ」


「お前は鎖に繋がれている」



俺は腕を動かす。



擦る。



削る。



皮膚が裂ける。



血が流れる。



それでも――止めない。



音。



肉が剥がれる音。



男の気配が変わる。



「おい……何をしている」



遅い。



引き千切る。



腕が、自由になる。



俺は袋に手を伸ばす。



口で針を取り――



刺した。



アドレナリン。



限界を、超える。




暗転。



倒れる。



遠くで、笑い声。



「自滅か……くだらない」


「所詮、ゴミはゴミだな」



……その時。



光。



内側から。



「……あり得ないな」



声が、笑う。



「そこまでやるとはな」



「代償は――理解しているな?」




立ち上がる。



血が、視界を覆う。



身体は――死んでいるように重い。



だが――動く。



まるで――操られているように。



男が銃を構える。



――遅い。



糸を放つ。



銃が、断ち切られる。



一瞬だった。



男の顔が歪む。



恐怖。



その瞬間――



俺は言った。



「一度、死んだ」



「……お前を殺すためにな」




違和感。



後ろ。



反射。



スコープの光。



――狙撃。



弾を避ける。



だが――



サカに当たった。



「……サカ!!」



視界が赤く染まる。



狙撃手を見る。



逃がさない。



糸で拘束。



地面に叩きつける。




その前に――



男。



手を上げている。



命乞い。



関係ない。



斬る。



上から、下まで。



蹴る。



頭が転がる。




サカへ向かう。



その瞬間――



二発目。



俺は前に出る。



受ける。



腹を貫通。



……そして。



サカにも当たった。



「……っ!!」



血が止まらない。



時間がない。




狙撃手へ。



糸で煙を払う。



近づく。



装填中。



――顔が見えた。



……見覚えがある。



「お前……」



「公園の……サンドイッチ屋か?」



震えている。



「……ああ、そうだ」


「がっかりしたか?」




……もういい。



全部。



どうでもいい。




「……美味かったよ」




斬る。



肉片になる。




静寂。




(第二十三章・完)

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