9話
更新お待たせしました。長編になりまする。お時間あるときにでもどうぞ♪ 完結編となります。2話分くらいの内容で作者お腹いっぱいです。
126年3月1日 この国の重要人物が次々と消された。未だ実行犯は逃亡中である。手がかりや痕跡は跡形もなく消え去っており、何も見つけることが出来なかった。
朝のコーヒーで頭を冴えさえ、何とか己を奮い立たせた。
ああ。空模様も怪しい。
この国のどの住民も疑いたくなるほど、私は焦燥感に駆られている。
そんな日のお昼時には町に繰り出して、いつものあの店に行く。
もはや常連客である。3年前だろうか。私はこの店の看板娘に恋をしていた。
だが、その思いは残念ながら成就することなく、私もこの気持ちを捨て去る事にした。
そんな簡単に出来るはずがないという意見は多いにあるだろう。
だが、私はこの生まれであるから。王位継承権もないのに昔からいろいろなものを我慢してきた。いや、自身の人生に不必要なものはすぐに捨て去って来た。
その方が私は幸せになれる。寂しい、悲しい、悔しい。そう言った感情は私にもある。だが、それに浸れるほど私には時間が無かった。
もちろん物理的にもだ。
でもその私の境遇から得た力が今生きて、彼女、ミスリーさんとはあくまで友人としてだが、良くしてもらっている。
そして彼女がいつも働いているこの店はとても居心地が良い。
私は今日も足を運ぶ。
お昼時に香る焼きたてベーコンのサンドウィッチ。そして焙煎が特殊だのだろう。香ばしい香りが珈琲をまた口にしたくなる。
「こんにちは。」
「こんにちは。いつもの席空けておきました。温かい珈琲お入れしますね。」
「お願いします。」
彼女は穏やかに微笑み厨房へと姿を消した。後ろで店主がグラスを磨きながら微笑を浮かべ目礼をしてくれた。
何とも心が穏やかになる瞬間である。
*****
今日もお忍び中の騎士団長さまを拝んだ帰り道、令嬢たちがこの国の情勢を憂いていた。
「ねえ。聞きまして。私の父の話ですと、この国の例の新大臣や旧政権の権力者が次々と消されているらしいですわよ。」
「あら。嫌ですわね。これというのもあの悪役令嬢さまのご実家であるブラック公爵家が没落したせいですわ。それほど我が国の防衛に貢献していたもの。」
「それにしてもあの弟君さまを引き取った騎士団長さまはさすがの人格者だわ。」
「そうねえ。元義姉さまの義弟さまをだなんて。何てできた人なの。」
「東のトッテモリスキー国の陰謀ではないかという噂よ。」
「本当になんて事なの。我が国はどうなってしまうのかしら。」
「それはそうとして、私の家に遊びにいらして? 美味しいお茶菓子を商人から仕入れたのよ。なんでも異国の地からの貴重な砂糖だとか。」
「あらそうなのね。ごめんなさいね。今日はこの後用事があって。」
「そうなのねえ。残念だわ。ではまた明日!」
「ええ。」
そう言って3人は別々に歩き出した。
そのうちの一人の後ろから、怪しげな影が迫っていた。
ふと窓辺に映る自分の姿が気になる。
少し風で髪型が崩れてしまったかしら。嫌な風ね。
通りは賑わっており、人々は活気に満ちていた。
少し日当たりしたかしら。日傘をさしているものの、若干ばててしまった。
見ると丘の向こうの開けた場所にちょうど良さそうな木陰が見えた。
そろそろ従者が迎えに来る時間である。私はポーチから懐中時計を取り出した。
後15分ほどだろうか。
辺りを見渡す。ポカポカした日差しは丘を横切る風で程よく涼む。
目の前をきれいな蝶が風に舞って行った。まるで全身で風を楽しんでいるようである。
だが、気づけば後ろから首筋にナイフのような物を当てられ、私は口をふさがれていた。
「動くな。お嬢ちゃん。なあに。命まで取ろうとは思わないさ。黙っていうことを聞くんだ。そうだ良い子にしているんだ。そうすればおれも気変わりしないからよお。」
「・・・。(コクコクッ)」
無言で必死に頷く。ナイフがすこしばかり皮膚の上をなぞった。
全身が恐怖のあまり震えて動かない。
嫌ですわ。私は死にたくない。誰か・・・。
「明日の約束・・・。無理そうですわ。ごめんなさい。」
「何を言っていやがる。大人しくしおけよ? へんな事しようとしたら容赦なく搔っ捌く!」
「は、、、い。」
かすれる声で返事をした。
後ろで誰かが嘆いた。それは先ほどの男とは別の女性の声だった。
「ああ。嘆かわしや。同族よ。どこの間者か興味もありませんが、私の同胞を屠った罪は償わせて頂きますね。」
「誰だ?お前は?」
チッ。いつのまにか背後に回らていたのか。全く気付かなかった。不覚である。
「お命頂戴致します。私の養分となる栄誉に震えなさい。」
その言葉を言い終わる頃には背後の男は既に絶命していた。
「ゲホッ。あ、あのう。助けて頂きありがとうございます。」
「いいえ~。私も食事時でしたので。」
空中に飛び散った血液がまだふわふわと煙のように浮いており、次第に流れる河のように彼女の口元に吸い込まれて行く。
その顔は伝承に名高い吸血鬼だった。だがその笑みは妙に優し気で。その矛盾がさらに恐怖に駆り立てる。
「お召し物は汚れていないかしら。良かったわ。フフフッ。」
だが私はこの笑顔をどこかで見た気がする。顔見知りの誰かの面影がある気がした。
「大丈夫です。あなたが助かったのはそういう事なのですから。だから、余計な事は考えないで下さいね? 私はこう見えても友人思いなのですよ~。」
「・・・。(コクコクッ)」
「あら。怖がらせるつもりはなかったのに。ごめんなさいね。でも、こういう事があったらできる限り私はあなたたちを助けてあげましょう。」
「はい。」
彼女は魔法を使ったのだろうか。一瞬のうちに姿を消した。
背後では人間ではない何かがすすのように地面に崩れ出していた。
*****
*隣国のある宰相の間。
「報告ご苦労であった。」
「恐れ入ります。」
「全くお主には頭があがらないな。まさか裏切りに裏切りを重ねるとは。」
「いえ。元々全てはこの国の為ですから。」
「ハッハッハ。そうであったな。まさかお前が向こう側も裏切るとは予想外であったろう。まあお前ほどなら。もう見切ってきたのだろうな。」
「ええ。その通りですわ。ホッホッホ。坊やたちのお遊びなんてシャラクセエんだって言うんだよクソが!」
「良い。吾輩はその嗤う顔が一番信用できるな。」
「ええ。ぜひそうして下さいね。フフッ。今後ともよしなに。」
「ああ。一番はお互いさまだな。今にかぎれば・・・。」
そこにはマリアがどす黒い笑みを浮かべていた。悪の華とでも言えば良いだろうか。
誰も彼女の正体を知らない。彼女を育てた諜報機関は彼女の手によって壊滅させられたのだから。
彼女自身にも何者か分からなかった。
*****
洞窟に水滴がしたたる。
青銅で掘られた古びた容器に少しでも水を集める。
最後に食事を口にしたのはいつ頃だろうか。この3年でおれはいつ仏になっても良い毎日を送っていた。
あの海賊船でさらわれ強制労働施設に売りとばされ、毎日身を粉にして働かされた。
時々酷く辛くなる。それはみんな同じで。
「絶望を良しとするな。」それがおれが最初に投獄された時に先輩の囚人に言われた言葉だ。
おれたちの仕事は地中深くまで魔石を掘り採掘するというだだそれだけだ。
とても単純である。言うのは簡単だが・・・。実際に落盤事故などで数え切れないほどの囚人が亡くなって行った。
だがおれたちは諦めなかった。一瞬で命を奪われる瞬間を・・・。
それは都市伝説でもあったのかもしれない。この洞窟には何かがいる。それは囚人たちを虐殺し、血をすするそうだ。
おれは話を聞いてから、ただひたすらに待った。言われた事をこなしながら、いつでも、それ(・・)が現れても良いように。
時々魔力でライトをともしながら、地形を視界が無くなっても分かるまで覚え込んだ。
今日もおさらいをすることにしよう。後2歩進んだ先に岩のくぼみ、その先には平坦なかべが12歩・・・。 岩陰のくぼみがその90度先に一つ。
まあこんな感じだ。
アクシデントは予想通り起こった。
おれには奴の残忍に輝く爪を見切ることなんて無理だ。だが、一見無双しているような攻撃だが、所詮は1生物のものである。僅かにだが死角が存在する。彼らの攻撃は大変高速で冷酷無比、さらに驚くほどに正確だが、高低に弱い。
だがもしおれが先に攻撃されていたら確実に殺される。
だから・・・。おれはいつもみんな列の真ん中のポジションで就寝についていた。
背後から阿鼻叫喚の悲鳴があがる。同時にやっと苦痛から解放されたという感謝の言葉も。
おれの耳にはどの声も入らない。後2秒後にこちらを通る。時間が引き延ばされたような感覚に陥る。
おれは予定通りくぼみに身を隠した。背中に生暖かい鮮血と鋭い疾風に肩を割かれる、
首をかばっていたため手の甲に深い傷を受けた。
******
これからが本番である。おれはヴァンパイアの頭文字 ”V” を空に描いた。手元を魔力で発光させて。
「ほう。生き残りがいたか。」
「名を告げる。」震える声を絞り出す。
「言ってみるが良い。」
「”ラミア” ”エンプーサ” ”アフカル” ”リリス” ”グール”・・・etc。」
10個ヴァンパイアの名前を述べる。旅の間何故かおれは毎晩枕元でミスリーさん(?)に聞かされて嫌でも頭に入れられた知識。
おれはいつだったか月明かりに照らされた船の展望台の上でミスリーさん(?)に血を吸われる前に聞いた事があった。
世界中に散らばる吸血鬼の団体の事。そしてその仲間の印である暗号についても。
きっと合っているはずだ。頼むあっていてくれ。黒い影はおれを襲ってくる素振りを見せなかったものの、無言になり時が刻まれて行く。
「・・・。驚いた。ここにおれたちの関係者がいたとはな。」
「これで認めてもらえたのでしょうか。」
「ハッ。何を言うかと思えば。そうだなあ・。お前同族の愛玩生物か? 捜索願いが出されているかもなあ。よし。ついて来い。」
「は・・・い。」ドサリ。
おれは疲労困憊と過度な出血で意識を手放してしまった。
「全く世話の焼ける下等生物だぜ。ああ。参ったなあ。ここにはつまみ食いする軽い気持ちで来たってのになあ。」
周囲には見るも無残な変死体があった。
*****
一体どれくらい眠りについていたのだろうか。
おれは故郷まで貨物船に放り込まれ送り届けられた。
久々に眼を刺す日光。そして頬をそっとなでる湿気た海風。
おれはようやく自由の身になった。
港に降ろされたおれは、真っ直ぐに我が家へと帰る。
時が流れているのを感じる。おれの髪は真っ白になっており、頬はこけ今にも倒れそうだ。
知り合いにも何度もすれ違ったが、誰もおれだと気づかない。
丘を上がり、石畳の階段を歯を食いしばって登っていく。身体はとっても辛かった。今にも倒れそうだった。
それでもやっぱり嬉しくて。自由に行動できるのがこんなにも嬉しいことだなんて。
失っていたこの心の安寧はきっと自由なのだろう。
懐かしの家にたどり着いた。
扉の向こうで家族が楽しげに語り合っている。
とうとうたどり着いた。人ならざる所業を経て。
それでも帰りたかったんだ。みんなの顔をもう一度だけでも見たかった。
もうおれの事を待っていてくれないかもしれないけれど。贅沢過ぎる願いを言うなら・・。
ミスリーさん(?)の元気な笑顔をまた見れたらどんなに良いことだろうか。
カランカラン。ドアのベルがなる。
果たして君はそこにいた。どうして。おれの事なんて諦めてくれて良かったのに。会いたかったよ家族。
でもおれたちの関係だって変わっていてもおかしくはない。
「いらっしゃいませ。こちらの席へ・・・。」
「やあ。元気そうで嬉しい。信じられないかもしれないが。おれだシンだよ。」
「・・・。」
みるみるうちに彼女と家族の目に大粒の涙が浮かんだ。
気づくとおれは床に押し倒されていた。いやあ相変わらず目にも止まらぬ速さである。
「今までどこに・・・。いえ。ずっと待っていたんですよ。シンさん。フフッ。温かいなあ。生きている。側にいる。喋っている。」
おれの顔や胸をまるで存在を確かめるように触ってくる。
おれは言葉が出なかった。何を言うかあんなにも考えてきたのに。それこそ3年もだ。
でも言葉より身体が動いた。
彼女の優しい手付きの小さな手をおれのゴツゴツした手がからめとる。
そっと優しく握りしめた。キュッと手に力を込められて骨がきしんだ。
「君に会いたかった。それと・・・それと。」
「言わなくても良いです。だって私今聞く余裕がないんです。後でまた教えてくれると嬉しいです。」
それに・・・と彼女はおれの上からどいてくれると手を差し伸ばしてくれた。
「みんな、待っていたのですから。」そのほほえみは波ひとつない水面を彷彿させた。
おれは彼女の本当の名前すら知らないのに。それでもこの気持ちはきっと本物だろう。
奥で2人がくっついているのをニヤニヤしながら見ている両親がいた。
*****
この町に遊びに来たならば、ぜひ遊びに来るべきだ。ここはとある夫婦とその両親が切り盛りする小さなお店。
そこにはいくつもの幸せが溢れている。
読んでくれてありがとう♪ 実らなかった恋の後にも素敵な関係があったらいいなあ。
一晩明けてみるとpv数が急激に伸びており、びっくりしました。たった9話で終わらせてしまったのが申し訳ないくらいたくさんの人に読んでもらえて、作者とっても嬉しかったです。どうもありがとうございましたm(__)m
作者最近自分の作品振り返ってみて見まして、一番書くのが楽しかった作品を増筆したくなりました。良く考えれば作者ヴァンパイアが大好きだったので、ダークサイド側からも書いてみようと思います。2章は主人公たち総入れ替えになりますが、世界線は一緒です。
人間を吸血鬼たちは対等な存在として認めていない、そんな世界を描いていけたらなあと思います。投稿はまだ先になるかと思います。




