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ハッピーエンドの世界線~悪役令嬢処刑後のとある国の議事録~  作者: コカマキリ
一章 ある国の議事録
8/40

8話

毎週水曜更新予定♪ 省略名ハピエンはありですか?

修羅場を迎えるおれ。


ふ。異世界転生をし、前世で二十数年今世で二十数年・・・。良き人生を過ごせたのではなかろうか。


スッと両手を合わせおれは天国へ旅立つ準備を始めた。


絶対に殺される・・・。おれは腹をくくった。


疾風が迫る。命を刈り取る拳が迫って来た。おれのちょうど真上をフォンっと空を切る音がした。


ん!? まだおれの心臓は動いている。


何が起きたのだ? ピシャン。窓ガラスが砕け散った。


恐らくサキュバスなお姉さんがぶん投げられたのだろう。


「きゃああああ!! いたーーーーい!」


大きな悲鳴が闇に響いた。良かった生きてはいるようだ。


恐る恐る瞼を開ける。至近距離に彼女の顔があった。


泣いているかと思ったが特に眉をひそめるでもなく、ただ少し寂しげな表情をしていた。


拳をおさめられてくれる。


ゆっくりと彼女はおれから離れていく。


「あ、あの・・・。」


おれはつい声をかけてしまった。


「こういう時。こういう時人間は寂しいって泣くんですよね。何んで浮気したのって。私がいるじゃないって。」


ボソリボソリと彼女は言葉を紡いでいく。


「でも、私は吸血鬼だから。そんな人間の妻なら当然思うその気持ちが分からない。涙も出ませんし、悲しいとも思わないんです。フフフ。可笑しいですよね。ただ目の前にいた邪魔者を排除したっていうか。」


彼女の声はとてもかすれて聞こえた。


彼女は嫉妬することが出来ない。これはもしかするとおれに対して申し訳なく想っているのだろうか。


「大丈夫。本当に何にもありませんでしたから。それより、おれを助けてくれて嬉しかったです。ありがとう。」


おれはベットを立ち上がり、彼女の側に行き、そっと手を握った。


「ただ、これはおれのワガママですが・・・。シャンドラさん(?)は他の男とくっついたりしたらおれは嫉妬しちゃうと思います。もしよかったら・・・。」


「それなら心配ありませんわ。私男性はシンさんしか興味がないんです。」


そう言う彼女の笑顔はおれの理性を溶かしていくようだった。


この後どうなったかは2人だけの秘密である。空にかかる満月が2人を優しく見守っていた。



*****



仲間のその1「何だ。すっかり肌の調子も良くなりやがって。なんか。ツヤツヤじゃねえか。」


「そうですか? いやあ~。」


「心配させやがってこのこの~。」


「すみません。今日から完全復活です!」


「ああ。お帰り新入り。そしてシャンドラさん。」


「ただいま、です。」


元気よく鈴音のような弾む声で受け答えするそのキャラ作りもおれは彼女の優しさだと思っている。




*****



港に船を物色中のおれたち一行。


船に詰める荷物の総量。乗組員の雇用。旅路の手配は隊長たちがしてくれた。


あの朝日が昇る地平線の向こうにおれたちは行く。海の向こうには黄金郷があるそうな。


おれたちは・・・。


「ふっふっふっふ。」


「こんな所で何ニヤついているんですか! 通りの人に怪しまれています。置いて行かれますよ?」


「ごほんっ。すまない。急ごうか。シャンドラさん(?)は忘れものない?」


「私は大丈夫です。それよりシンさんは?」


「ヤバい。タオルの補充用を買うの忘れてました。どうしよう。」


「し、しかたありませんね。私の貸してあげますから!」


「いつもごめんね!?」


サンダルをひっかけ荷物をしょって駆け出した。


「遅いぞ。新入り!」


「あらあら。シャンドラちゃん。旦那さんとラブラブね!」


「向こうに荷物をおけ。おれは隊長に報告があるからな。この船旅は思っていたよりハードになるかもしいれない。」


黙々と積み荷作業や、新しく仲間になる船員たちとの情報交換に勤しむ先輩たち。


「よし! おれたちもやるぞ! あ、それおれが運びます。」


「なに!? ふ。無理するな。」


筋骨隆々の先輩がおれを窘める。


「いえ。デッキ奥でいいでしょうか? グッ。重い。」


「ハハハ。だから言ったじゃねえか。そうだ。シャンドラちゃん、こいつと一緒に運んでくれ。」


「分かりました。お任せ下さい!」


「今日も元気が良いねえ。よろしく頼むよ。」


そう言ってパタパタしながら他の仕事を確認しに行った。


「はい!」


「まあ正直私一人でも運べるんですけどね。」


「ですよね。でも流石です。」


「ええ。なんせこんな重いもの先ほどのグラナ先輩以外持てませんもんね。面子もありますし。それに、女の子は重いものをもったりしたらダメなんですよ? なんでもほどほどにしときませんとね。」


あまりに力もちだと周囲にドン引きされかねない。残念ながら、人間、特に男の心理なんてそんなものだ。


それに関した機微にも聡い彼女・・・。だからこそ彼女は人気がある。


甲板を歩いて奥へと歩を進める。ざっと見た感じ、マストが3本以上ある。かなりの大型船でスピードもでそうだ。


先ほど見せてもらった図面によるとここの通路を左、そして右におれて。


あった。このドアが階段へ続いているはずだ。


「ちょっとだけ手を放しますね?」


「はい。」


一瞬だけシャンドラさん(?)一人に持ってもらっておれは急いでドアをあけた。


「よいしょっと。じゃあおれから先に降りますね。シャンドラさん足元段差お気を付けて!」


「ええ。」


中はなかなかに広くたくさんの積み荷が既に積み込まれていた。


あの大きな樽はお酒と飲み水っぽいな。そしてあの大袋は恐らく小麦粉である。


「あの辺に商品を固めておいているみたいですね。」


「どちらですか?」


「14時の方角のあそこのスペースが良いと思います。うわっと足元せまいな。」


荷物を置いてからが忙しかった。


出港する前に集合がかかる。


隊長「商人たちの入れ替わりと新しく一緒にお仕事をする事になった。船員クルーたちだ。みんな情報交換を必ずするように。」


「次の目的地はまた遠方である。今回の期間はたったの1年であるが、通常のルートよりも冒険をする。このルートが確率されたら、他を圧倒的に出し抜く事ができるからな。」


みんなの顔が生き生きしていた。


誰だって先駆者パイオニアになりただがる。だがそれは当然リスクがある。


遠くの海で暗雲と雷鳴が渦巻いていた。



*****



ヴァーサ号(この船の名前)は大変素晴らしい船であった。その速度は風のように早く、海が多少しけってもその影響をほとんど感じさせなかったのだ。


いくども海賊船の脅威にさらされながらも、歴戦の強者であった船員クルーたちは勇敢に立ち向かい、蹴散らしながら逆に彼らの金品も奪い海の底に沈めてきた。


もちろんシャンドラさん(?)の貢献度も高かった。


ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。人間が紙細工のようだった。でもシャンドラさん(?)が主戦力というわけでもないのがまた凄いところだ。


その日もまたいつものように決着が着くはずだった。


突如あれは 人面鳥ハーピィーとして現れた。


「お前たちは包囲されている。積み荷は全てこちらに渡し、速やかに投降するんだ。そうすれば命だけ見逃してやろう。」


「へへへ・・・。身の程を知らないようで。分からせてやりやしょう!」


隊長「総員準備してかかれ、相手を徹底的に叩き潰してやる。我について来い!」


全員「サー・イエス・サー!!!」


いつものように快勝し、私たちは棟梁のハーピィーの首をはねた。


「こいつらこんなに宝物ためこんでやがるぜ!」


「マジかよ! 奥まで探せ! 麦粒一粒だって見逃すな!」


「あたぼうよ!」


勝利の歓声が湧き上がる中、シンさんの姿がどこにも見当たらなかったのだ。胸がざわつく。


どこだ。どこにいる。戦闘だ。仲間の死者だって出てる。正直今回の敵はかなり強かった。こちらの被害も甚大だったのだ。


「あ、あの。シンさんの姿がどこにも・・・。」


「どうした!? シルヴィアちゃん? 確かに新入りの顔が見えねえ。」


「おい。みんな探せ~!」


隊長「まだ敵の船に誰か潜んでいるかもしれない。気を付けろ! シンを探せ!」


「おい。船倉の中にはいねえ。」


「周りの海はどうだ? まさか落ちていないよな?」


彼はどこにも見つからなかった。


唯一の痕跡は転移魔法陣が使用されたのではないかという疑惑だけ。ただその行先を知る生存者はいなかった。


言葉通り影も形もなくなってしまっていたのだ。



*****



「カーミ、いえ。ミスリーちゃん。もう息子のことはいいのよ。どうかあなただけでも幸せになって。」


「お義母さま。そんなこと言わないで下さい。私はここで待つ事にしました。だってそうでもしないと・・・。」


「ごめんなさい。私酷い事言ったわね。ごめんなさい。」


涙をこぼした私をお義母さまが後ろから優しく包み込んでくれた。


あれからもう3年たつのだ。ただふとした瞬間彼が私の横で微笑みかけてくれている気がして。


時々思わず彼を探してしまう。でもそこには当然誰もいなくて。


私の胸にぽっかりと穴が空いてしまっていた。


「約束まだ覚えていますから。だから・・・。あなたは戻って来ないといけないんですよ。」


時々そう言いこぼしてしまう。


窓辺に飾ってある天樹海産のバラが風になびき、一枚花びらが宙を舞った。






























読んでくれてありがとう♪

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