【1話目】男子高校生と待ち合わせた女装男子高校生
待ち合わせは、公園の噴水前のベンチ。
ルームメイトの柳原 珠里にコーディネートしてもらった、履き慣れないスカートは、どうにも動きづらかった。
約束の午前11時。
先に来ていた相手の男、青樹 海斗の顔は、写真で見せてもらったのよりずっといいなって印象。
ひとつ年上の高校2年生、イケメンだなって思った。
爽やかそうで好感度はばっちり。
海斗の座っているベンチにそろりと近づくと、すぐに気づいて顔をこっちに向ける。
「さくらさん?」
名前を呼ばれ、ハイと答える。
「青樹 海斗です、初めまして」
「あ、ども」
もともと海斗には、珠里が会うはずだったけど、まあいろいろ事情があってね。
「さくらちゃん、ごめんね、今日は突然来てもらって」
恐縮したように海斗が謝る。
「…いえ…」
珠里から多くをしゃべるなって言われている。
「さくらちゃん、緊張してる?」
顔をのぞきこまれ、ハッとして顔をそらす。
あんまり間近で見られると困るんだってば。
うつむきがちに、海斗とあんまり目が合わないようにした。
「人見知りすんのかな」
こくり、とうなずく。
「そっか、なんか初々しくていいなー」
喜ばれてしまった。
風が気持ちよかったけど、スカートがひらひらして、めくれてしまわないかって、そればっか気になってんだけど。
「そうだ、お腹すかない?」
海斗に言われて、急にお腹がグーッと鳴る。
腹減ったな。
2人でファミレスに行き、席につき料理を注文すると海斗が聞いてくる。
「珠里ちゃんと一緒に住んでるんだって?」
「はい」
行くあてのなかった珠里を、たまたま引き取っただけだけどね。
実は、珠里のことは以前から「いいな」って思ってた。
珠里、失恋直後だったからさ、心のすきにつけこめるかな、なんて下心もあったんだ。
うん、ここらで素性を明かそうと思う。
さくらちゃんっていうのは、名字だ。
佐倉 陸、俺は正真正銘の男なんだ。
でも、全然男に見られない。
私服だと99%くらいは、女って思われる。
「珠里ちゃん、ぎっくり腰、大変だったね」
仮病だけどな。
俺は無言でうなずいた。
ほんとは、珠里が来るはずだったけど、今朝、珠里の元カレ、弘人から電話があったんだ。
「わたし弘人にあいたい」
とか言い出すからさ、俺がこんな女装してまで海斗に会いにきたんだけど、それにも事情があった。
「和泉にあんたが男ってバレると困るんだよね」
和泉ってのが、今回海斗を紹介してくれた女で、珠里と同じバイト先の子。
ルームメイトが男だと、都合悪いんだって。
だいたいさ、珠里、俺が一緒に住んでるってのに、ほかの男を紹介してもらってんじゃねーっての。
でも珠里はいつも言う。
「陸にはまったく男を感じないんだよね」
って。
そりゃ、身長だって珠里とほとんど変わらないよ?
けど、中身はちゃんと男なんだけどな。
顔が女の子みたいってだけなのに、男扱いされてない。
「珠里ちゃんってかわいいんだってね、拓のやつが、あ、親友なんだけどね、言ってたんだよ。それで会えるの楽しみにしてたんだよ」
拓ってのは、和泉の彼氏なんだって。
ふーん、そりゃ残念だったな。
たぶん今頃珠里は弘人とよろしくやってんじゃね?
寄り戻ってると思うよ。
またの機会に海斗とは会う、なんて言ってたけど、またの機会なんてあるかよ。
「でも、さくらちゃんに会えたし、良かったなって思い直した」
海斗、おまえ、そんなにこやかに言ってるけど、後悔するぞ。
「さくらちゃん、彼氏いるの?」
聞かれたとき、口いっぱいにハンバーグもぐもぐしてたんで、ぶんぶんと首を横にふった。
いたらこんなとこ来るかよ、てゆーか、彼氏いたらヤバくね?
「そっか、かわいいのに、モテるでしょ?」
俺は首をかしげて曖昧に笑ってみた。
モテるかモテないかって言ったら、モテないと思う。
だって、女の子から男感じられねーんだもん。
過去にも女の子から
「陸くんってかわいすぎて無理」
「背が小さいのね」
とか、そういうことばっか言われるから、こっちからお断りだぜ。
「さくらちゃんって、笑うとめちゃくちゃかわいいんだね」
そうだろ? よく言われるんだ。
なんか海斗が嬉しそうだから、サービスでにこにこ笑ってやった。
首かしげたりとか、適当にふわふわ笑ってるだけでいいんだろ?
何とかその場を乗り切って、でもかなり疲れてしまった。
だからファミレスを出てから海斗と映画館に入ると、速攻で眠ってしまった。
「さくらちゃん」
海斗に起こされ、ハッと目を覚ましたときは、とっくに映画は終わっていて、館内は明るくなってた。
「良く眠ってたね、映画、つまんなかった?」
「ご、ごめんなさ…」
よだれ垂らしてたかも、と口の周りを手で触ってみる。
いびきかいてなかったかな?
海斗、いかにも女の子が好きそうなのを選んでくれたんだろうけど、俺はそんなのあまり興味ない。
ちらっと隣の映画に目を向けたのを海斗が見てたらしい。
「そっちのが良かった?」
「え、うん」
正直にうなずいてしまった。
いかにも男らしいやつに。
「そか、正直俺も、こっちのほうが良かったんだ、けど女の子ってこういう乱闘シーン多いの、嫌かなって思ったんで」
だからラブストーリーにしたけど、って
「せっかくだから、こっちも見てく?」
「あ、いや」
「そか、もう遅くなるもんね」
今度にしようかって海斗がにっこり笑うんだ。
完璧、女の子扱い。
悔しいけど、海斗って俺より15センチは高いだろ?
かっこいいし、性格も悪くなさそう。
珠里だって今日会ってたら、惚れちゃったんじゃね?
でも残念だったな、あいつは元カレを選んだ。
映画館を出て近くの公園のベンチにすわって、海斗と並んでジュース飲んだ。
夏も終わってそろそろ秋の気配を感じる。
夕方になると少々肌寒い。
スカートなんかはいてるから、余計に寒かった。
「さくらちゃん、ショートカット似合うね」
「ども」
「さくらちゃんって、ジャンプとか好きそうだよね」
「あ、うん好き」
「そっか、気が合うな、俺もジャンプ好きなんだ。部活とか入ってるの?」
「え、剣道」
「嘘! マジ? 俺も剣道やってんだ、すっげー!」
趣味が同じなんだな、ほんと偶然、すげーな。
親近感はわいてきたかも。
海斗は帰り、俺んちまで送ってくれた。
「今日はありがとう、楽しかったよ、さくらちゃん」
そっか? 楽しかったか? あんましゃべってないのに?
でも一応、こくりとうなずいておいた。
「じゃ」
と行きかけた俺の背中に、海斗が呼びかけた。
「あのさ!」
くるりと振り向くと、すぐそこに海斗がいてびびった。
「また会える?」
いや、それはちょっと、うんとは言えないよな。
「珠里ちゃんじゃなくて、さくらちゃんと会いたい、だめかな」
だめだろ。
会い続けちゃバレるだろ。
っていうか、もう男だってバラしちゃおっかな。
いや、だめだ、珠里に怒られる。
俺が迷ってると思ったのか、海斗はさらに口説いてきた。
「せっかく出会ったんだ、このまま終わるのは俺、なんか嫌だ。まだ会ったばっかだけど、これからもっと、さくらちゃんのこと知りたいって思った。友達からでいいんだ、また会って欲しい」
考えといて、と海斗は言って、来週の土曜の同じ時間、同じ場所で待ってるという。
その真剣な顔に、どうにも断れず、
「わかった」
なんて約束しちゃったんだけど、いいのかな、どうなるんだろ?




