第280話 「礼儀知らずですわ」
「……えっ!?姫様!?一体、何を仰って───。」
ラミスの表情が険しい表情へと変わる。
「こんなに近付かれるまで、敵の気配に気が付かないなんて……。私も、まだまだですわね。」
「えっ!?」
驚きの連続により、既に頭が混乱状態になっているメイドのロクサーヌ。……しかしロクサーヌも、すぐにそれを理解する事になる。
「…………。」
ラミスには分かっていた。先程の件もそうであるが……。ラミス程の実力者になると扉に近付くだけで、その人物が誰なのかを、ある程知る事が出来るのである。
扉を叩く音、近付く足音、忍び寄る気配……。そして、その者が纏う闘気と殺気───。
"心眼"の修行を終えたラミス姫の五感は研ぎ澄まされ、既に武の境地に達していた。
その為、ラミスは扉の向こう側に居る化け物の存在に気が付いていたのである。
「危険ですわよ、ロクサーヌ。私の後ろに下がっていて下さいませ。」
「……えっ?きっ、危険?」
──ギイィィィィィィィィ。
そして不気味とも思える様な軋む音を立てながら、その扉はゆっくりと開かれていく。
この部屋は仮にも一国の姫君、ラミス姫の寝室である。本来であれば扉を叩いて名前を名乗り、許しを貰ってから扉を開けるのが礼儀なのだろう。
訳が分からず混乱するメイドのロクサーヌだが……。突如開かれる扉に漸く状況を理解し、その表情が次第に恐怖へと変わっていく。
「キャアアアアアアアー!!」
そしてその怪物の恐ろしい姿に凍り付き、ロクサーヌは恐怖のあまり叫び声を上げた。
「ブモォ!!」
──牛鬼〈ミノタウルス〉。
二人の前に現れた、その怪物は───。牛の頭を持つ、恐ろしい姿をした怪物だった。
──ドガッ!!
巨大な斧を振り上げ、ラミスとロクサーヌに襲いかかる牛鬼。その凄まじい一撃は、扉もろとも床までも打ち砕いていた。
──!?
後方に飛び上がり、攻撃を華麗に回避するラミス姫。
……しかし目の前に居る怪物牛鬼は、豚とは比べ物にならない程、強力な怪物である事がラミスには一目で理解出来た。
豚程、硬い外皮は持っていないだろう。……しかし人狼に匹敵する程の高い敏捷性と、その強靭な肉体と怪力より、凄まじい一撃を放つ古の怪物。
──牛鬼〈ミノタウルス〉。
対するは、プリンセス神拳伝承者。ツインデール公国第三公女。
──"拳王"ラミス。
そして、そこから放たれる蹴技。プリンセス神拳"超奥義"四十七式昇華。
──真・プリンセス雷鳴脚。
──ズガシャーン!!
奥義を放ち、古の怪物牛鬼を一撃で葬り去るラミス姫様。
「淑女の部屋に、ノックもせずに入るなんて……。全く、礼儀知らずな牛さんですわね。」




