三十九.引っ越しは面倒
延々数里にもわたり列が出来ている。
皇帝の御物財宝だけでも数百輌、そこに後宮の女人などを乗せた車を含めると、その数は千でも足りないほどであった。
加えて兵士と民である。
騎馬歩兵の軍隊から、一般ピーポーの民たちまでもが従っていくので、此度の移動は前代未聞の大引っ越しとなっていた。
そのタイミングを待っていたかのように劉備は動いた。
総勢五万。
袁術軍御一行が徐州の近くに来ると、劉備を真ん中に、鶴翼の陣にて彼らに攻めかかった。
※鶴翼の陣
自軍の部隊を、敵に対して左右に長く広げた隊形
さすがは曹操の一軍である。
よく訓練された兵たちは、劉備の命に気早く動き、瞬く間に袁術軍に近づいた。
「なんと小癪な!下民の分際で無礼無礼!匹夫の勇などはねのけぃ!!」
袁術の命により、大将の紀霊が討って出る。
それ見た張飛、名乗りを上げて、いざ推参。
「沈めぇーーーーッ!!」
その一騎打ちは十合と打ち合わなかった。
一突。
剣劇をすり抜け、張飛の蛇矛が紀霊の胸に穴をあけた。
「うっ!? うっ!うっ!うっ!うっ!うわぁ!!」
紀霊死亡!終わり!以上!解散!
「死にたい奴からかかって来い!」
まるで少年漫画の主人公のようなセリフを吐き、張飛は敵陣へと突っ込んだ。
血まみれの野獣が矛を振り回し迫りくる。
それだけで兵たちは皆恐ろしかった。
「アイム、アフレーイド!!!(=私は恐れています)」
自分の命が一番大事。
袁術の兵たちはピョコピョコと逃げ回り、戦う戦意を完全に失ってしまっていた。
「ええい!この馬鹿!この馬鹿!この馬鹿チンども!戦え!!」
後方で袁術が喚き立つが、そんなモノは無駄!無駄!無駄!である。
劉備の軍と袁術の軍では兵の質が違い過ぎた。
経験、気合、根性、タフネス、歯ごたえ、甘味、ほろ苦さ、初恋の味、キットカット、その他もろもろ全てが袁術軍の上をいっていた。
「死死死死死死死死死死死死死死死死死!」
「苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦苦!」
「痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!」
袁術の配下の者たちは悲痛な叫びをあげて打ち減らされていき、テトリスのブロックのように、次々と隊が消滅していく。
「むむむ・・・! もっと兵を繰り出せ!後方の兵を前方へと出すのだ!!」
怒り、喚き散らしながら指揮を執る皇帝袁術。
そんな皇帝の命を受け、せっせと命を散らす兵たち。
しかし、必至な彼らの健闘も空しく、この後、彼らにさらなる悲劇が起きるのであった。




