第36話 かりそめの旅
「そういえば、すっかり聞きそびれていたんだけど」
舞踏会から数日経ち、身を隠しながら次の国に向かう途中で僕はダリアに質問した。
「あのリスのぬいぐるみ、フィルちゃんのだよね? なんでわざわざ遠くの村までもらいにいったの?」
結果的にローレルの精霊を制すのに役に立ったぬいぐるみだが、数日かけてまで取りに行くものではない。ユジーヌの街にもぬいぐるみなんていくらでもあるはずだ。
彼女は「なんだ、そんなことか」とつまらなそうに言い、なんでもないように答えた。
「相手の精霊使いがオオカミを使うと聞いたから、あの娘のいかにも喰われやすそうなぬいぐるみを思い出した。隙ができるかと考えていたが、思った通りバックリいかれたな。それに……」
少し考えるようにして、彼女は続けた。
「約束したからな、また来ると。おそらく、この機会を逃せばそれは果たせなくなる。そう思っただけだ」
ダリアの言葉は正しい。この先、封印を解いて力が戻れば、彼女は完全な悪魔となり、今の姿ではなくなる。それが叶わず、僕と共に討たれても約束は果たせない。彼女なりに先のことを考えていたようだ。
僕が言葉を返せないでいると、ダリアは少し慌てて言った。
「もちろん、金は払ったぞ。パンを勝手に食った時の様なことはしていない」
あったな、そんなことも。あれからまだ数カ月しか経っていないのか。めまぐるしい日々を過ごしていたので、遠い昔に感じる。隣にいる悪魔も人間らしくなったものだ。
「別に疑ってないよ。でも、ハントさんとも約束しちゃったけど。また帰るって」
ううんと唸るような声を出し、一瞬考えたようだったが、面倒になったのか軽く手を振って彼女は言った。
「ま、先のことは未来の私に任せるとしよう」
雑だなあ、と思いつつ、これぐらいでなければこの先やっていけないかもなとも思った。
あれだけ派手に城で暴れた僕らだったが、仮面で顔を隠していたことと、城内が混乱していたこともあり、詳細な手配書は出回らなかった。ダリアについては特徴的な銀髪、赤い目の情報は流れていたが、僕に至っては生まれながらの個性のなさが幸いし、『中肉中背の男。何か武器の様なものを所持』くらいだった。……喜んでいいのかな。
そろそろ、次の国までの最後の村だ。目立たないよう、準備を整える必要がある。
「僕は買い物に行くけれど、何かいる?」
荷物を持とうとしない彼女は軽快に歩きながら返事をする。
「何か頭を隠すものがあったほうがいいかもな。この髪は目立つ」
僕もそれは思っていた。帽子か何か必要かもしれない。
「わかった。買って来る」
頼んだと言うや否や、彼女は村の門を抜けるとあっという間にどこかに消えていった。
買い物が終わり、村の子どもとだるまさんがころんだで遊んでいるダリアを見つけ、声をかけた。彼女は子供たちに別れを告げて、僕と並んで歩き始める。
どう説明しよう……。
先ほど店で買ったものを入れた袋を握りながら、僕はずっと考えていた。
少し前、僕は帽子が売っていそうな店に入り、飾られている商品を見ていた。たくさんあってどれにすれば良いかわからない。
「お気に召したものはありますか?」
展示されている帽子を取っては戻し、取っては戻ししていると若い女性の店員が話しかけてきた。
「人に贈るんですが、どれがいいかわからなくて……」
すると、店員ははっとした顔をして、ばたばたと品物を持ってきた。
「これなんてどうでしょう? 今、若い女性に流行っていてかわいらしいですよ!」
手にしていたのは、ネコの様な耳がついているフードだった。
「これですか……。少しかわいすぎるような。というか、よくわかりましたね。僕が若い女性に贈ろうとしているって」
「わかりますよー。ビビッときました。これは彼女へのプレゼントだなって」
全然違うが、面倒なので訂正しない。それにシズクなら喜ぶかもしれないが、これをダリアは気に入らないだろう。
「ははは。でも、彼女の趣味じゃないような……」
「いえ、絶対。ぜぇったい、これがいいです!」
押しが強い。だめだ、この人話聞かない。結局、僕は買った。ネコ耳フードを。
「ありがとうございましたー」
そして、今に至る。
「おお、買ってきたか。見せてみろ」
ダリアが手を伸ばして僕の手から袋を取ろうとしたが、とっさにかわす。
「……なぜかわす?」
「いやその。ちょっと違うかなって。やっぱり別のものと交換してもらおうかな」
彼女は怪訝そうな顔で僕を見ると、隙を突いて僕から袋をひったくった。
「あっ、ちょっと!」
「どれどれ。ん、これは……」
あー、やっぱり気にいらないよなあ。機嫌が悪くならなきゃいいけど。
「いい!」
「えっ、いいの!」
なんと! 意外とかわいい趣味をしていたのか! やっぱり女性はかわいいものが好きなのかなと納得しかけていると、予想外の言葉が返ってきた。
「特にこの角がいい! 昔は私も立派な角が生えていた。やはり悪魔たるもの、頭には角だな」
角。いや、それ耳だけど。でも、気にいってるみたいだし……。
「……でしょ! 僕もかっこいいと思ったんだよなあ」
彼女の機嫌を損ねないように、僕は意見を合わせた。
「さっそく被ってみよう。……どうだ?」
彼女のトレードマークであった銀髪は覆い隠され、赤い瞳がこちらを見つめている。その姿は年相応の少女にしか見えず、あまりに無邪気だった。シズクとダリア、本当に二人が共存できる未来はないのだろうか? このかりそめの旅の終わりまでに答えを見つけよう。そんな僕の決意を知る由もない彼女は、ネコ耳フードにご満悦のようだった。
「この異世界でかりそめの君と」をここまで読んでいただきありがとうございます!
同じく掲載している「魔人スカーレットは過労でしんどい」の連載は続きますので、こちらの作品もよろしくお願いします!




