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15.専属治癒士

本日2話目です。

 あの決闘(デュエル)のことは、やっぱり噂になった。


 と言ってもグランデ辺境伯家の中のことで、外部には一切漏れていない。


 それでもあの事がブラッドの評判を上げ、彼が私の婚約者になる事に反対する人がいなくなったのは驚きである。


 ただ困った事に、ブラッドの人気が一部で予想以上に上がってしまった。




 具体的に言うと、ご令嬢に……。




 せっかくブリトニーが居なくなったと思ったのに、今度は身内の年若い女性からロックオンされているのだ。




「ブラッドリー殿のような若い男性なら、専属の治癒士が必要ではなくて?」


「そうね。まさかステファニー様が戦場や狩場に付き従う訳には参りませんものねぇ」




 治癒士というのは治癒魔法が使える女性の事だ。


 高位の辺境騎士であれば、希望によって専属の治癒士を持つことも可能なのだけど……。


 ()()というのは、戦いの場で(たかぶ)った体を癒す事も含んでいる。


 明け透けに言うなら、愛妾(あいしょう)を連れて行くのと同義である。


 代々治癒の能力がある女性を積極的に嫁に取って来た我が辺境伯一族には、当然その能力がある年頃の令嬢は大勢いる。


 そんな彼女たちの関心は今『誰がブラッドの専属治癒士になるか』に集まっていた。


 不愉快極まりないが、それは仕方ないことでもあって、私もハッキリと断る事ができず困っている。


 今もサロンに向かった私はその入り口の手前で足が止まってしまった。




「ブラッドリー殿はどんな女性がお好みかしら?」


「ステファニー様とは真逆な女性が良いのではない?」


「それとも似た様な方のほうが良いのではなくて?」


「やっぱり、ステファニー様と気の合う方のほうが、あとあとトラブルにならなくて良いわよ」


「世継ぎはステファニー様が産んだ御子なのだから、ブラッドリー殿は我慢なさらなくても、好きにして良いのじゃない?」


「そうね。先々代の女辺境伯の時は、お婿さんが元気過ぎて、当主自ら選んだ女性を幾人も充てがったって聞きましたし……」




 そんな話が部屋の中から漏れ聞こえてくる。


 まだ婚約したばかりの婚約者を値踏みされていると知り、ブラッドの攻略方法を話し合っている場に踏み込む事はさすがにできなかった。


 サロンの手前で自室に引き返してしまった私に、一緒にいた侍女と護衛は何も言わなかった。


 だけどすごく気不味くて、私はしばらくまともに目が合わせられなかったほどだ。




 分かっている。




 この辺境は魔獣討伐や、度々起こる国境での戦、そのどれもに一族の男たちは参戦するのだ。


 辺境伯が男性ならば余程のことがない限り出陣しないが、ブラッドは婿だ。


 ブラッドが戦に出なくて良い期間は、おじい様が仕事を続けられなくなったあと、私の息子が成人するまでの短い間のみ。


 私が辺境伯の血を繋ぐ役を担うため、彼を温存する意味は無い。


 だから本人が辺境伯の後見人となる期間以外は、常に戦場へ行かなければならないのだ。


 そうなると多くの時間辺境伯屋敷から離れる事になり、昔から婿入りした者は専属の治癒士を多く付けられる傾向にある。


 もし私が嫉妬から専属の治癒士をブラッドに付けなかったら、夫の身を案じない酷い妻だと言われるだろう。


 夫の無事を願うために夫に(めかけ)を複数持たせなければならないとは皮肉なことだ。




「だからって、あんなに堂々とブラッドを取り合うことないじゃない」


「俺がどうしたんだ?」


「え? ブラッド!?」


「俺、何かステフィーを怒らせるような事したか?」


「いいえ、違うの。な、何でもないわ」




 嫉妬する嫌な私を知られたくなくて何とか誤魔化そうとするが、それが余計に怪しくなってしまった。




「もしかして……さっきサロンのほうに行った?」


「へ?」




 どうして?


 ブラッドは私が廊下にいた事を知ってる?




 私の頭の中を色々な記憶の断片が舞っていた。


 でも、ブラッドだってサロンには居なかったし、廊下にだって姿は見えなかった。


 しかしそれらから導き出されるはずの真実はまだ見えてこない。




 それなら、なんでそんな事を聞くんだろう?




「俺に付けてくれた従僕のマイク。あいつ、すごく有能っぽいな」


「あ、マイクはセボスの弟よ。あの兄弟はおじい様のお気に入りで……」


「やっぱりそうなんだ」




 どうしてマイクの話をするのかよく分からないけど、サロンの話を立ち聞きしてしまった事を言われるよりずっと良い。


 私は喜んでその話に乗った。




「その……マイクから聞いたんだけど。俺、専属の治癒士は必要ないよ」


「え? どうして?」




 おかしいな。


 やり過ごしたはずの話が戻ってきわ。




「治癒士が居なかったら、ケガした時大変だわ」




 いくら専属の治癒士を付けるのが不快でも、彼の命には代えられない。


 専属では無い辺境騎士団所属の治癒士は居ても、万が一の時に間に合わないなんて事になったら……。


 やっぱりブラッドが断っても、これは了承できない問題だった。




 私の嫉妬心を悟られませんように……。




「あ〜。言うの忘れてたんだけど。俺、治癒魔法……使えるんだ」


「え? えぇっ!」




 私は大きな声を出してしまった。


 するとブラッドがクスクス笑う。




「治癒士って女性が多いけど、意外と男で治癒魔法も使えるヤツも居るんだぞ?」


「でも、男性はそれほど強い治癒魔法は使えなくて、大怪我は治せないって聞いた事あるけど?」


「この国では、あんまり強い治癒魔法使える男は居ないけど、外国には居るもんなんだよ」


「そうなの?」


「あぁ。治癒士って言わないで『賢者』って呼ばれてる」




 それなら聞いたことがある。


 力のある賢者様は、王族と同等以上に敬われているとか何とか……。




「俺の母親の実家、時々賢者が出る家系だったんだ」


「はい?」


「だから。俺、国が違ったら、賢者に成れたかもしれないんだよ」


「えぇぇぇぇ!」




 驚き過ぎてほかに言葉が出ない。


 私を驚かせたのが面白かったのか、ブラッドは吹き出した。




「それ、おじい様は?」


「知ってるよ。それがステファニーの婚約者に選ばれる要因の一つになったんだろうし」


「えぇっ! ()()ブラッドが良いって言ったからじゃないの?」




 あ。


 思わず口が滑った。


 恥ずかしいから黙ってようと思ってたのに……。




「ステフィーが……? 俺のこと選んだの!?」


「あ……その、うん」


「本当に?」


「うん……」




 ブラッドは驚きに目を見開いて、そして思いっきり私を抱きしめた。




「嬉しい……ステフィー、すごく嬉しいよ」


「ちょっと、苦し……」


「ごめん」




 ブラッドは身を離し、改めて私を見詰める。


 その愛おしい者に注ぐ眼差しが、私のささくれ立っていた心を癒していく。




「ステフィー。好きだ……愛してる」




 ブラッドが私の欲しい言葉をくれる。


 そして優しくキスを落とした。


 何度も(ついば)まれ、やがて深く……。


 私はブラッドに翻弄(ほんろう)され、息が上手くできなくなって頭がボーッとしてきて……。




「えっ! ステフィー?」


「ブラッド……」


「ゴメン、やり過ぎた。大丈夫?」


「……うん」




 慌てふためくブラッドはレアだなぁと、私は呑気に思っていた。


お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして、応援いただけたら嬉しく思います。

今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。


本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。

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