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僕は勇者の勇者になる  作者: 三浦サイラス
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19話 二人目の元勇者パーティ

「ミチヒト!」


 「サンキュー那谷羅。スカッとする一撃だったよ……いちち」



 那谷羅に肩を貸してもらい、どうにか両足で床に立つ。



 「私は……どうしてミチヒトがこうなるの平気な顔をして……」



 「誰かがみんなをどうかしてこうなった。那谷羅は何も悪くない」



 青ざめた顔をする那谷羅を見て、オレは気にするなといった。



 「登校中、オレに電話かかってきたの覚えてるか? あれ、親父だったんだ」



 「アリトコ殿が?」



 クラスは那谷羅が盛大に詰多を殴り飛ばしたせいでザワついている。ここは正常反応なんだな。



 「雑音が酷くてよく聞き取れなかったんだが、学校が何かに犯されてるって言ってた。那谷羅と燕崎の名前も出てきたんだが、何か心当たりあるか?」



 「犯されている……もしや、アリトコ殿は七英武具(レジェンダリー)のことを言っていたのか?」



 以前、那谷羅が言ってた単語だ。燕崎も口にしてたな。たしか、燕崎の持っている剣がソレだと。



 「七英武具(レジェンダリー)には星剣の他に極杖(きよくじよう)ルスパリトというモノがある。この杖は持ち主の扱える魔道を極大化させる特性があるんだ。ルスパリトの装備者が催眠系の魔道を使えば、この学校一つくらい影響下に置く(犯す)のは容易いだろう」



 「なら、コレはルスパリトってのを持ってるヤツの仕業なのか?」



 「可能性は高い。だが、そうなると……燕崎以外にもこの世界へやってきた仲間(パーティ)がいる」



 今この学校で起こっている事件は、勇者パーティだった者の仕業だと那谷羅は言った。



 「魔道士アンヴィラ。極杖ルスパリトの所持者であるヤツがこの世界に来ているはずだ」



 アンヴィラ。それが元凶の名前か。



 「だが、なんのために? アンヴィラはマルリリクで何ら不自由なく生活しているはず。当然、犯罪者でもない。アンヴィラがディライドの裂け目に落ちる理由がない」



 「あ……うああ……」



 詰多が目を覚ます。めり込んでいた黒板から倒れ込むように身を離すと、オレと那谷羅以外のクラスメイトが「先生!」と心配して駆け寄ってくる。



 「先生! よかった!」



 「酷い……那谷羅のヤツ先生になんてことを……」



 「退学だよあの女! こんな素晴らしい先生に暴力を振るうなんて!」



 みんな詰多の意識が戻ってよかったと安堵していた。中には涙を流す者までおり、詰多が生徒達にとても愛されているのが伝わってくる。


 ――なんて気持ち悪い光景だろうか。酷い創作だ。クソな青春ストーリーを見てるようで怖気が立つ。



 「なんでだ……催眠は効いてるじゃねぇか」



 詰多は駆け寄ってきた生徒を見て「あり得ない」と身体を震わせた。



 「どうして正義に効いてないんだ? どうして那谷羅は解けちまったんだ?」



 心配する生徒達を割って、詰多はオレと那谷羅に向かって歩いてくる。だが、そこにさっきまであった敵意は感じられない。破滅まったなしとでもいうように、その表情は後悔と絶望に塗れていた。



 「全部……全部アンヴィラのせいだ。あのクソ女に那谷羅の下着を盗んでこいって言われてから……ずっと脅されて遊ばれて……くそくそくそぉ……」



 詰多は「俺はアンヴィラのおもちゃじゃねぇ」「アンヴィラのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ」「俺は被害者だ」等々、虚ろな目を天井に向けてブツブツと繰り返す。



 「全部! 全部アンヴィラが悪い! 全部アンヴィラのせいで俺は――」



 突然、電池が切れたように詰多が床に倒れた。他の生徒達も同じだ。一斉にバタバタと倒れ始める。


 無論、それは異様な光景だったが。



 「悪いのはてめーじゃーん? クソ教師だからじゃーん? 進路やら何やら盾にして気に入った女子生徒を好きにしてたのは元からじゃーん。そんな弱み握ったら脅すの当たり前じゃーん。おもちゃにされて当然じゃんねー?」



 それ以上にオレと那谷羅の目は、突然教室に現れた異端者に向いている。



 「何でも言う事聞いて面白かったなぁ。あ、勇者様なら下着のヤツ見抜くと思ってた! さすがだね勇者様! おかげでクズが豚箱行く姿ってのを見られて面白かったー。アハハハ」



 ソイツは汚物でも見るように顔を歪めて「ま、すぐにまた私の玩具にしたけど。クズがすぐに楽になれるわけねーもんなぁ?」と、詰多を指差した。



 「アンヴィラ……なのか?」



 那谷羅は信じられないモノを見たように呟いた。


 目の前に現れた人物が知る人物と大きく乖離している、そうに違いないからだ。


 何故なら。



 「正真正銘アンヴィラだよ勇者様。久城霧だと思った? 騙されちゃた~?」



 久城霧。


 目の前に現れたソイツはオレの幼馴染みだった。



 「おっとー、その隣にいるセイギはそれ以上かな? 長い付き合いだもんねぇ。アハハ」



 その幼馴染みが面白いバラエティ番組でも見たかのようにケラケラ笑っている。



 「アンヴィラが……キリ?」



 「意外そうな顔してるね勇者様。ま、そっか。声も姿も違うもんね。いや、それ以前の話かなぁ」



 アンヴィラは「仲間(パーティ)の事なんて歯牙にもかけてなかったもんね」と邪悪な笑みを向けてくる。



 「あ、気にする必要なんて全然ないから。それでいいの。それが勇者様なんだもーん。目的遂行しか頭になくて「仲間? 知らんがな」って顔してんのが最高なんだから。絶対的な強者ってのは弱者を眺めはしても、見る必要なんて全くなし。私やその他大勢なんて雑草とかと同じでオッケーオッケー」



 アンヴィラに邪気はない。本当に心の底からそう思っているようだった。



 「……どうしてアンヴィラがここにいる?」



 「どうして? うう、悲しいなぁ勇者様」



 アンヴィラはヨヨヨと、ワザとらしく泣いたフリをしながら、その場に座り込む。



 「勇者様が大好きだからに決まってるよぉ。だからここにいるんだよぉ。だから追ってきたんだよぉ。私、大好きな勇者様がいない世界なんて考えられないもん……」



 「そのためだけに……この世界にやってきたのか?」



 「やって来れるよぉ! あ、もしかして私、弱虫ルディと同じゃんって思われてる!? ダメダメ勇者様! あのヨワヨワ女と私を同列にしないで!」



 泣いたフリから一転、こんどはプリプリ怒り出す。



 「私は勇者様のご機嫌取りたくて行動する、下心まるだしクソバカアホアホ女とは違うの。私は影から勇者様を見ているだけ。マナー良きファン。それが私! 信じて勇者様!」



 アンヴィラはウルウルと涙で揺れる瞳で那谷羅を見るが、那谷羅はアンヴィラから視線を反らした。


 霧の正体がアンヴィラだと、とても信じられないのだろう。那谷羅はさっきから変わらず、ずっと不安と驚きの混じった表情のままだ。



 「まだ私がアンヴィラって信じられないの? 大丈夫だよ勇者様。信じてオッケーだよ! 私は勇者様が大好きで大好きなアンヴィラだから!」



 「おい」



 那谷羅に近づこうとしたアンヴィラを、オレの声が制した。



 「何? 私、アンタなんか興味ないんだけど? 隅っこでカビでも生やしててくんない?」



 那谷羅とは真逆で、目の前で吐かれたゲロでも見るように、アンヴィラは嫌悪まるだしの視線をオレに目を向ける。



 「あー、わかったー。ショックでたまらないんだね? これまでの思い出何なのって話だもんね? わかるー。嘘だよ。わからねーよ。ゴメンねセイギ。これが私の正体――」



 「霧の姿でくっちゃべんな。気持ち悪くてたまらねぇんだよ」



 さっきから茶番でうるさいアンヴィラに冷たく告げる。



 「はぁ? 何言ってんのか意味わからないんですけど?」



 瞬間、アンヴィラの目がジロリと、思い切りオレを睨んだ。



 「全く騙せてねーんだよ。オレと霧の付き合い舐めてんじゃねぇ。完全に見抜かれてんだよ。魔道士様はその程度も理解できない知能なのか?」



 「…………」



 オレの言った事がハッタリでないと理解したのか、アンヴィラは俯き黙り込む。



 「ほ、本当かミチヒト? キリはアンヴィラではないのだな!?」



 那谷羅は纏わり付いた不安を払うようにオレへ聞いてくる。



 「霧とは小学生から世話してる長い付き合いだからな。即解りだ」



 酷く痛む身体に気合いを入れながら、オレはアンヴィラを睨み返す。



 「操作してんのか、乗っ取ってるのか、変身してるのか、幻覚見せてるのか。ネタは全くわからんが、目の前の醜い中身が霧じゃないのは断言できる」



 「…………」



 アンヴィラは俯き黙り込んだまま喋らない。



 「あと、燕崎とお前を比べるのやめてくれないか? 好きな人物を助けようとするのは当たり前だ。見てるだけのマナー良いファンなお前とは全然違うんだよ」



 「……元からテメーは嫌いだけどさぁ。でも、違ってたわ」



 そこでフッと、糸が切れたようにアンヴィラが。いや、アンヴィラから解放された霧がその場に倒れ込んだ。

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