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七月十六日(日) 午後六時 月牟呂神社前

「よーーし、みんな揃ったね。それじゃあ出発するよ」


昨日はあのあと、適当な時間まであのメンバーで雑談をしていた。タイミングを見計らって、海瞳さんには耳元で『じっくりと考えることは良いことだ。でも、返事はしっかりとしてあげるんだよ』と言われた。……いったいどこまでわかっているんだこの人。

そして今日はお祭り二日目。ぼくたちは集まって花火がきれいに見える場所まで行くんだけど……。


「まさかお前たちがいるとは思わなかったぜ……」


「別にいてもいいでしょ。珠々(みみ)だって海瞳に誘われたんだし」


「あぁ、彼女はトクベツだ。図書館でお世話になったぶん、やさしくしてあげないとねぇ」


「……なんか、すごくヤな気分」


彼女は安居院 珠々(あぐい みみ)。ぼくたちと同じクラスの女の子で『安居院グループ』という会社の一人娘。有名どころで言えば女子学生たちに人気急増中の香水<シープ>シリーズを生産している会社の親会社。その他食品、衣服、化粧品などの分野でも大手である。日本の中で比肩する会社は今のところない。目がぱっちりしていて人形みたいだけど、生粋のお嬢様のため自然に人を使おうとするのが玉に(きず)。図書館が午後三時で閉まったのも、そのあとの時間を安居院さんが貸し切りにしてほしいって頼んだかららしい。この話を聞いたとき、図書館って貸し切りにできるんだって思ったけど、そういえば私営の図書館だった。……でも貸し切りの図書館で何をやってたんだろう。

もちろん彼女が海瞳さんと関わりがあったことにも驚きだけど、ぼくが一番驚いたのは……。


「私がいてもいいんでしょうか?」


「大丈夫だと思うよ。新田さ……真弓」


なんと、安居院さんと一緒に真弓さんもいる!

この二人、学校で話しているところ見たことないけど仲が良いのかな?


「うむ。問題ない。皆が仲良くすることが条件だが……上級生であるワタシたちのほうが肩身は少し狭いかな?」


「大丈夫。だって私よ? みんなと話せるの楽しみなんだから!」


「俺もまぁ……このメンツなら大丈夫だろう。いざとなったらシュンエイとツバキがいるしな」


さすが、学校内でも噂になる人たち(そのうちの一人が自分の姉なのは複雑だけど)、臆することなくみんなの輪の中に入っていける。ぼくたちは足元を照らして転ばないようにしながら裏山の山頂を目指す。普段は月牟呂神社によって管理されていて、山頂も簡単には入れない場所なんだけど、海瞳さんと雪瓜が神主であるお父さんに交渉して許可をもらったみたい。


「あの人も最初から私たちのことを認めてくれてればよかったのに……」


「まあまあ。これからだよ。一回崩壊しかけたワタシたちだがこれからうまくやっていけばいい。そのためにはそれぞれの歩み寄りが大事だ……わかってくれるだろう」


口をとがらせる雪瓜をやさしく諭す海瞳さんはちゃんとお姉ちゃんをしている。昨日の夜、ぼくたちが帰った後、親子でこれまでのことや、事件について、そしてこれからのことを時間をかけて話し合ったらしい。恨んでいたからと言っても、父親に何も知らせず襲撃(しゅうげき)させたからどこか胸が痛んだみたいだ。無事に和解できた後、さっき海瞳さんに『やっと、一つ。肩の荷が下りたよ』と言われたときは、びっくりした。この人、後なん個自分で抱え込んでいるものがあるんだろう?


でも、話し合いで和解できた海瞳さんや雪瓜の未来はきっと明るいものになるはずだ。


(ぼくもいつか……自分の意志を自分で伝えられるようになったら、あのわだかまりも解けるのかな?)


姉に頼らないで自分で何とかしたい。……できれば高校受験について話し合うタイミングより前に。 でも今はひとまず、みんなで花火を楽しもう。


 山頂までは神社から十分近く歩く。普段、車で中学校に通ってきている安居院さんは、ぜぇぜぇと息を切らしてた。それでも雪瓜が肩を貸してあげたり、みんなが励ましたりして全員で来れた。

雪瓜もこの前会ったときに比べて、人と接することが出来るようになっている。彼女なりに大きな一歩を踏み出している最中だと思う。テストでも、やさしくなったりしないかな……。

山頂は開けており、木に邪魔されずに町を一望できる場所だった。隣駅のデパートもよく見える。端には、ちょんっと祠が建てられている。石で建てられたものでぼくのお腹までの高さだ。中にはお地蔵さまが入っている。


「その祠には水子地蔵尊が祀られていてね……行事でここまで来ることもあるのさ」


そう言いながら海瞳さんは持ってきたレジャーシートを広げた。かなり大きく、全員が座ってもまだスペースに空きがある。みんなが持ち寄ってきたものをその上に出す。ぼくは、図書館の時と同じで母さんが作ってきた料理が大量に入ったランチボックスバスケットを持ってきた。みんなに合えばいいけど……。

これだけの人数がいたらだいぶ食事も豪華だ。駿英は魚料理、花梨は手作りのお弁当……前よりも上手だ。山本先輩はスーパーで買ってきたファミリーパックのお菓子が何種類か。海瞳さんと雪瓜は昨日と同様、屋台の食べ物と飲み物。安居院さんは……でかっ!? 重箱に敷き詰められた料理は名前はわからないけど、きっと高いんだろうなぁ……。真弓さんはサンドイッチを作ってきたみたいだ。読書をしながらでも食べやすい。そして、姉は……ぼくに弁当箱を持たせて一人手ぶらで山を登っていた。おかげで足腰にかなり()()


「まるでお花見みたいですね」


「何を言ってるんだ。『花』火も立派な花さ。我々は一番大きな花を見ながら団らんするのさ」


「……あいかわらず口が達者なようね」


真弓さんの言葉に海瞳さんが答える。真弓さんは感心したように海瞳さんを見る。彼女の横で雪瓜もうんうんと頷いている。安居院さんが彼女たちに聞こえないくらい小さな声でつぶやく。本当にその通りだよな……。


「そんなことより早くご飯を食べましょ! もう待ちきれないわ!」


「おれもッス! まだスか!?」


目の前のごちそうの山に目を輝かせながら姉と駿英が言う。その光景を見て山本先輩が大笑いしている。


「おっ、お前ら面白過ぎるっ! 『花より団子』ってお前たちのための言葉だろっ」


「たしかに……楓さんとしゅんえいにはよくあってますね、その言葉」


花梨の苦笑いは珍しいな。お花見……乾杯もしていないし、花火もまだだしで始まる前から混沌を極めているけど、きっと今までで一番楽しい日になるだろう。楽しまないと損だ。ぼくも彼らの中に混ざりに行った。

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