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目指すべきは電車の中で読みたくない作品。


対戦よろしくお願いします。

 ヴォォォォン……、ヴォルルルルン……ッ! ガクンッ、プスン……。


 春。万物が息吹き、若人たちが希望に胸を膨らませる4月の朝。

 稜風りょうふう学園の正門に、漆黒の流線型ボディを輝かせた一台のバイクが、ガタガタとぎこちない半クラッチで滑り込んだ。

 俺の愛車、HONDA『CBR250RR』だ。


 登校してくる大勢の生徒たちが道を空け、驚いたようにこちらを振り返る。

 俺――結城ゆうき 悠馬ゆうまは、ヘルメットのシールド越しにその視線を浴びながら、校舎の入り口に一番近い、なぜかポツンと空いていた広めの駐車スペース(※注:校長専用スペース)に単車を停めようとし――。


 プスンッ。

 無情な音と共に、本日3度目のエンストをかました。

 ガクンッ!と車体が前のめりになり、慌てて両足で地面を蹴って立ちゴケをギリギリのところで回避する。

 ……危ねぇ。教習所を卒業したての初心者に、250ccの車重はまだ少しばかり荷が重い。心臓がバクバクと跳ねているが、絶対に焦りはおくびに出さない。


 俺は「あえてここで停めた」という余裕たっぷりの所作で鍵を回し、なかなかニュートラルに入らないギアペダルと密かに格闘しながら、ようやくサイドスタンドを立てた。ゆっくりとヘルメットを脱ぎ、少し潰れた前髪を気怠げに手でかき上げる。


「……ヒソヒソ……ねえ、見てあの人」

「うそ、あんな所にバイク停めてる……ていうか今、思いっきりエンストしてなかった?」

「一年生だよね? あのネクタイの色って……」


 周囲を歩く一般生徒たちから、ヒソヒソとした囁き声が漏れ聞こえてくる。

 稜風学園はトップクラスの進学校でありながら、特例でバイク通学が許可されている珍しい学園だ。とはいえ、入学初日から中型バイクで、しかも一際目立つ特等席に、エンストをかましながら乗り付けてくる一年生など前代未聞だろう。


(フッ……見ろよ。みんな俺の圧倒的なオーラに釘付けじゃねぇか)


 周囲のザワつきを「不良っぽいけどイケてる俺への黄色い歓声」だと都合よく脳内変換した俺は、口角を上げ、会心の『ドヤ顔』をキメた。


 俺の胸元には、一般の普通科生徒が締めている紺色のネクタイではなく、選ばれたエリートだけが身につけることを許された『真紅のネクタイ』が輝いている。

 そう、俺が入学したのは、進学校であるこの稜風学園の中でも、さらに偏差値が飛び抜けて高い隔離されたエリート集団――「特進クラス(英文科)」なのだ。


 超高偏差値の証である真紅のネクタイを締めながら、愛車はゴリゴリのスポーツバイク。

 知性と狂気を併せ持つ、孤高のハードボイルド。

 俺の完璧すぎるステータスに、周囲の女子生徒たちもさぞかしメロメロになっていることだろう。俺はわざとらしく制服の上に着こんだライダースジャケットの襟を立て、特進クラス専用の別棟へと続く渡り廊下を、風を切って歩き出した。


 俺がここまでして「完璧な男」を演じているのには、深い理由がある。


 俺の母親は、名前を検索すれば一発で出てくるような有名なピアニストだ。その異常なまでの英才教育のせいで、俺の幼少期は白と黒の鍵盤だけで構成されていた。

 やればできてしまう才能。だからこそ徹底的に。毎日毎日泣きながらピアノに向かい、メトロノームの無機質な音と向き合うだけの、色のない孤独な日々。


 そんな息が詰まって死にそうになっていた俺を、外の世界へ引っ張り出してくれたのは、近所に住んでいた「バイク乗りのお姉さん」だった。


『そんな辛そうな顔してても、楽しくないだろ! ほら、乗れよ!』


 彼女は、泣いていた俺の腕を引き、笑い飛ばしながら自身のバイクの後ろに乗せ、夜の海へと連れ出してくれたのだ。背中に感じるエンジンの鼓動、顔を叩く夜風。その時、俺は初めて「自由」を知った。

 そこから俺は、バイクという乗り物に狂ったようにのめり込んだ。


『俺もあんな風に、最高にクールな大人になりたい』


 そして何より、モテなかった灰色の人生にバイバイして、女の子に囲まれる輝かしい青春を全力で満喫したい!

 俺はその「モテたい」という底知れぬ童貞力を最大限に発揮し、睡眠時間を削って血反吐を吐くような猛勉強を敢行。この特進・英文科への切符を執念で掴み取ったのだ。


 なぜ「英文科」なのか?

 それは、文系特化というカリキュラムの性質上、女子が圧倒的多数を占めるだけでなく、この学園の英文科は『なぜか毎年、男が少なく異常なほど美女が集まる』ことでも有名だったからだ。


 そして、モテる男の象徴として「バイク乗り」のステータスを得るため、4月2日生まれという「学年で最も早く16歳を迎えられる特権」をフル活用。中学卒業と同時に合宿へ特攻して最速で免許をもぎ取り、親に泣きついて莫大な「親ローン」を組み、あの愛車を手に入れた。


(完璧だ。俺はもう、ピアノの前で泣いていたモヤシじゃない。過去は捨てた。今の俺は、己の道を切り拓く最高の爆モテ男だ!)


 特進クラス専用の別棟、その最上階。

『1年A組(英文科)』のプレートが掲げられた教室の前に立ち、俺は息を整えてから、勢いよく扉を開けた。


 ガラッ。

 開けた瞬間、フローラルで甘いシャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。

 今年のクラスの男女比は、事前の情報通り「女子26人:男子4人」。

 しかも噂通り、どの子も驚くほどレベルが高い。数字と顔面偏差値だけ見れば、ここはまさに男の夢、エデンの園、ラブコメという名のユートピアである。


(勝った……! この日のために、俺はすべてを捨ててきたんだ……!!)


 教室の空気を深く胸いっぱいに吸い込みながら、俺は心の中で力強いガッツポーズを決めた。

 ゆっくりと自分の席へと歩みを進めながら、俺はすでに最後列に固まって座っていた「残り3人の男子」と視線を交わした。


 ――バチバチバチッ!!

 言葉を交わしたわけではない。だが、空中でお互いの視線がぶつかり合い、明確な火花が散ったのがわかった。

 巨漢の男、やたらとチェーンをジャラジャラさせている男、そして不自然なほど巨大なカメラを提げている男。

 俺は自分の席に腰を下ろしながら、鼻で笑った。

 そして、それは俺だけではなかった。あとの3人もまた、お互いの顔を見回しながら不敵な笑みを浮かべていたのだ。俺たち4人は、全員が全く同じことを考えていた。


『3人とも中の中ってとこだな。中の上の俺ならこいつらなら勝てる!! このクラスで俺が一番カッコいい!!』と。


「はい、席につけー。ホームルームを始めるぞ」


 パンパン、と出席簿を教卓に叩きながら教室に入ってきたのは、スーツを気怠げに着崩した女性教師だった。


 神崎かんざき先生。クールでドライな空気を纏った、どこかヤサグレた雰囲気のある担任だ。


「まずは入学おめでとう。今日から一年間、お前らの担任になる神崎だ。まあ、特進クラスなんて息が詰まるだろうが、適当に息抜きしながらやれ。……じゃあ、最初は自己紹介だ。出席番号順に、前の教壇に立って手短にやれ。まずは女子からだ」


 神崎先生の淡々とした指示で、自己紹介がスタートした。


「えーっと、青山です! 趣味はカフェ巡りと、最近はK-POPのダンスを覚えるのにハマってます! みんなと仲良くしたいです、よろしくお願いします!」

「「「わぁぁーっ! 可愛いー!! よろしくねー!!(パチパチパチパチ!!)」」」


「次、伊藤です。私は中学からバレー部でした。高校でも続けるつもりです! 英語が好きなので、この科を選びました。よろしくお願いしまーす!」

「「「バレー部なんだ、カッコいいー!!(パチパチパチパチ!!)」」」


 女子たちの自己紹介は、それはもう華やかで眩しかった。

 趣味や特技が発表されるたびに、教室中から黄色い歓声が上がり、盛大な拍手が巻き起こる。共通の話題を見つけては「私も好き!」と声を掛け合い、クラスはすでに和気あいあいとした最高にピースフルな空気に包まれていた。

 まさにお花畑。俺が夢にまで見た、キラキラとした青春の1ページがそこにあった。


 そして、出席番号は少しずつ後半へと差し掛かっていく。

 26人の女子たちの華麗なターンが終わり、いよいよ、名簿の最後尾に固まった俺たち「男子4人」の順番がやってきた。


 教壇に向かって歩き出すトップバッターである巨漢の男の背中を見つめながら、俺は座席で腕を組み、内心でほくそ笑んでいた。


(さあ、見せてみろ。俺はこの日のために、何日もかけて完璧な自己紹介を考えてきたんだ! 『モテる男』の生態も徹底的に学んできた俺の圧勝だ!!)


 しかし、この時の俺たちは、誰も気づいていなかった。

 自分たちが死に物狂いで磨き上げてきた「男のロマン」が、このピースフルな女子たちから見たら、ただの『キモい異常行動』でしかないという残酷な事実に――。




     ⭐︎




「次、男子。真須からいけ」


 神崎先生の気怠げな声に呼ばれ、いよいよ俺たち「男子4人」のターンが幕を開けた。

 トップバッターとして教壇に立ったのは、制服のシャツがはち切れんばかりにパンパンに張った巨漢、真須 剛太(ます ごうた)だった。


「真須剛太です。趣味は筋トレと、休日にキャンプに行くことです!」


 真須が屈託のない爽やかな笑顔でそう言った瞬間、女子たちから「あ、いいなー」「今流行ってるよね!」「荷物とか持ってくれそうで頼りになりそう」と好意的な反応が返ってきた。

 真須の顔がパァッと輝く。


「俺は己の肉体を鍛え上げるために、大自然の中でガチのサバイバルキャンプをしてる! 当然、良質なタンパク質も自給自足だ。ちなみにこれ、俺が昨日罠で捕まえて、自分で捌いて燻製にした野生のハトの肉なんだけど……誰か、俺の『獲物』、味見してみない?」


 真須はカバンの中からゴソゴソと謎の黒い肉塊を取り出し、ニチャァと笑いながら女子たちに差し出した。


「ヒッ……!!」

「いやあああ!! 無理無理無理!!」


 先ほどまでのピースフルな空気が一瞬で凍りついた。女子たちの顔に『野生のハト!?』『学園に得体の知れない生肉持ってこないで!!』という明確な恐怖が浮かぶ。

 女子のドン引き具合に焦った真須は、慌ててカバンの中をさらに漁り始めた。


「え? あ、ごめん! 鳩は嫌だった? あ、ほら、秘蔵の猪の肉が……え、とあ、は、蜂の子!!! 今朝蜂の巣見つけて潰してきたんだ!! とれたて!!」

「おい真須。お前、それしまえ」


 神崎先生が、氷のように冷たい声でツッコミを入れた。


「初対面の女子に自作の野生の肉や虫を勧めるな。率直にきもいな!! 衛生観念どうなってんだお前は」

「えっ!? あ、いや、キャンプ好きはモテるって本で読んだのに……!」


 パチ…………パチ…………。

 教室に響いたのは、お通夜のようなパラパラとした哀れみの拍手だった。


 真須は絶望の表情で席へ戻っていく。俺は心の中で彼を切り捨てた。


(初手でバイオハザードとか終わってんなコイツ。1人目はただのサバイバルゴリラだ)



【2人目:マザコン中二病】


 次に教壇に立ったのは、前髪を長めに伸ばし、無数の金属チェーンをジャラジャラ鳴らす男、氷室ひむろ 蒼牙そうがだった。


「氷室蒼牙です。趣味は音楽鑑賞と、自分で曲を作ることかな」


 その言葉に、女子たちが『お? 今度はいいじゃん!』『バンドマンかな?』と再び期待の目を向ける。しかし、氷室はアンニュイな声で自らトドメを刺しにいった。


「……でも、同世代のポップスとか上辺だけの薄っぺらい会話って好きじゃないんだよね。普段は北欧のアンビエント・デスメタルとか聴いてるし。俺は魂の慟哭をポエムにするのが得意なんだ。今朝ママンに見せたら大絶賛してくれたから、クオリティは保証するぜ」


(((ママン……ッ!?)))


 完全に引いている女子たちを他所に、氷室は自分の世界に入り込んだまま、気怠そうに前髪をかき上げ、流し目を送った。


「もし、この退屈な学園生活から逃げ出したくなったら、声かけてよ。俺のイヤホンの右側……君のために、いつでも空けておくから」

「おい氷室」


 神崎先生が、頭を掻きながらため息をついた。


「お前『も』滑ってるぞ。いい歳してママンは大分キツイ。それにそのジャラジャラしたチェーン、明日から外してこい」

「なっ……! 俺の魂の鎖を……ッ!」


 その時だった。

 パチパチパチパチパチ!!

 教室の後方から、ただ一人、真須だけが「ようこそこちら側(不可触民)へ」と言わんばかりの、満面の笑みで盛大な拍手を送っていた。


「ち、ちくしょおおおおぉぉっ!」


 氷室は顔面を蒼白にして叫びながら早足で教壇を降りる。


(マザコン中二病とか絶望的にサムい。バンドマンとかもキャラ付け濃すぎて滑ってるし。俺のライバルにはなり得ないな)




【3人目:ロリコン盗撮魔】


 3人目として立ち上がったのは、見た目は至って普通の大人しそうな男、篠山しのやま 朔太郎さくたろうだった。


「篠山朔太郎です。趣味はカメラです! 休日はよく、綺麗な風景とかを撮りに行ってます」


 爽やかな笑顔。女子たちも『おー、カメラ男子!』『まともな人が来た!』と安堵の表情を見せる。


「でも、俺が本当に撮りたいのは女神ミューズなんだよね。君たちの飾らない、無防備な笑顔……俺のこの望遠レンズで、遠くからこっそり狙い撃ちさせてもらうから、覚悟してね?」


 篠山は首から提げた一眼レフの望遠レンズを教室の女子たちに向け、ウィンクをキメた。

 女子たちが一斉に胸元やスカートを隠し、怯えたように体を縮こまらせる。『こっそり狙い撃ち!?』『それただの盗撮魔じゃん!!』という絶対的な拒絶のオーラが満ちた。


「おい篠山、お前なんか落としたぞ」


 逃げるように教壇を降りようとした篠山のリュックからポロリと落ちたものを、神崎先生が拾い上げる。それは、日曜朝の女児向けアニメ『魔法少女プルルン(6歳)』の特大アクリルスタンドだった。


「……なるほど。望遠レンズに、これか……。ロリコンの盗撮魔だな。クラスメイトを盗撮したら迷わず通報するからな」

「ち、違います! これは芸術への――!」


 パチパチパチパチパチ!!


 教室の後方で、真須ゴリラと氷室(中二病)の二人が「ようこそ!!」と満面の笑みで熱烈な拍手を送っていた。


「な、なぜ俺が……」


 篠山は完全に不審者認定を受け、顔を覆いながら席に戻る。


(堂々と盗撮宣言してロリコンバレとか犯罪者予備軍じゃねーか!これで3人死んだ!!普通にしてれば俺の勝ちは確定だっ!!)



【大トリ:主人公(悲しきバイクバカ)】


 そして、いよいよ最後。大トリである俺の番がやってきた。

 ここまでの3人の凄惨な大自爆リレーを見て、俺は内心で高笑いしていた。


(バカどもめ……! 俺はこの日のために、何日もかけて完璧な自己紹介を考えてきたんだ! モテる男の生態を徹底的に学んできた俺の圧勝だ!)


 俺はゆっくりと立ち上がり、教壇へ向かった。俺の完璧なプランはこうだ。


『結城悠馬です。趣味はピアノで、中学時代は有名なコンクールで賞を取ったりもしてました。でも、高校からは新しい風を感じたくて、4月2日生まれの特権を活かして最速で二輪免許を取って、バイクに乗って通学してます! よろしく!』


 知性と気品ピアノをアピールしつつ、アクティブで不良っぽい男らしさ(バイク)を見せつける。この圧倒的なギャップに、女子たちはメロメロになるはず。


 俺は黒板の前に立ち、大きく息を吸い込んだ。

 26人の女子からの一斉の視線。『お願いだから、もうこれ以上ヤバい奴は来ないで』という切実な祈りが突き刺さる。


(よし、いくぞ……! 趣味はピアノで……)


 ――しかし、次の瞬間。


(……あれ?)


 俺の頭の中が、真っ白になった。

 26人の女子からのプレッシャーと、前の3人が残した凄まじい「滑り」の磁場により、何日もかけて考えてきたセリフが、綺麗さっぱり脳内から消し飛んでしまったのだ。


(や、やべえ!! 考えてきたのに、頭が真っ白に……! 勉強ばっかでしばらく人とも喋ってないし、緊張が……っ、なんだっけ、次なんて言うんだっけ!?)


 沈黙が続く教室。女子たちの怪訝そうな視線。

 完全にパニックに陥りかけた俺の脳内に、なぜか直前の氷室(中二病)の痛いアンニュイな態度がフラッシュバックした。


(普通でいいんだ。普通で。そうそう、あいつらを参考にしない様に……)


 俺は焦りのあまり、咄嗟に前髪を揺らしながら、黄昏れた目を窓の外に向けた。



「……群れるのは、好きじゃねぇんだ……」



 瞬間、空気が死んだ。



 言った直後、俺の全身からブワッと嫌な汗が噴き出した。


(うわああああああ!! なに言ってんだ俺!? サムい! 痛い! 穴があったら入りたい!! てか死にたい!!!)


 女子たちの冷たい視線が、俺の心をメッタ刺しにしていく。

 その時だった。最前列の女子が、ハッとしたように小さく呟いた。


「あ、あれ……? 結城悠馬って……もしかして、あの有名なピアノのコンクールに出てた……?」


 ざわっ、と教室が小さく揺れた。


(やばい!! バレてる!? ピアノしかしてなくて、暗くて友達がいなかった過去がバレる!!)


 俺のパニックは最高潮に達した。ここで暗い過去を引きずった男だと思われては、俺のモテるバラ色の青春が終わる!

 俺は、震える膝を必死に抑え込み、半ばヤケクソで叫んだ。


「か、過去は捨てた!! 俺は今を生きてるぜ、子猫ちゃん!!」

「えっ……!?」

「風になりたいやつ、俺に言いな!! 俺の単車のタンデムシート……お前らみたいな『お姫様』のために、空けて待ってるぜ!?」


 言い切った。

 無音だった。

 前の3人の時のような、怯えやザワつきすらない。

 完全なる『絶対零度』の世界だった。


 彼女たちの顔には、『キッツ……』という純度100%のドン引きの文字が浮かんでいた。

 神崎先生が、心底哀れむような目で俺を見た。


「お前もか……。しかも3人を詰め合わせたような濃さだな。痛いヤンキー漫画みたいで見てるこっちが辛い。……まぁ、来世があるよ」

「…………ッ!!」


 その時だった。

 ガタッ!! と椅子を蹴る音がして、教室の後方から真須、氷室、篠山の3人が立ち上がり、俺に向かって割れんばかりの『スタンディングオベーション』を送り始めたのだ。


「「「ブラボー!! ようこそこちら側へ!!」」」


(やめろおおおおおお!! 俺をお前らの仲間に入れるなああああ!!)


 完全に社会的尊厳を失った俺に、神崎先生が無慈悲なトドメを刺す。


「あ、そうだ結城。お前、今日黒いバイクで登校して校長専用の駐車スペースにドヤ顔で駐めてただろ。さっき教頭がガチギレして、業者呼んでそのままレッカー移動されてたぞ」

「――――は?」


 親のローンで買ったばかりのCBR250RRの喪失。

 俺の心の中で、何かが完全に折れる音がした。


「ああああああああああああああああああッ!!」


 俺は両手で頭を抱え、絶叫しながら教室の扉を蹴り開けた。


 幼い頃からピアノの椅子にしか座っていなかった俺には、運動神経など微塵もない。

 俺は両手を胸の横でパタパタとさせる、絶望的にダサい『乙女走り』で、廊下の彼方へと泣きながら逃亡したのだった。


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