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13.おじい様

本日9話目です。

「お前ら、わざとやってんだろ」




 デニスの声で我に返る。


 地面に胡座(あぐら)をかいているデニスがこちらを睨んでいて、その横にはブリトニーが仁王立ちしていた。


 私たちは空気の読めない人扱いされたらしく、それはちょっと納得がいかない。


 そんな微妙な空気の中、どこからともなく拍手が響く。


 驚いて振り返れば、おじい様がこちらへ向かって歩いてきていた。




 ななな、なぜここに!




 驚き過ぎて動けない私におじい様が声をかける。




「これで決まりだな」


「え?」




 何のことか分からない。


 それは私だけではないようで、ほかの三人も怪訝な表情をしている。




「ブラッドリーだよ。昨日相手をした時も思ったが、デニスとやって勝ったのだ。大手(おおで)を振ってお前の婚約者と名乗れるだろう?」


「あ……」




 おじい様はもしかして、この決闘(デュエル)をわざと止めないで見ていた?




「二人とも、気が済んだか?」


「おじい様!」


「グランデ卿……失礼致しました」


「かまわん。ワシが止めるなと言ったのだ」




 それを聞いた二人は『やっぱり』という顔で周囲を見渡した。


 審判を務めた騎士が頷き、よく見れば他にも辺境伯領の騎士たちがチラホラ見える。


 何のことはない。


 結局はみんな、おじい様の手の平の上だったのだろう。


 私は安心と拍子抜けで力が抜けていくような気がした。




 * * * * *




 おじい様はいつになく厳しい顔で、デニスを見据(みす)えて言う。




「デニス。お前は今さら自分が何を言い出したのか分かっているんだろうな?」


「えーと。俺、ずっと辺境伯になれるって、そう思ってたから……」




 ブラッドに負けたこともだけど、辺境伯も自分の物だと思ってた分、余計に悔しいのかもしれない。




「しかしお前は自分の意思で、ステファニーではなくそこの令嬢を選んだのだろう?」


「それはその……」


「大かたステファニーの小言がうるさいから、小言を言わないその令嬢のほうが良いくらいに思ったのだろう」


「なんで……」


「赤ん坊のころから見ているのだ、分からないわけがあるまい」




 低く大きな声で恫喝(どうかつ)され、デニスがビクっと跳ねる。




「お前がもう少し真面目に勉学に取り組んでいるか、少なくとも領地経営のことを学ぶ姿勢があれば、ワシも熱心に止めたのだがな」


「え?」


「デニスは辺境伯には向いて無さそうだったからな。好きな女子(おなご)()()げるほうが良いかと好きにさせたまで。全てお前の選んだ道なのだぞ?」




 デニスは言葉なく項垂(うなだ)れる。




「辺境伯になりたかっただけでステファニーと結婚されたのでは、ステファニーがかわいそうだろう。そうは思わんか?」


「俺はステファニーが嫌だったわけじゃないんだ。これからは優しくするし、言うことも聞く。それでもダメなのかよ?」


「はぁー」




 深〜いため息を吐いて、おじい様は頭を抱えてしまった。




「ステファニー、今まで済まなかったな」


「もう良いです」


「お前には苦労をかけて悪いな」




 デニスがムクリと顔を上げてこちらを見ている。


 心なしか表情が明るい。




「デニス」


「はい、おじい様。俺これから頑張ります!」




 この人何言ってるの?


 また変なこと考えてるのでは?




「今までのことを許してくれるんだよな? これからはステファニーと仲良くするよ。な? ステファニー?」


「この馬鹿者!!」




 雷のように大きな声が響き渡った。


 ブラッドでさえ片目を閉じて固まっている。


 私は慣れているけど、これは久しぶりの大きさだった。


 ブリトニーはさっきから審判を務めた騎士の後ろに隠れている。


 そこはほら、運命の人なんだし……恋人のデニス以外に助けを求めたらダメなのでは?




「お前は、まだ分からんのか!」




 そう思ったけど、デニスの(そば)のほうが(とばっち)りを受けそうで、ブリトニーさんのことを責められないと思った。




「お前に継がせるものなど有りはせん! そのひん曲がった性根をワシが直々に叩き直してやるから覚悟しておけ!」




 再びおじい様が吠える。




「ひぇぇ! ステファニー助けて!」




 小さな子どものころ、毎回そうして助けを求めていたように、デニスは一目散で私の後ろに走ってきた。


 青年に育ち切ってしまった今、彼が私に隠れられるはずはないが、もうおじい様に叱られた時の条件反射になっているらしい。


 私のスカートを握り締め身を小さく屈めている姿は、領館で飼っている猟犬の子犬のようで……。


 思わず笑ってしまったのは許して欲しい。


 しかしその様子がブラッドの逆鱗(げきりん)に触れていたようだ。




「おい。何やってる」


「へ?」


「勝手にステフィーに触るな」


「いや、その、わー! やめてくれ!」




 自分と同じくらいの大きさのデニスを、どこにそんな力があるのだろうと思うほど軽々と担ぎ上げ、ブラッドリーはデニスをおじい様の前に下ろした。


 ただ、丁寧ではなかった……。


 目の前にデニスを置かれて、おじい様は複雑な心境だろうと思うが、それでもブラッドと私に、温かい言葉をかけるのは忘れない。




「ブラッドリー。今後はステファニーの伴侶として、この子を大切に頼むよ」


「はい、必ず大切にします」


「ブラッド……」




 不意打ちで嬉しい言葉をもらって心が震えた。


 優しく見詰めてくる彼の蒼玉(サファイア)の瞳に吸い込まれそう。


 私はこの時、ブラッドに恋をしたと認めない訳にいかなくなった。


 しかし、そんな甘やかな時間は長く続かない。




「そこのご令嬢」


「え? 私でしょうか?」


「そう、デニスの恋人だとか?」


「あ……お初にお目にかかります。フォールン男爵が長女ブリトニーと申します」




 あらブリトニー。


 あなた、まともな挨拶もできたのね。


 ちょっと失礼かもしれないけど、多分学園の女生徒の大半がそう思っているだろうから許して欲しい。


お読みいただき、ありがとうございました。

よろしければブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして、応援いただけたら嬉しく思います。

今後もみな様に気に入っていただける作品作りを心がけようと思っていますので、よろしくお願いします。


本日は複数回投稿を行なっていますので、話数をお間違えの無いようにお願いします。


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