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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第26話 君のためのドレス

 その後のレッスンは今までが嘘のように順調に進んだ。


 舞踏会まで数日と言う頃には、僕とダリアの息も合い、トトさんからもお墨付きをもらえる程になる。ハントが製作するドレスも完成し、僕とダリア、トトさんにお披露目となった。


「何かドキドキする」


「二人の思い出の品ですもんね」


「ここまで待たせたんだ。下らんものだったら許さん」


 作業部屋にドレスを取りに行ったハントを待ちながら、思い思いに話した。同じ家に住んでいながら、僕もダリアもじっくりと見せてもらえなかったのだ。こっそり見ようとすると彼が「できてからのお楽しみだよ」と引っ込めてしまっていたからである。


「おまたせ! これがお望みの品だよ」


 彼は手に持っていたドレスを僕らに向けて掲げる。


 まるで夕日が溶け込んだような色だった。それほどまでにドレスの赤色は濃く、僕らにため息を吐かせるような美しさがある。


「君たちが採ってきてくれた朱音草のおかげだよ。あれで染めないと、ここまで鮮やかな色が出ないんだ。……トト、どうかした?」


 トトさんの様子がいつもと異なったためハントが聞くと、彼女は少しだけ声を震わせた。


「……ごめん、感動しちゃって。本当に昔見たドレスとおんなじ。すごいねハントは。本当に夢を叶えちゃった」


 ハントは戸惑っているようだったが、うなずきながら応える。


「……うん、そうだね」


「そうだ、ダリアさん、せっかくだから着てみてくれない? 私も手伝うから」


 ドレスをハントから受け取り、トトさんはダリアを連れて急いで部屋を出て行った。静かになった部屋に僕たち二人が残される。


「彼女、泣いてた」


 そうぽつりとこぼした彼の顔は、とても困惑しているようだった。


「トトさんも二人の思い出のドレスを見られて、うれしかったんですよ」


 嘘をついた。本当はそんな風には思っていない。彼の顔を直視できなくて、そう言うのが精いっぱいだった。


 しかし、僕の薄っぺらい言葉なんて彼には通用しない。


「違うよ。それなら彼女はあんな風に泣いたりしない。でも、なんで?」


 ハントは絞り出すようにそう言った。


 距離が近すぎたら、かえって見えなくなるものもあるのかもしれない。きっとハントはトトさんに喜んでもらいたくて、ドレスを作ったのだ。昔二人で抱いた感動を再現するために。その気持ちに間違いはない。


 けれど、大切な思い出だから人に譲るのがつらかったのではないか。自分のために作ってほしかったのではないか。人生を変えた一着を。


 これは僕の勝手な推測だ。だから、言う必要はない。でも、これだけは聞いておきたかった。


「ハントさん、一つ聞きたいんですが」


「なんだい」


「どうしてトトさんにドレスを作ってあげないんですか?」


「……それは」


 ハントは答えるべきか悩んでいるようだった。しばらく黙っていたが、口を開きかけたところで二人が戻ってきた。


「ごめんごめん、着替えに手間取っちゃって」


 戻ってきたトトさんはいつも通りの声に戻っていた。良かった、少し落ち着いたようだ。


「どうだ、美しいだろう」


 トトさんの後ろからついてきたダリアが、僕たちの前に出て自信満々で言った。


 深紅のドレスを身に着けた彼女は、少女の見かけと反し、妖艶な雰囲気を感じさせる。もしかしたらこれが彼女本来の姿なのかもしれない。


「うん、とても似合ってる」


 虚を突かれたようにダリアはぽかんとしていたが、咳ばらいをして落ち着きを取り戻したように言う。


「……素直に褒めるんだな」


「僕だって自分が良いと思ったものは認めるよ」


 彼女は僕の言葉に満足そうに応える。


「ははっ、それならいい」


 その時のダリアは悪魔ではなく、ただのどこにでもいる少女のような笑顔を浮かべた。僕はそれを好ましく思った。


 トトさんとハントも、普段と違い着飾ったダリアをまじまじと見つめ、感想を述べた。


「本当にきれい。ダリアさんの赤い目にぴったり」


「僕もそう思う。ドレスがダリアさんの美しさを引き立てている。……おっと、これは自画自賛かな」


 トトさんが調子に乗るなと小突き、苦笑いをしていたハントだったが、改まった様子で彼女に向き直った。


「ところでトト、話したいことがあるんだけど」


 神妙な面持ちで話す彼を見て、トトさんは少し不安そうだった。


「どうかした?」


「僕はようやく子どもの頃からの憧れだったドレスを作ることができた」


「そうだね」


「だから次に作るドレスは、今までの目標を乗り越えた新たな挑戦になる」


 いまいち要領を得ない話しぶりだったので、僕は首をかしげたくなった。何が言いたいんだろう? トトさんも同じ気持ちだったようで、結論を急がせる。


「うん? だから?」


 自分の意見を上手く言葉にできないからか、ハントは歯がゆそうだった。しかし、覚悟は決まったとばかりに思い切って口を開いた。


「だから、その……。君のために作らせてくれないか?」


 一瞬、その場にいた全員が息をのみ、室内は静寂に包まれた。そして、トトさんが彼の言葉の意味を少し遅れて理解し応えた。


「えっ、私に?」


 彼女は僕の目から見ても、明らかに動揺している。だが、すぐに興奮した口調でハントに言葉をぶつけた。


「でも、前に『僕のドレスは君にふさわしくない』とか言ってたよね? 忘れてないんだけど」


 彼女の怒りの様子に少しひるみながらも、ハントはなだめるように言う。


「うん、言ったよ。でも、子どもの頃の憧れだったドレスを作れるくらい腕を磨いたんだ。今なら君にふさわしいドレスだって作れると思う」


 どうやら彼らに認識の相違があったようだった。ハントもトトさんも、お互いが自分の力不足を感じていた。だから彼はドレスを送らなかったし、彼女は嫌味を言われたと勘違いしていたというわけか。……というかわかりにくいよ。


「何それ! そういう意味だったの! 馬鹿じゃないの!」


 ここまで言われっぱなしだったが、ついにハントもムキになり声を荒げた。


「そこまで言わなくてもいいじゃないか。君に贈るなら、思い出よりもすごいドレスがいいと思ってたのに」


 その後も二人はぎゃあぎゃあと騒いでいたが、どちらの顔も心なしか楽しそうだった。


「これで一件落着かな」


 同じく二人の様子を眺めていたダリアに話しかけると、つまらなそうにあくびをしただけだった。


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