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僕は勇者の勇者になる  作者: 三浦サイラス
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16話 四人での通学

朝食の片付けを終えると、オレ達三人は淀校に向かった。


 燕崎は登校中も那谷羅の身だしなみをチェックしており「よし、問題ないわね」と頷く。



 「懐かしいな。王国にいた時も、こうしてアサカが私をチェックしてくれていた」



 「だって、自身に無頓着な那谷羅を世話できそうなの、あのパーティじゃ私くらいしかいなかったし」



 「うん、たしかによく私に接していたのはアサカだ」



 「も、もしかして気に障ったり……した?」



 「そんなことはない。胸の奥が暖かくなる思い出だ。大切な友人がいるという感覚は、今ならとても理解できる」



 「た、大切!? ふぐっ!」



 燕崎のヤツはテッシュで何回鼻を押さえこんだ。


 コイツ、絶対オレの知らない所で何度も鼻血吹き出してるな。いつか出血多量で死ぬのでは?



 「アサカとこうして学校に行けるなんて夢のようだ」



 「ゆ、夢ッ!? がぶはっ!?」



 しかし、コイツらの仲間、か。


 さっき燕崎がポロッと言ったが、那谷羅と燕崎は仲間(パーティ)だったんだよな。


 那谷羅が勇者ディバーン


 燕崎が剣士ルディ。


 となると、なんとなくだが、他には魔法使いとか武闘家とか神官とか、そんな職業仲間(ジヨブ持ち)がいたんだろうか。



 「不謹慎だが、こんな日々が続くなら幸せすぎて死んでもおかしくない。アサカは間違いなく私の幸福の一部だ」



 「し、幸せで死ぬのは私……がぶぶはっ!?」



 好奇心で聞いてみたい所だが、それはできない。那谷羅は勇者パーティの事を聞いてほしくなさそうだからな。今はそれがディライトの裂け目に落ちて王国から逃げてきたからと知ったせいでなおさら聞きづらい


 パーティにはどんなヤツらがいたんだろう。ソイツらも那谷羅みたいな変人だったり、燕崎みたいな変態なんだろうか。



 「いつもアサカは私の前で鼻を押さえているが……もしかして私は匂うのか?」



 「な、何言ってんの! 那谷羅が匂ったらむしろご褒美でガンガン嗅ぎたい――じゃなくて! そ、そんなじゃないわ! 気にしないで!」



 ――何故だろう。オレは他の勇者パーティ達も間違い無く変なヤツと断定している。常識人はいないと確信している。


 ワイワイ(?)やり取りしている那谷羅と燕崎を横に、オレは他にもいるだろう勇者パーティをなんとなく考えながら道を歩いていると、見知った顔を見つける。



 「おはよう霧」



 「キリ、おはよう」



 「おはよう。今日も眠そうね霧」



 「ふぁ~、三人共はよー」



 霧と遭遇し挨拶を交わす。うむ、最近はめっきり遅刻が減って大変よろしい。



 「霧、眠いならこれでも食べてシャキッとしなさい」



 燕崎が通学鞄からガムを取り出す。コイツ用意いいな。


 でも燕崎よ。それは意味ないぞ。



 「ありがとアサカン……モムモム、ゴクッ」



 「だー! ガムは飲み込むもんじゃないでしょ!」



 口に入ったガムを霧を寝ぼけ顔で飲む込み、それを見た燕崎はツッコミを入れる。



 「え~? そうなのアサカン? 美味しいんだから別に飲み込んでもいいんじゃない~?」



 「くっ、この寝ぼけギャル! 催眠プレイに毒されたヒロインみたいな事言ってッ!」



 「催眠プレイ~? 何ソレ~?」



 「霧は一切知る必要のない単語よ。これからも一生気にしなくていいわ」



 霧と燕崎はクラスが一緒で、数日しか経過してないが随分と仲良くなっている。


 少なくとも低血圧を地でいく霧を、燕崎が世話をするくらいの仲になっていて、オレにとっても大変喜ばしい。たまに燕崎が変な単語言うのが玉に瑕なので、それがいつか玉に致命傷にならないよう注意しなければならない。できるのかオレ?



 「あれ? 蕾さんはどうしたの?」



 霧が普通に登校する時は蕾のヤツがいるはずだ。なのに、今日は姿が見えない。オレはキョロキョロと周囲を見渡す。



 「さっき連絡したんだけどね。調子悪いから休むって。最近、すぐ帰る事多いから心配だよ」



 霧は心配そうな顔でスマホを見ている。蕾との会話履歴を見ているのだろう。その様子はオレじゃなくても親友を心配していると伝わってくる。



 「今日終わったら襟果のお見舞いにいってくるね」



 「私も行くわ。霧と襟果にはクラスで世話になってるし」



 その言葉から、燕崎も霧と同じ気持ちのようだ。



 「別に気にしなくていいのに。アサカンじゃなくても、転校初日のクラスメイトをお世話するのは当たり前だよ」



 「私がお見舞いに行きたいから行くだけよ。ありがとね霧」



 霧と燕崎の視線が合い「フフッ」と二人が微笑する。


 うむ、大変微喜ばしい光景パート2だ。燕崎は早々に気の許せる友達ができ、霧は早々に転校生と仲良くできた。至って問題なく友情が育まれており、そんな二人を見ているとオレも思わず笑顔が漏れそうになる。


 淀鹿島高校生は平和に時を刻んでいるなぁ。



 「…………」



 「どうかしたの那谷羅さん?」



 オレと霧と燕崎を交互にジーッと見つめている那谷羅が「むー」と呟く。



 「……私だけノケモノにされている気がする」



 「え? どうして?」



 相変わらず表情が乏しいからわかりにくいが、寂しさと不満の混じったような態度が那谷羅から滲み出ている。



 「那谷羅さんも蕾さんの友達なんだからついていっていいと思うよ?」



 「いや、エリカの事ではない」



 那谷羅はジト目で「ジー」と唸りながらオレを見つめる。



 うん? これ、もしや拗ねてるのか?



 「キリもアサカもちゃんとミチヒトと話している。話した事がある」



 「ちゃんと?」



 オレは那谷羅をバカにしたり蔑ろにした覚えはないぞ? あ、まさか無意識にそういうのやってしまったんだろうか。



 「ご、ごめん那谷羅さん。僕、失礼なことしちゃったのかな?」



 「…………」



 那谷羅は「ふー」と、呆れたような諦めたようなため息をつく。



 「いや、すまない。これは私の努力不足だ。ミチヒトがいつか私にちゃんと話をしてくれるように精進しよう。また下着を見知らぬ男に渡さなければ」



 「なんで!?」



 オレは「コイツ何考えてんだ?」と、脳内でツッコミをしつつも、那谷羅が何を言わんとしているのか察せてきた。


 なるほど、オレの猫かぶりな接し方に不満なのか。たしかに、霧は幼馴染みだから全く隠してないし、燕崎は初遭遇や捕まった時に素を出しまくって会話している。


 対して那谷羅には、オレの不注意でしか素を見せていない。だから、ちゃんと会話したと思いがたいのだろう。


 那谷羅は霧や燕崎と比べてオレと距離を感じている。それは理解できた。


 でも、オレが素を出して那谷羅と話すのは難しい。理由があるのだ。いや、理由というかなんというかね。


 単純に恥ずかしいんだわ!


 だってずっと続けてきた事だし! それをきっかけ無しで見せろってのは難しいんだよ! すっげぇ恥ずかしいの! そういうもんなの!


 だからすまん那谷羅。理解してくれ。



 「おお、ミチヒト。手頃に太ったバッタがいるぞ」



 「最初に言っとくけど那谷羅さん。僕、バッタいらないからね」



 雑草を掻き分け目をキラキラさせてバッタを捕まえにいく那谷羅を見て、オレは即座に節足動物の提供を断った。

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