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馬鹿売り

 さて。

 あるところに、とても頭の悪い男がおりました。この男が町へ行って酒、魚、味噌を売るというので、しっかりと売らせるべく母親が口を酸っぱくして、「いいかい、町へ出たら大声で、酒、魚、味噌がござい、いかがですかと呼ばわるんだよ」と教えました。男はあんまりしつこく母が言うもので辟易へきえきしつつもしっかり覚え、町へ出ると早速大声で呼ばわりました。

「さけさかなみそがございいかがですか、さけさかなみそがございいかがですか」

 しかし全く売れません。それもそのはず、男は文言もんごんを忘れず、間違えないようにと全て一息に一続きに声を張り上げるものですから、町ゆく人々は男が何を売っているのかわからず、素通りしてしまうのです。母親の言うとおりにしたのに全く売れないじゃないか、とぷりぷりしながら男は帰宅しました。帰るなり文句を言うと、母親は怪訝けげんに思って男に町でしたのと同じ通りにさせ、それを聞いた途端に母親は男を張り倒しました。

「お前は本当に馬鹿だねえ、そんな言い方じゃ聞き取れないから誰も買ってくれやしないよ。いいかい、得るなら全部別々に言うんだ。酒は酒で別々に、魚は魚で別々に、味噌は味噌で別々に。全て別々に言って、いかがですかと言うんだよ」

 母親の文言をしっかりと覚えて、今度こそ男は町へ出て声を張り上げます。

「酒は酒で別々に、魚は魚で別々に、味噌は味噌で別々に、全て別々に言って、いかがですか」

 当然のこと、わけのわからないことを騒ぐ男の品物を、買う者なんてひとりもありはしませんでしたとさ。


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