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暗殺者は不死の魔女を殺したい  作者: Mikura
三章 不死の魔女と暗殺者の終わりを目指す旅

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コミックス②巻発売記念 田舎の村




 私とノクスは二人で暮らすための、理想の住居を探して旅を続けている。今回訪れたのは、都心から離れた田舎の村だった。

 地方でならのんびり暮らせるかもしれないという理由で、穏やかな気候であり、必要な時に都会へも迎える移動手段がある条件で見つけた場所だ。


 蒸気機関車の終着駅で降り立ち、座りっぱなしで固まっている体をぐっと伸ばす。吹き抜ける風が運んでくる香りは、少し前まで暮らしていた森を思い起こさせた。



「ん……空気が美味しいわね」


「自然が多い場所の空気だね。俺たちには合うかも」



 私は人生の大半を自然の豊かな場所で過ごしてきたし、ノクスも「人」として生きるようになって覚えたのは森の生活だった。やはり緑豊かな土地にくると馴染み深く感じるというか、落ち着くのである。

 二人でのどかな景色を眺めながら歩く。駅も簡素な建物で、外に出ても草地が広がり、整備されておらずところどころに雑草の生えた土の道が一本伸びているだけだ。その先には村があるようだから、ひとまずそちらに向かった。


(小さな村というものは、よそ者を拒絶するところも多い。この村はどうかしらね……)


 移住者を迎えてくれるような場所かどうか。まずはそれを確かめるべきだ。ノクスと共に村に向かっている途中で、子犬の散歩をしている少女に出会った。



「こんにちは、少しいいかしら」


「! わ……!?」



 声をかけると、目を丸くした少女は子犬を抱えて走って村の中へと入っていく。人見知りだったのか、見知らぬ人間に関わらないように言い聞かせられているのか。よそ者はあまり歓迎されない村かもしれない、と思いながらノクスを見やると、彼はニコニコと笑っていた。



「きっと、ララニカが綺麗すぎて驚いたんだね」


「……そんなことはないと思うわよ」



 ここで新しい家を探すのは難しそうだ。そう思いながらも村に近づいていくと、先ほどの少女が人を呼んだのか、数人の村人が入口に集まってきている。

 彼らは真剣な表情で私たち二人を――というよりは、私を見ているようだった。しかしその目に悪意や敵意はなく、あるのは驚きと喜びのように見える。



「……ララニカ、一応俺の後ろに」


「ええ。……大丈夫だとは思うけれど」


「うん。でも一応ね」



 ノクスはすっかり過保護になっているため、敵意を感じなくとも用心を欠かさない。

 待ち構える村人たちとお互いの顔がはっきり見える距離まで近づくと、彼らの中心にいた初老の男性が笑顔で両腕を広げて見せた。



「ようこそ、ハンナ村へ! まさか伝説の聖人さまが現れるとは……!」


「……え?」


「ええと、何かの間違いではないでしょうか。僕たち夫婦はただの旅人ですよ?」


「いえいえ、その輝く金の髪! 伝承の聖人様に間違いありません!」



 金の髪、という言葉に思い当たる節がある。……それは、天族が持つ特徴だ。戸惑っている間に次々と村から人が集まってきて、あっという間に私たちは囲まれてしまった。彼らの私に対する興味感心、好意が強すぎて、ノクスは笑顔のままかなり気を張っているように見える。



「この村へは長く滞在される予定ですか?」


「……いえ、一晩だけ宿をお借りできればと思っています」


「ええ、どうぞどうぞ。何もないところで恐縮ですが、心ばかりのもてなしをさせていただきます!」



 住む場所を探している、とは言わなかった。口に出せばここに住んでくれと嘆願されそうだったからだ。

 村長の家に泊めてもらい、その夜は歓迎の宴だとご馳走と酒を振る舞われながら、この村に伝わっている伝承を聞いた。



「昔、金の髪を持つ二人の旅人がこの村に現れ、疫病から救ってくださったといいます」



 おそらくそれは、地上に降り立った私の同族だろう。まだ祝福を返しておらず、疫病を恐れる必要のなかった天族が、村人たちを看病して、村の立て直しを手伝ったのだと思われる。

 それからこの村では金の髪が幸福をもたらす象徴として言い伝えられており、金の髪を持つ旅人を幸福の象徴、聖人として称えてきたらしい。

 だから金の髪の人間が訪れた時には、村をあげて歓迎をして福を呼び込む。そんな風習が残っているという。


(なるほど……もしかしたらこんな風に、世界の各地に天族の痕跡が残っているのかもしれないわね)


 私たち天族は、不老不死の時を共に過ごした。だから全員が知人であり、友人というか、身内だった。……この村に訪れたのは、誰だったのだろう。結婚して地上に降りていった者か、それとも私が地上に居る間に結婚した誰かなのか。顔もほとんど思い出せないけれど、懐かしさは感じる。


 食事会を終えて、借りた部屋で寝る支度をしながらそんなことをノクスに伝えてみると、彼はにこりと笑顔を見せた。



「ここに住むのもいいんじゃない? ララニカは一晩だけって伝えたけど、暮らしたいって言えば歓迎してくれそう」


「……ここはダメよ。貴方が気を張っているもの」



 彼らが持つ感情は悪意でも敵意でもない。とても親切にしてくれている。それでも強い関心を寄せる彼らが私に手を伸ばさないよう、ノクスはずっと気を張っていた。ここでは彼が疲れ切ってしまうだろう。



「私と貴方が二人とも落ち着ける場所じゃないと意味がないでしょう。……それに、急いで住居を見つける必要もないわ。ノクスと旅をするのも、楽しいもの。またこういう、天族の痕跡に出会うこともあるかもしれないしね」


「……そっか」



 ほっと安心したように息を吐き、そっと私を背後から抱きしめたノクスは、甘えるように私の肩口に顔を埋めながらぼそりと呟いた。



「実は、ララニカを好意で見てる俺以外の男がいるのが嫌で……」


「心配しなくても、私は貴方だけよ」


「うん、それは分かってるんだ。……でも嫌。一目ぼれみたいなのがいたし……俺の奥さんなのに」



 独占欲、というべきだろうか。森で拾ったばかりの頃の、何も持たなかった彼を思えばずいぶんと変わった。むしろ今の方が子供っぽいように感じる。……いや、むしろ今は「持っている」からこその反応なのだろう。

 何も持っていなければ失うことはない。今のノクスはきっと、失うことが怖いのである。



「私は命も含めて全部貴方にあげたの。……貴方が私を殺すその時まで、離れることはないわ」


「……うん」

 


 まだしばらく、私たちの旅は続きそうだ。……一生旅を続けるのも、悪くはない気がするけれど。



なんだかんだ、二人は結構長い旅をしそうな気がしますね。


本日はコミカライズ二巻の発売日です。↓に表紙が出るようにしておきました。

少年ノクスを抱きしめるララニカに、短剣を隠し持つノクス。とっても素敵な表紙ですよね…!

是非よろしくお願いします。


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小説版特設サイト『暗殺者は不死の魔女を殺したい』
コミックガルドで連載中
『コミカライズ』
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