14.ぶりっ子ブリトニー
本日1話目です。
グランデ辺境伯であるおじい様にあいさつを許されたブリトニー。
彼女史上最高に令嬢らしく振る舞っているが、おじい様の目は冷ややかだった。
しかし未だ顔を伏せたままの彼女には分らない。
「面を上げなさい」
知らない者が見れば可憐に映るだろうブリトニーは、余裕の笑みでおじい様に相対した。
「そうか、フォールン男爵の息女であったか」
「まぁ。父をご存知でいらっしゃいますの?」
ブリトニーはキャピッと音が付きそうな勢いで、合わせた両手を頬に寄せた。
ジロリとおじい様から見られても萎縮しないのは見事なものだ。
「あいさつを許してはいないがな」
「それでは、私がお父様より先にご縁を結びましたのね? とても光栄です。帰ったら私、きっとお父様に褒めてもらえますわね。うふふ」
その様子を私たちは微妙な顔で見ていたが、おじい様はまったく表情を動かさない。
何だか変な方向でおじい様を尊敬してしまって、複雑な心境だわ。
「……そなた、なぜデニスに付いてここまで来たのだ?」
「え?」
「ワシはアンバー子爵からも、デニスからも、そなたとデニスが婚約したとは聞いておらんが?」
「えぇ。私たち、まだ婚約してません」
ブリトニーがそう言った途端、デニスがビクッとした。
これから叱られるとデニスでも気が付いたらしい。
この先の話が明るいものでないことは私にも分かる。
なぜならこの狩猟祭は、グランデ辺境伯一族だけの行事だからだ。
本来、一族の男たちがその年の出来事を辺境伯に報告し、今後の方針や対策を話し合うための集まりだった。
それが段々と、新たに家族が増えた者を紹介したり、交流したりする場に変わって今に至っている。
そんな訳で今回の集まりは血縁者と、婚約者や養子のみ。
それ以外の者を連れて来ることが許されない。
そこにデニスは『ただの恋人』であるブリトニーを伴って来たのだ。
普通に考えれば一族の行事に部外者を連れて来るなどあり得ない話だ。
しかし次の辺境伯になると勘違いしていたデニスは、自分なら多少のルール違反は許されると思っていたのだろう。
その点で、今まで私の婚約者でお婿さん決定だった彼を甘やかしてしまった私たちにも責任はあるかもしれない。
何しろおじい様は剣の腕が立つデニスをとても可愛がっていた。
実の祖父でもないのに『おじい様』呼びを許していた事にもそれは現れている。
鍛錬においては厳しくとも、生活面では非常に甘やかした自覚があるはずだ。
「デニス。お前はなぜ、彼女を連れてきたのだ?」
「えーと、おじい様に『ブリトニーを紹介する良い機会かなぁ』って思って……」
「お前も狩猟祭のしきたりは知っていると思っていたが……どうやら間違いだったようだな」
「でも、ブラッドリーだって来てるんだから、ブリトニーだって……」
「ブラッドリーはステファニーと正式に婚約して初めて、お披露目のために連れて来たのだ。フォールン男爵令嬢はお前の恋人なのだろう? 彼と一緒にされては困る」
「だから、ここで婚約を認めてもらおうとしてたんだけど……」
「ほう。先ほどはステファニーと結婚する相手を決闘で決めようとしていたのではなかったか?」
「……それはさっき、やっぱり元に戻してもらおうと……」
おじい様が深く息を吐き首を横に振った。
「デニス、お前は本当にフォールン嬢を好きになったのか?」
「え? 好きだよ」
「ではなぜ、ステファニーの婚約者に戻ろうとした?」
「なぜって、それは辺境伯になるのは俺だったのに……ブラッドリーに取られるなんて悔しくて……」
「そんなだから、ホイホイ女の甘言に騙されるのだろう!」
「騙される?」
「そうだろう。フォールン嬢はお前がステファニーとよりを戻すことに何か言ったか?」
デニスは何を言われたのかよく分かってなさそうだけど、それでも素直に考えているようだった。
「俺の一番じゃなくても良いって言ってたな」
「それがどんな意味なのか、考えたのか?」
「どんな意味? 意味なんか知らないよ」
「では、お前がステファニーと捻を戻すと誰が得をする?」
「得? 得はしないだろ? ただ俺が辺境伯に成れるか成れないかが違うだけだよ」
「そんな訳があるか? 何の得もないのにフォールン嬢がお前を手放すのか? 本当に好きな相手ならさぞかし辛い決断だぞ?」
そう言われてデニスも少しおかしいと思ったようで、納得いく答えを求めてブリトニーに視線を送る。
「わ、私は……デ、デニスの幸せを一番に考えてって言っただけで……」
「ブリトニー……」
デニスはブリトニーの言葉でまた感動しているが、ほかの人たちは白けた目で見ている。
うちのおじい様にこんな手が通用するわけがないのだが、ブリトニーは分かってないのだろう。
「それは殊勝なことよのぉ。それならここで帰ってもらって構わない。あとはワシがデニスの幸せのために考えるでな」
「え? あ……はい?」
「おじい様、俺たちは今日ここに来たばかりだよ? そんなすぐ帰れなんて……もうすぐ夕方だし、ブリトニーがかわいそうだろ?」
「デニス。お前は……」
おじい様がガックリと肩を落とした。
こういう少し抜けた所があるデニスだからこそ、おじい様は面倒見たくなってしまうのよね。
分かるけど、でもそれがいけなかったのよ。
ここで絆されては、いつまでもダメなデニスのままになってしまうわ。
「デニス、今回は時期が悪いわ。ブリトニーさんには悪いけど、彼女は街に宿でも取って、そこに今晩は泊まってもらったら?」
「でも……」
「ブリトニーさんも。デニスになんて言って連れて来てもらったのか分からないけど、あなたがここに居られないって分かるわよね?」
ブリトニーはうつむいて何も言わない。
私は仕方なく彼女に近付き、耳元で囁く。
「あの話、聞かなかったことにして欲しくない?」
「分かったわ。デニス、街まで馬車をお願いできる?」
突然の変わり身に驚いたけど、あの『第二夫人』の話をここでしたら大変なことになるって事は分かったらしい。
「ブリトニー……ゴメン」
「良いの。私こそごめんなさい」
最後までデニスはブリトニーの本性を悟る事はなかった。
これで本当に良いのか悩んでいたら……。
「グランデ卿、すごく怒ってるぞ」
「え!?」
ハッと振り返ると、そこには黒いオーラを背負って不気味に笑うおじい様が居た。
私とブラッドは『触らぬ神に祟りなし』とその場を静かに離れたのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。
本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。




