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追放された魔女の私、奴隷の堕天使を買ったら無双し放題だった  作者: 紫煌 みこと
第2章 堕天使の復讐 女神へのざまぁ
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第15話「ミラル、堕天使を知る」


「ハァッ、ハァッ……!!」


 駄目。本当に駄目。

 なぜリタは勝手に、私の場所からいなくなってしまったの?


「わかってた、けど……」


 別れが来ることは、疾うに承知の上だった。

 そのうえで旅をしていたのだ。王国での仕事も今だけは捨てて、リタが天界に戻れるようにって。


「わかってても、突然すぎるよっ……!」


 まだ最後の別れすら言っていないのに。

 白い冠を作って、抱き合って寝て。

 互いのぬくもりを分かち合った後に消えるなんて、そんなの残酷すぎる。




 ……まさか、独りよがりだった?

 堕天使と人間。その壁は、あまりにも高すぎる。

 リタが私に放った一言一言。


 「離れたくない」

 「お前がいなくなったら、この世で独りになってしまう気がする」


 あれはただの気まぐれで、内心は私のことを思っていなかった……?

 私なんて、どこかで切り離したい邪魔者だったの?


 確かに、私は彼の主人だった。私は対等に接したつもりだが、彼は気にしていたのかもしれない。

 今思えば、彼が私に協力してくれたのは、友情でも愛情でもなく、単なる立場上の忠誠心から来ていたものだ。


 私なんて……




「……」


 どうしよう。突然足が止まってしまう。

 鉛のように重くなって、ありもしない寒さに震えて動かない。動いてくれない。早く行かないと、もう間に合わないかもしれないのに。


「……ふっ」


 眠気が襲ってくる。

 なぜこんな時に限って、私は力が出せないの。

 王国で培われた水魔法だって、今は何の役にも立ってくれない。天才魔女の名が嘘のようだ。

 私って……いつの間にこんな情けなくなっていたんだ……


 次の瞬間、視界が反転して、暗闇に包まれた。






「……なんであなたは彼を追いかけているの」


 どこか馴染み深い声が聞こえた気がして、私は目を覚ます。

 私がいたのは、真っ暗な世界だった。何もなくて、自分がどこに立っているのかさえわからない。



 正面を見つめると、なぜか「私」が立っていた。

 そう――もう一人のミラルが、無表情で私を見つめている。


「なんで追いかけてるのよ」

「……そ、それは! 彼が急にいなくなるなんて信じられなくて――」

「リタは堕天使だよ? いずれあなたのもとからいなくなる存在なのに。なんでもう一度会わなきゃいけないの」


 私が、「私」に責められている。

 彼女の言葉が反響して聞こえ、脳が振動するような気分だ。


「も……う一度会わないといけないのは……彼が安全じゃないから。手配書がたくさん散ってる状況で、彼だけが戻ったら……絶対に危険だから……」

「いいんじゃない? 彼が決めたことだし。あなたはこれ以上干渉せずに城の研究に戻れば?」


 ――何も、言い返せない。

 彼女の言葉は、あまりに的確に、私の心に刺さるものだった。


「リタを天界に戻すために旅をするとか言って、でも突如いなくなると必死に捜し始めて。奴隷と主人って言っちゃってるのに、結局は対等とか言って。矛盾しすぎなのよ、あなた」

「……」

「一度気持ちを整理すれば? あなたは結局のところ、何がしたいの?」


 言われてみればそうだ。

 私って……何がしたいんだろう。


「……わからない」


 思わず本音が漏れてしまった。

 孤独の暗闇の中で、もう一人の自分に現実を突きつけられる。これが夢か現実かさえ、考える余裕がない。

 私はその場に崩れ落ちた。瞳から熱いものがこみ上げてくる。

 悲しい。訳もなく悲しいと感じる。

 リタを買った時から、少しだけ一緒に過ごした日々。ロストへの復讐と、その後の旅。宝物だと思っていた価値が、一気に崩れおちていく気がした。


「うぅっ……」

「……」


 暗闇の中に、沈黙が続いた。




 ……やがて、もう一人の「私」が声を出す。


「……でも、そんな矛盾だらけのお前を、あいつは好いてたんだ」

「……えっ」


 思わず顔を上げる。

 気が付けば、もう一人の「私」の姿は、いつの間にかリタの姿に変わっていた。

 それも、紫紺の堕天使の姿で。


「あいつはバカだ。お前を置き去りにして、本気で天の国に帰ろうとしている。丁寧に白い冠までお前にあげてな」

「待って……どういうこと? あなたは誰?」


 理解が追いつかない。

 さっきまで私に辛辣な態度を取っていたミラルはどこへ消えたの。


「俺はリタでもミラルでもない。リタはあいつ。あいつは不器用なんだ」

「……」

「あいつはずっと、お前だけを見てた。お前があいつにかけたすべての言葉が、あいつに勇気を与えていた。あいつはいつだって、お前を一番に思っていたさ」

「……じゃあ、なんで私のもとから消えたの」


 するとリタではない「リタ」は、肩をすくめてため息を吐く。


「そこがあいつの変な部分。あいつも矛盾ばかりだ。お前と一緒にいたいって思ってるくせに、お前に迷惑をかけたくないと思っている。手配書が降ってきた日、後者の気持ちが爆発した。もうお前には迷惑をかけないって、あいつなりの最善を尽くそうとしていたんだ」

「……それで私に黙って、わざと村の人たちに……!? そんなっ……」

「だからさ、あいつを止めてくれないか」


 目の前の「リタ」は、私に歩み寄ってきた。

 見た目も声も彼そっくりだ。でも違う。彼は、こんなこと言わない。


「あいつ、放っておくと危険だからさ。お前が止めてくれ」

「……」

「お前がロストに復讐するとき、あいつは全力だったんだ。今度は、おまえが……な。きっと、あいつも本当はそれを望んでいるはずだぜ」





「……はっ」


 目を覚ますと、私は地面で横たわっていた。


「……また、変な夢を見た」


 今朝といい、急に眠気が襲ってきた今といい、明らかに不自然な悪夢が襲ってきているような気がする。

 ……いや、今のは悪夢だったのか?

 まるで何かを訴えるような夢だった。どうしてこんな、都合の良い夢ばかり見るようになっているのだろう。


「……あっ」


 ふと、懐の中が妙に温かいことに気づいた。

 服をめくってみると、出てきたのは黒い羽根。大事に持っているリタの羽根だった。


「まさかこれが……」


 朝は気が付かなかったが、起きた後、羽根に熱がこもっている。

 もしかしたら……この羽根が、私に何かを伝えたいのかもしれない。


「……」


 夢で、言われた通りだ。

 私は1ヶ月という時間、リタを天の国に戻すために旅をしてきた。でもその間、リタと一緒にいる時間を楽しんでいた。

 現にリタが急にいなくなった今、私の中にある感情は悲しみ。そして、リタの安否に対する漠然とした不安。


 ……そうだ。夢で言われたことも事実だ。

 気持ちを整理しよう。そして、認めてしまえばいい。


「私はリタが好きだから」


 奴隷と主人という関係を飛び越えて。

 人間と堕天使の壁を越えて、私は彼が好き。

 もう誤魔化さない。私は彼と出会った時から、彼が好きだった。


「だから助けたい」


 体に熱がこもる。

 今までに感じたことのない力が、体の奥底から湧き出てくるようだ。


 今なら走れる。何キロだって、彼のために!




 それから、私はどのくらい必死に走ったのだろう。

 足の感覚がなくなっても、決して止まらずに走った。眠っていた分の時間も取り戻すために。



 しかし――

 息を切らし、速度を上げて走っていた私の前に、厄介な人物が現れた。


「……ん? おかしいぜ。なぜかお前から、天使の気配を感じるぞ」

「あなたまさか、天使の羽根の一部を持っていませんか?」


 太陽より眩しい、純白の翼を広げた男女。

 白い羽衣を纏い、私の目の前に神々しく降り立つ。


 見た瞬間、私はこの人たちに、リタと同じなにかを直感で覚えた。

 きっと天使だ。そして、手配書をばら撒いた人たちだ。


「さっき教会に、みごと堕天使を捕まえた連中たちが歩いて行ったんだよ」

「この先は教会です。まさか、邪魔しに来たのですか?」


 一方の女性は、指先をしなやかに動かしながら言う。


「もしそうだとすれば……ここは通しませんよ」

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