最終話 街を歩く新パーティー
「私わかったんだよー。休校前の記憶が曖昧な理由。あと、気がついたら穴ぼこだらけの運動場で倒れてる理由がさー」
昼前の土曜日。オレ達は買い物前の昼食を何処で食べようかと、北淀鹿島のすぐ駅前にあるアーケード街を散策していた。
さすが北淀鹿島というべきか、アーケード内は多くの店と人でごった返している。時間的に飲食店に入る人は多く、店前のメニューを見て吟味している者も少なくない。店によっては長い行列ができており、並んでいる人達は会話やスマホで時間を潰している。
休日とはいえすごい人数だな。うーん、南淀鹿島とは大違い。
「これはアレだよ。私は取り憑かれてたんだよ」
「え? どういう事? 取り憑かれてた?」
背後から蕾と霧のやり取りが聞こえて、前に並んで歩いてるオレと燕崎は一瞬だけ、ビクリと電気が走ったように身体を震わせた。
ちなみに、同じく前を歩いている那谷羅は何の反応していない。アーケード街が珍しいのかキョロキョロしているので、何も聞こえていないようだ。ワンチャン虫探してるかも。いや、ワンチャンなワケねぇなあ!
「私ねー。オカルト信じてるんだー。誰かが私に取り憑いたなんてメルヘンだしさー」
「えー、そう? 私は怖いけどなぁ。自分の身体が勝手に動かされるなんてさ。誰かに酷いことしたら絶対誤解されちゃうじゃん」
「いやいや霧ちゃん。その妄想は夢がないよー。私は取り憑いたヤツが空から隕石降らせたり、炎や雷のデカい蝶々とかブッパするって考えるなー。その方が面白いよー」
「襟果すごいね。私はそんな妄想できないよ」
「ふっふっふー、妄想のプロと呼んでくれたまえ」
当たらずとも遠からず、って当たってるやんコレ。
ギャル二人の会話はオレと燕崎の背筋を凍らせ、顔を引きつらせる。
「ちょっと、襟果のヤツ覚えてんじゃないの?」
「んなバカな。覚えてたらあんな得意そうな顔で言わんだろ。オレの心臓に穴開けた実感があるって事になるんだぞ」
と、まず間違い無く覚えてないはずだが、蕾がズバリなため、一等の宝くじが当たったような可能性を危ぶんでしまう。
オレと燕崎は背後で行われている会話をハラハラしながら聞いていると、横にいた那谷羅の足がピタリと止まった。
「どうした那谷羅?」
那谷羅は窓から店内を覗いては唸るを繰り返しているが、何を気にしてんだ?
「ここがいい……かもしれない」
「なんで歯切れが悪いんだ?」
那谷羅が足を止めたと同時に、オレ達も足を止める。
店は小綺麗な広い大衆食堂で客層も様々だ。ブログでも高評価な飲食店で、ラーメン、チャーハン、レバニラ、唐揚げといった、基本的なメニューは全て抑えられている。値段も手頃だ。
多くの客で席が埋まっているが、空いてる席は残っている。行列もない。入ればすぐに席へ案内されるだろう。
オレは特に食べたいモノはないのでこの店というか何処でもいいんだが、女子達は本当にいいのか? どうみても女子高生の入る店とは思えんが。
「オレは別にいいが、女子達はいいのか? こういう店って好みじゃないだろ」
「そんなことないよセイギ。ここの料理をインスタに上げてる人多いし」
そうだった。昨今の若者達の基準は団子より花だった。
「それに小さい頃は一緒にこういうお店によく行ってたじゃん? それに今、ラーメンな気分になってきてるし」
「おー、奇遇だね霧ちゃん。私もなんだよー。ラーメンな気分なんだよねぇー」
「私はクロニファルドの丸焼きよりマズくないなら何でもいいわよ」
各々が店外に飾られているメニューを見て注文を決めていく。思ったより決めるの早いな。オレも何食べるか決めないと。
「那谷羅の食べたいモノがこの店にあったのか?」
メニューを見ながら、この店を選んだ本人に何の気なしに聞いてみる。
「ミチヒト達は虫を好まないからな。虫の量が一番少ないここがいいと思った」
虫? 少ない? 那谷羅のヤツ何いってんだ?
「虫がメニューな店なんて無いだろ?」
「メニューにはない。でも、虫はいるぞ」
「…………」
「本当は虫のいない店がいいんだが、そんな店はないようだ」
つー、とオレの頬に冷たい汗が流れる。
おい、まさか。那谷羅の言ってる虫って。
「そりゃ心梨の食べたい虫はいないでしょ。南淀鹿島じゃないんだから」
「この辺りに私の食べたい虫はいないぞ」
「リンリンの虫好きって本物だよね。口にする人ってなるとなかなかいないもん」
「那谷羅ちゃんと違って燕崎ちゃんは虫嫌いだよねー。バッタ見て腰抜かしてたのは笑ったなー」
「に、苦手な虫の一つくらいあるでしょッ! つか、ひょいひょい虫を口に放り込める心梨が以上なの! 私みたいなか弱い乙女は虫が苦手なのよッ!」
顔を赤くしながらギャーギャー吠える燕崎と、それを見て笑う霧と蕾。そして、周囲を見渡しながら「あの店はすごくいるな。あの店はまあまあいるな」とブツブツ呟く那谷羅。
「…………」
那谷羅が何を言ってるのか気づいてるオレは、真顔のままツカツカと歩いて店から離れた。
たぶん、店に入ったら那谷羅がソレを見つけて食べ始める可能性大だ。絶対そうなる。そんな気しかしない。
「あれ? セイギ? ここで食べるのイヤなの?」
「今日は四人とも服買うんだろ? オレもそのつもりだし、出費はなるべく抑えたいしな。コンビニで軽く買って食べるくらいにしとこうぜ」
なるべく平静を装いながら、オレはこの先にあるアパレルやブティックが並んでいる通りを目指すと、四人も後ろからついてくる。昼抜きと言ったワケではないので了承してくれたようだ。
「あの店はなかなかいるな。あの店はそこそこいる。あの店は――凄まじいな。半端ないぞ」
「那谷羅ぁ! そういうのもう言わなくていいぞぉ! 興味は出てしまうがなぁ!」
くそおお! なんてこったぁぁ! しばらくの間はアーケード街の飲食店に行く気がでねーぞコレぇ!
「フフフ」
「何がおかしい那谷羅ぁ!?」
振り返りつつツッコむオレを見て、乏しい表情ながらも那谷羅は笑った。
「うん、今みたいなミチヒトはとてもいい」
「何がとてもいいだ。オレは芸人じゃないんだぞ」
「げいにん? なんだそれは?」
「人を笑わせようと行動する素晴らしき人間のことだ」
「なんだ。ミチヒトのことじゃないか」
「ありがとよぉ!」
那谷羅にツッコミながら話すオレを見て、燕崎は呆れ、霧と蕾は笑った。もう何度と行われたやり取りのはずだが、どうも外野は見飽きないらしい。
そう、こんなやり取りは何度も行われている。
「ハハハ、セイギとリンリンはいつも新ネタを用意してきてすごいね」
「霧。オレは総理大臣になりたいんだ。芸人になるといった覚えはないぞ」
アンヴィラの事件以降、オレは自分を偽るのをやめている。今では霧以外の前でも激しいツッコミなんかをするようになり、特に那谷羅とは漫才みたいなやり取りを披露するまでになっていた。
那谷羅にオレという人間賛歌を見せてやる、なんて言ったせいだ。あんな事を言ってしまっては“しょうもない嘘”を見せるワケにはいかない。
那谷羅はオレを勇者と呼んでくれる。なら、それに恥じない人物にならなければ。
オレが勇者の勇者様になれているのなら、こんなに嬉しい事はない。
「しかし、リンリン見てると今日のコーディネートは気合い入れなきゃって思っちゃうな」
「ん? そうなのかキリ?」
燕崎と蕾も右に同じなようで、ウンウンと頷いている。
まあ、その気持ちはファッションに疎いオレでもわかる。
だって、那谷羅の来てる服は凹凸のある胸部に『民宿ISEKAI』と書いてある、以前も見た簡素な部屋着なのだから。外出で着る服としては確実に間違っている。
「もしかしてこの服を着るのは……悪い事なのか?」
「う、ううん! そんなことないよ! ただ、なんでそのチョイスなのかなって思っただけで」
霧は思いっきり遠回しに「お前、なんでそんなダサい服着た?」と言った。
「服はこれ以外なくてな。今日は色々と買えると嬉しい」
「ゴメン……心梨にダサい恰好させて……」
「え? な、なんでアサカンが申し訳ない顔するの?」
「うーむー、かつて二人の間で熱い友情展開があったとみたねー」
放って置いたら陽が暮れても会話を続けていそうな背後にいる四人を見て、オレは自然と言葉が漏れる。
「いい友達ができてよかったな」
振り返りもせず呟いたが、どうやら一人の女子には聞こえたようで、オレの横にやってくる。
そこで見せた満面の笑顔は、きっと王国時代では見られなかったに違いない。
「ああ、ありがとうミチヒト」
その那谷羅の笑顔をスマホに収めたいと、霧達が騒いだのは言うまでもなかった。




