39話
お久しぶりの投稿できて嬉しいです
~~世界は広い・・・。自分が救えるものなんてこの手が届くものだけだ。だから坊主。もし救えない命があってもあまり気に病むな。~~
もしもどうしても振り切れなければ、毎年失った者たちの墓参りすると良い。だが忘れるな。他にも助けを待っているひとがいるのだから。現実は時間は待ってくれねえぞ。~~
そう言っていたのが私の剣の師匠ルーブル騎士団長だった。しばらく彼には会っていない。もう7年ほど彼の声すら聞いていないのだ。顔も忘れてしまった。隠居したあとはラクスーニの森周辺で森の冒険者たちへ指導をしたり街の修道院のシスターたちの力仕事を手伝っているらしい。
王族が滅ぼされ、私も昔の地位を追われた。元王族を取り込んで国の安定を図ろうとする勢力により今の地位へと就任させられたもののむしろ私にはありがたい申し出だった。家族が断罪され兄も失った今そのことを報告して一緒に喜んで欲しかったのは師匠しかいなかったのだ。
だがこの仕事にいざついてみると人の命などは書類の数字に溺れている。
だがそんな私の悩みなんてどうでも良い。今この目の前の敵を倒さなければ犠牲者は増えるばかりなのだから。
「団長! まだ残党が残ってそうだ! 魔力探知にも引っかからないが。 恐らく手練れがあと何名かいる!」
「では残りはサタンお願いできるか。」
「ああ任せてくれ。レイン行くぞ。」
「・・・。」
相変わらず返事はなかったが、どうやら彼女はおれと相棒を組んでいるという認識でいてくれているらしい。
国力が落ちた今、人口も多いこの国は他国からのマフィアやギャングの侵攻を許してしまっている。滅びて属国になった国などはもうすでに一大勢力となった組織が食い物にするにはあまりにも都合が良かった。
150年前終結した100年戦争以降、大きな戦争もなく均衡した各国の勢力。ギセイニナール王国が勝手に自滅していったのは、私たち元王族が不甲斐ないせいである。
だが今危機感を持つのはそこではない。犯罪組織が犯罪に手をそめるのは当たり前のことだからだ。問題は今朝ばらまいていた一般市民をたきつけるようなビラである。
他国・・・。恐らくこの諜報活動をしているであろうフランチェスト共和国ではどれほどの善政が行われているか持ち上げ、我らが国が今までどのような失態をしていたかが幾分にも虚飾され書かれている。横領を行っている領主の噂や騎士団の職務怠慢により国外からの侵攻を許しているという現状を憂うような内容だ。
真実2割嘘8割といったところだろうか。我が国は兄上の進言の策ににより10年程前から識字率が高まっているという。文化水準の底上げを目指した兄上らしい民草を思いやる政策のはずだった。
まさかそれが裏目にでるとは誰が予想できただろうか。
昨日チュラジア王国の斥候を何人か逃してしまった。どこからか私たち騎士団の情報がもれているのだろうか。撤退への転身があまりにも早いというか、忌々しいほどに良い逃げっぷりである。他国を脅かす侵略者の分際で。なにをそんなに堂々としていられる?
だがそんな小さなことを気にする奴らではない。レインとサタンのコンビはまさに修羅のように相手を倒して行く。夜の街に逃れようとする者たちへ無慈悲な刃が闇を駆け抜ける。窓ガラスに飛び散る血しぶき。断末魔が鳴り響く。派手にやっているな。
圧倒的な戦闘力。生物としての次元の差を見せつけられるように命を刈り取った彼ら。私の右腕一本で彼らを味方にできたのはあまりにも幸運であったのかも知れない。まったく敵にまわしていたらどうなっていたか。サタン。お前が味方で本当に良かった。
古代から受け継がれてきた石英の石畳に亀裂が走っている。足元は整備する仕事が増えてしまったようだ。少し離れで敵の諜報員が起動しようとして魔道具を壊す小さな爆発音が暗闇にコダマした。
ざっと30人ほどだろうか。引き裂かれた血まみれになった服を手繰り寄せ遺体を集めて壁に持たれかけた。
「おい。団長。誰か来てんぞ。」今朝新調したばかりの短剣を鞘に収めながらおれを呼んだ。
後ろを振り返ると、小さな手のひらが2つ手招きをしているのが見える。暗闇で行われていた惨劇には似つかわないあどけなさを感じて思わず微笑んでしまう。
角を曲げると、そこには小さな影が2つあった。黒いフードから覗いているくり色のカールした髪。その少年の袖を掴むようにこちらをおずおずと見上げている少女。何度もあったことある顔である。
「こんばんは。団長さま。」
「ああ。元気にしていたか。」
コクリとうなずく仕草は彼らが素直で純粋であることを語っていた。
「団長さま。急ぎのお話です。国境付近で情報を運ぶ悪いひとたちの小競り合いがあったそうなのですが、2週間前に顔を見つけたらしらせろといわれていた例のひとたちが死体で見つかったそうです。」
「そうか。国境付近との連携は出来ているようだな。報告ご苦労であった。今日はもう遅い休むと良い。」
「ハッ。団長さま。」
不慣れながらも礼儀正しく一礼をし、少年たちは消えていった。
「団長今の子はどういった境遇か教えてくれないか?」
「彼らは戦争孤児でな。親が異民族との小競り合いで命を落としてしまい、心に傷をおっている。もう元の平穏な生活に戻れなくなってしまった。だから私は情報屋主に人探しをさせている。そして親がわりの衣食住と義理の親を与えた上で本人たちに選ばせたうえでだがな。」
「あんな小さな痛い気な幼子まで・・・。これがこの時代なんですかね。団長。」
「ああ。少なくとも彼らは自分たちのような境遇の子をうみだしたくないと運命に抗っている。もちろんおれの心も彼らとともにある。侮るのは愚かだ。彼らもまた一人の戦士だ。」
ああ、だろうな。とサタンはうなずいた。失ったものがあるひとは強い。それは故郷の村の連中を救うために剣奴となっていた彼にとってもは身に染みて分かる話だった。
お金。全てはお金のためである。彼が長年闘技場で身を切って稼いだものは元司祭崩れのある医者へと支払われていた。誰もが匙を投げるほどの難病も彼は治療できた。
残念ながら完治には至らず、元々身体が弱かった彼の妹と母は延命はできたものの1年前に相次いで亡くなった。娘が先に命を落としたのが耐えられなかったのだろう。母は弱っていた体を酷使し最後おれに会いに来てくれたが、その後数日ほどして儚くなったと試合後に聞いた。
「嫌なことを思い出しちまったな。団長の探し人の情報が入ったらよ。おれにも手伝わせてくれ。生きている人のために使うっておれはもう決めてるんだからよお。」
「ああ。もちろんだ。その時はおれを助けてくれサタン。あとレインもな。」
「שלמהΣολομών?」
彼女は何といったんだ?
「赤が・・・。いやこれは血や匂いが落ちるかな? だそうですよ。」
「流石だな。」
「簡単なことならイントネーションで理解しています。」
この2人早く付き合わないだろうか。いや私もひとのこと言えないが。
「仲良くできていて何よりだ。」
「そう言ってもらえて助かります。」
しかしいつ見てもグロいな。死体の処理があまりにもスムーズである。それらはレインの操る魔訶不識な術により魔石へと変えられていく。
これは恐らく禁術のたぐいなのではないだろうか。悪いがうちの第2秘書には知られるわけにはいかない。だが予算が厳しいのでこっそり騎士団本部用の魔石はこれを使うとしよう。
一通り作業が終わりとサタンが匂い消しの香水を渡しているのが見えたが、レインによって瓶ごと石畳の通路にばらまかれ、顔から表情がなくなってしまっていた。
ポケットから財布を取り出しお金を握らされていたのは見なかったことにしてあげようと思う。まあ2人とも頑張れ。ささやかな応援しか出来なかったのが悔やまれる。
読んでくれてありがとう♪




