第72話 「肉が固いですし、この豚さんは安物ですわ」
……そう、まだ奴が。あの豚がいる。
──ズシン!
またあの足音が響き、大地が揺れ木々達がざわめき出す。
「ブヒィ!」
そして巨大な豚の化け物が、その姿を表す。
「……何だっ、あの化け物は!?」
「あの様な化け物、この世に居る筈がっ!?」
その恐ろしい化け物の姿に、味方の兵達も驚き皆、恐怖した。
……いや、ただ一人を除いては。
「ガルガ隊長。あの豚さんは、隊長の剣も通りませんわ。ここは私にお任せになって。」
「……ひ、姫様!?」
──だだだだだっ!
ラミスは豚に向かって一直線に走り、突撃して行った。
──ラミスの目が鋭く光る。
──バッ!
「プリンセスキックですわ。」
豚に豪快な飛び蹴りを入れ、そしてそのまま華麗に空中を舞い、力いっぱい豚を殴り付けた!
……ラミスの試したい事、それは。
クリストフ将軍が言っていた、あの言葉である。
──己の拳に、自ら闘気を纏わせるのです。
……拳に自らの闘気を、纏わせる!
ラミスは、クリストフ将軍のその言葉をイメージし、ひたすら豚を何度も殴り続けた。
──ドゴォ!
…………。
「いった!」
…………。
「いったーい、ですわー。>_<」
「……ブヒィ!」
豚はびくともせず、砕けたのはラミスの腕の方だった。
……当然だろう。最初からそんなに上手く出来るなら、苦労はしない。
クリストフ将軍もまた、長い年月を掛け血の滲むような努力により、その技を扱える様になったのだろう。
ラミスはそもそも、闘いにおいては素人同然である。そのラミスが一回やってみた所で、使える筈が無いのは当然の事だった。
…………。
ラミスは天井を見つめていた……。
「ム、ムリですわー。」
真っ白になり、また口の中からミニラミスがこんにちは、をしていた。
コンニチワデスワー。
……ぱたぱた。
…………。
しかし、ラミスはすぐに立ち上がる。
「この程度で、挫けてなどいられませんわ!愛する民達が、子供達が……。私の助けを待っているのですわよ!」
そう、ラミスは……。民や子供達に必ず助けると、そう約束をしたのである。
……必ず助けると!
ラミスは走り出す。
「闘気が使える様になるまで、何度も挑み続けますわ!決して諦めませんわ!」
ラミスは勢いよく、扉を開け放つ。
──バッ!
「何だっ!?貴様は!」
……そして始まる、ゲイオルグとの"死闘"。




