20話
なんとなく書いて見ましたが、思ったより良かった。漫画みたいに情景が浮かぶような作品にしたいなあ。
昨日の晩のことを思い出す。いや。なんと言えば良いのか。
私は最後にこのひとと決めた男がなんとなく頼りにならないのである。
こんなことを考えてしまうのにはもちろんわけがある。
彼は親身に相談に乗ってくれるし、誰にでもひとあたりよく接して和やかな雰囲気をお裾分けしたり・・・。私にはとてもできないことだ。
ときどきアホなことまた考えているだろうというのが見てとれるほど、彼のことはついつい目でおってしまう。
きっと私の友にそんな相談をするとお熱いことでとかなんとか下世話なひやかしをされたりするのが目にみえているから言わない。
ただ・・・。きっとこの思いをあえて口にするならば。
彼のことを気にいっている。これに尽きる。ほらまたこっちをみてニコリとほほえんでくる。
彼の笑顔が好きだ。普段は特に熱をふくんでいるわけでもなく、ただ自分の好きなことに一途なところ・・・。
ふとしたときに私が後ろをふり返り手を伸ばせば彼はギュっと手を握りしめ、やはりまたニコリとほほえむ。
その笑顔はいつもとはまた違った、一心に私だけを見てくれているような温かさがあってなにより安心感を抱かせる。
ふう・・・。また彼のことを考えてしまっていた。私はほんとに見境なくなりがちである特に最近は。
歳の功をいかせなくなるから、恋愛とか愛だのは嫌いである。酔いやすい体質なのは永遠に変わらないからかもしれない。
といっても実に1000年ぶりであるから余計に邪魔に感じる。
程よい心の距離感。それが・・・。いやもう今度こそやめよ私。先ほどの決意があわや無駄になるところであった。
「外からよい風がはいってきますね。こんな日は地元のひとイチオシのあの広場に行くチャンスですね〜。良かったら行きませんか?」
眉間にシワをよせて考えごとをしていた私を誘うだと? 命が惜しくないと見えるな。よい度胸だ。研がれた爪先に意識が集中した。
「帰りに新作のスイーツを買って帰れたら良いなって思ってまして。宿屋の屋上の展望台で午後のお茶会もできますし。師匠たちは今日別の用事があるそうなので。」
「うーん。」
「あ、もちろんおれひとりで散歩した帰りにお土産で買ってきても良いですから。シェーンさんはまだ安静にして欲しいというのが本音ですよ。」
「しかたないな。たまには散歩付き合ってやる。」
とたんにこいつの顔が輝きだした。たまには、良いかもな。
「では少し準備があるから先にいっといてくれ。」
「分かりました。」
あいつが部屋を出てドアをしめたのを確認してから外出着に着替える。
ぼんやりと階段をおりていくとなぜかつま先を段差にぶつけた。ジーンとしびれる足をさすりながら世界中の段差を呪った。
宿屋の受付の方に挨拶をし、出入り口へと向かうとあいつはいた。
「こっちです。」
そう言ってやつは歩きだしたがなぜか私の手を引いて離してくれない。
私はべたべたされるのが嫌いなのでいつもは気を使って遠慮してくれるのだが・・・。
「そろそろ離してくれるか?」
「もう少しよいですか? 外にいくのを誘ったのはおれなのでちゃんと見ておかなくては。この間だってスケルトン族の方吹き飛ばしてましたし。彼瀕死なってましたよね。」
い、今その話を持ち出されるのは大変よろしくない。マズい。断る雲行きがどうも怪しくなってきた。
「その件に関してはほんとに迷惑をかけてしまった。彼にもお前にもな。」
「それにシェーンさんは考えごとで少しうっかりやらかしそうですからね。おれが責任もって見とかなくては。」
「なるほどなるほど。で、本音は?」
「たまにはおれだって手をつなぎたいですよ。そんな日もあって良いのでは?」
お、おお。わからんな人間は。
「仕方ないな。今日は合わせるよ。」
「ありがとうございます。あ〜。あと10分ほどで着きます。」
「意外と近いのだな。」
「そうなんです。おれもまだ行ったことないので少し楽しみなんですよね。」
急に閃いてしまったことがある。だが私がしても良いのだろうか。《男をぬまらせる愛される罪な女を目指せテクニック100》に確かあったやつ。
「なあ。お姉さんが腕組んであげようか? 男はそういったのが好きなんだろう?」
「!!!」
おいなんで死神を見るような目で私を見るのだ?
「まだ明日もおれは左腕を失いたくないので遠慮しときます。それより事前に聞いてくれてありがとう。いやマジで。」
なんだ私を怖がっているのか。可愛いやつめ。ちょっと強めに手を握り返えすと鬼の形相でこっちを見ていた。
「じょ、冗談だ。すまない。」
「当たり前です。」
こいつ怒ったら怖いな。
むむう・・・。悪手だったか。私は自分の間違いを認めるのは容易だ。こいつよりもずっと年上のお姉さんだからな。それくらいはできないとな。
宿屋にいたときに例の怪物についてどうやって勝機を作れるか、優位に立ち向かえるかその恐怖と悩みから抜け出せなかった。
幾千を生きる私でさえまだ見たことのない脅威度の例の化け物。まるで勝てる気がしない。
だからこの私でさえ頭を抱えていたわけだが・・・。
彼に連れて来られた広場は大きな木の下に落ち着いた色彩の大理石のベンチがあった。
ちょうど木かげがあり小鳥がさえずっている。街の中なのにまるで森の中のような静けさだ。
「風がきもちよいな。」
「ええ。」
となりに座るやつからはどこか気の抜けた返事が帰ってきた。
「ふう・・・。」
「今は少しだけ。なにもせずゆっくりして下さいね。あんまり気を張るのも疲れてしまいますから。」
そう言ってやつは爽やかに笑ってみせた。
「人間は不思議な生き物だな。」
「そうかもしれないですね。」
「ああ。不思議だよ。」
コクリと頷き2人はしばし無言になっていた。
ふと空を見上げる。なんてことないただの青空。ただ空はこんなにも青かったのだな。みょうに感心してしまう。
ヒュウウ・・・。木々が風になびく。
「シェーンさん。こんなこと私が言うのは無責任ですが。聞き流してくれても構いません。あの例の化け物に立ち向かうのはシェーンさんでなくてはいけないのでしょうか。」
「・・・。」
「もし、現代の死の女神の仕事だとしたら。彼女の功績への礎になる可能性があるのなら。シェーンさんが戦う必要はないのかもしれないです。むしろ彼女の成長を奪ってしまうのでは。」
「うん。そうだな・・・。不本意ではあるが。」
「資料をみた限りではシェーンさんさんと例の化け物は戦闘の相性も悪いとも思うのです。」
耳が痛いな。こいつは私のことを心配してしゃべってくれている。
私だって気付いていた。もし次私と例の化け物が再戦した際には最悪私は命を落とすだろうと。
肩が少し震えていた。ほら私はいつからか気がふれている。最愛の仲間たちが先に天国へ旅だったときからか。はたまた普段の日常生活からか。
どちらでも良いか。
「クッククク。お前には私の不安は話してなかったのだがな。態度にも気をつけていたというのに。」
なぜか笑い声がこみ上げてきた。
「そう、ですね。確かに。でもおれは話して欲しかった。辛いなら辛いと泣いてときには甘えて欲しかった。でもそうじゃないんです。」
「ああ。」
足元の小石を何気なく蹴飛ばすと大空に消し飛んでいった。
「なんだなにも言わないのか。」
「言わないですよ。シェーンさんがおれに素直にならないから。」
帰り道の私たちは特になにも話さなかった。途中新作スイーツを5人前買ってお土産にしたが、あいつらは夜まで帰ってこなかったので結局私が4人前食べた。
夜寝る前に私の弟子へ手紙を書いた。師事した期間はなんとも短い1ヶ月という期間だったが、やつは私の人生の中で他とは格が違う可能性のかたまりだったので引き継ぎはとくに問題なかった。
やつの名前? さあ知らん。元ギセイニナール王国の皇太子妃を演じていたことくらいしか。
やることを終えやさぐれていたから説得するのは容易だった。今まで悪いことをしてきたという自覚があるからか。これからの人生は人々のためになるように生きたいと言っていた。
まあ暴走したら私が後始末をつけてやる覚悟はある。
さてそんなやつに私は初めて頼ってみることにした。この決断はリベルお前に出会う前の私にはできなかった。
少しだけ、ほんの少しだけ君には感謝してる。だが恥ずかしいから今の私にはまだ言えない。
文を背負った伝書鳩が朝焼けの空へ飛び立っていった。
読んでくれてありがとう♪




