「8周目の正解」
――これで何周目だっけな。
「奏多、早く起きなさい……今朝は少し冷えるわよ」
同じ声。
同じ間。
同じ、トーストの匂い。
日曜日が終わった瞬間、
人の全部が巻き戻る。
最初は混乱した。
でも、もう慣れた。
――この世界は、繰り返している。
1週間。
月曜日から日曜日まで。
それが終わると、また同じ月曜日に戻る。
オレの周りの出来事も、オレに関するみんなの記憶も。
でも、季節は、過ぎていく。
この世界が始まった頃は満開に咲いていたマンション前の桜も、今は若葉が茂っている。
――季節は過ぎていく。でも、出来事や人の記憶は変わらない。オレを除いては。
「おはようございます!」
マンションのゴミ置き場。
ここには月曜日、必ずゴミ出しをしている女性がいる。同じマンションに住む女子大生だ。
「あら、奏多くん、おはよう!奏多くんも高校生かぁ。大きくなったねー」
「そういう優花さんも、女子大生になっちゃったじゃないですか」
「うふふ、そうね。あ、遅刻しちゃったら悪いからこのくらいにしとくね。元気に学校がんばっておいで。奏多くん、いってらっしゃい」
何度ループしても、優花さんの笑顔と「いってらっしゃい」には、毎回癒される。
――おっと、こんな場合じゃない。オレは早足で通学路を進む。
この速度で進み、学校手前、500メートル地点の交差点を曲がる。
それが『正解』だ。
――この世界には、『正解』がある。
タイミングも、言葉も。
外さなければ――
関係は、作れる。
――――――――――――――――――――
この時間に彼女は必ず来る。
オレは確信を持って、角を曲がる。
ちょうどそのタイミングで、向こうから、一人の女子が歩いてくる。
長い黒髪。 静かな表情。
どこか神秘的で美しい顔立ち。
水無瀬 凛。
同じクラスの女子生徒だ。
――ここまでは、いつも通り。
オレは歩幅を合わせ、タイミングを測る。
「おはよう」
一拍置いて、声をかける。
「……おはよう」
少しだけ驚いた表情をしたが、すぐに落ち着いた表情に戻る。手には一冊の本を握っている。
予定通り。
ここから先も、全部知っている。
「その本、続き出たよね」
「……なんで知ってるの?」
「毎日教室で読んでるから、水無瀬さん。実はオレも読んでる」
本当は毎週、月曜日の下校後に買って読むんだけどね。
「……そっか」
わずかに、表情が緩む。
「主人公が真面目なのにすぐドジしちゃうところが面白いよね?」
「……まあ、悪くない」
会話が続く。距離が縮まる。
全部、「予定通り」。
やっぱりそうだ。
歩きながら、確信する。
このルートが一番効率がいい。
無駄がない。
迷いもない。
ただ『正解』を選ぶだけで、関係は進む。
「……なんか今日」
凛が、ふとこちらを見る。
「話しやすいね」
「そうかな?」
「うん」
少しだけ目を逸らして、
「変に気を使わなくていいっていうか」
小さく、息を吐く。
「……ありがと」
この流れなら、『20』に届いているはずだ。
体感でわかる。
このルートは、もう何度も繰り返してきた。
このままいけば――
頭の中で、今週のルートを組み立てる。
今日の下校時。明日の朝、昼休み。それから――
――問題ない。
このまま進めば、ちゃんと、届く。
校門が見えてくる。
「じゃあ、また」
「ああ、また教室で」
凛はオレから離れ、同じクラスの女子と合流した。
その背中を見送る。
何度も繰り返した一週間。
間違えなければいい。
それだけでいい。
――この1週間で水無瀬凜を攻略する。
この世界は、シンプルだ。
――そう思っていた。
まだ、『例外』を知らなかった頃の話だ。
少し遠ざかっていく凜に目を向ける。
『23』
凜の頭上に、青い数字が浮かんでいた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
17話までは、毎日更新する予定です。
今日は、2話投稿します。第2話は22時に投稿します。
よければ続きも読んでいただけると嬉しいです。




