シュタイナー伯爵 幕引きの後に残るもの 5
間が空いてしまいましたが、漸く投稿できました!
まだ腰痛はありますが、色々峠は越したので、元のペースに戻せればと思っています。
よろしくお願いします <m(__)m>
「ダドリー夫妻を解雇することになったよ」
人払いをした部屋で、さらりと告げられた言葉に、シアーシャは息を吞んだ。その様子を見ながら、常に冷静な夫は、更に言葉を続ける。
「君は、予想していたと思ったけどね、サシャ?」
「まだ、そう呼んでもらえるのね・・・・・・。」
「もちろん。君は、僕の最愛の妻だからね」
最愛の妻。確かに、それは間違いないのだろう。そのくらい、彼女も理解している。
忙しくて不在が多く、家内のことはほぼ丸投げに近いけれど、相談すれば必ず意見を言い、重要なことは二人で決定してきた。娘達とも積極的に関わり、父娘関係も良好だ。常に穏やかで、世間での冷徹さを見せられたことも無い。社交界でも、おそらくこの夫のおかげで、そう嫌な思いもせずに済んでいる。
「私も、貴方を愛しているわ、ノアル」
そう、愛している。いつでも優しく、あらゆることから守ってくれたこの夫を。だけど――――――。
愛を告げたその後で、ずっと心の中に抱えてきた疑問を口にする。
「だけど、それは本当に愛だけなのかしら」
「どういう意味かな」
「・・・・・・結婚する時の約束を憶えている?」
「愛情だけでなく、信頼し合える関係を築く、だったかな」
「私たち、お互いを信頼していたと思う?」
「―――僕は、君を信頼していたよ。少なくとも、何かあれば、真っ先に僕に相談してくれるだろう―――そう考えるくらいには」
信頼していた――――――過去形。
当然だ。ヴィアンカの病状を口実に、夫に逆らい、使用人に箝口令を敷いて娘達と婚約者の関係に介入し、結果、長女は顔に傷痕を作った。普通に考えて、許されることではない。覚悟はしていたが、かすかに肩が揺れるのを抑えられなかった。
そんな妻の様子を見ながら、シュタイナー伯爵は、本題に入るべく言葉を続けた。
「君は、僕には相談しなかった。じゃあ、一体誰に相談したのか、教えてくれないか」
沈黙したまま、答える素振りのない妻に、更に問いかける。
「母親が娘の婚約を相談できる相手は、そう多くない。夫、自分の両親、兄弟、腹心の侍女、普通はそんなところだが、そこに恋愛が絡んでくるとあまりいい選択とは言えない。だから、君は、もう一方の当事者であるカーライル卿の母親、つまりロンサール侯爵夫人に相談した。違うかな」
見抜かれている。これ以上だんまりは通用しない、と理解したシアーシャは、詰めていた息を吐きだした。それは、束の間二人の周りを漂った後、何かを諦めたかのように夕暮れの部屋に消えていった。
「アマンダが、カーライル卿とヴィアンカが愛し合っているから、婚約者を代わりたい、と。貴方には自分で言うから、言わないでほしいと頼んだから」
言葉を切ると、夫が何かを言うのを待つが、そのまま沈黙が続く。仕方なく、先を続けた。
「ヴィアンカが、発作を頻繁に起こすようになって、このままでは、薬の副作用が怖くて――――二人が愛し合っていて、アマンダが彼を信頼できないというのなら、婚約者を代わりたいのなら――――」
どんどん変わっていったアマンダ。あれほどの努力に見合う愛が得られないのなら。それをアマンダが望むのなら。ヴィアンカの体調が安定するのなら。彼等の本心がどこにあるか確かめる方法を模索して、一方の当事者であるロンサール侯爵夫人に相談した。
伯爵夫妻の事情です。テーマは、ちょっと大袈裟ですが愛と信頼―――になるのかな。
信頼が拗れると愛まで怪しくなってくるのは、古今東西あるあるですが、二人だけならともかく、他者、それもかなり身近な人物が絡むと、よほど自己中でもなければそうも言っていられないんじゃないの?という思いが根底にあります。
それでも納得できないと思うのは、我儘なのか、相手への愛があるからなのか・・・。
なかなか難しい問題ですね。
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