21話
時は昔。シェーンさんの回想回です。
今から1500年ほど前、今でいうところの神話の時代である。人類と他種族が各々対立し、戦争がこの世にはびこっていった。
「いよいよ明日、魔王討伐だ~~~~~~~~~!」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「長年の恨み晴らしてくれるわ!!!」
「ぶち殺せ! クソどもを血祭りにあげるのじゃああああああ!!!」
周囲が戦争への歓喜に沸いている中、私は当時もっとも力を持っていた占い師のおば様のところに顔を出していた。
「なんじゃお主。勇者一行側についた魔族じゃろ!? なぜここにおる?」
「なんだ私を知っているのか? なかなかやるではないか。」
「・・・。」
「うん? どうかしたのか?」
いやお主有名人ではないか? なぜ不思議そうな顔をしておるのじゃ? お主まさかわしをバカにしておるではあるまいな!?
表情を微動だにせずわしは頬の肉を奥歯で嚙み締めた。少し肌寒いのか鼻の奥を隙間風が刺激し思わずくしゃみをしそうになる。そういえば今日の予報は曇り時々雨じゃったな。
自分でたてた予報を忘れるとはいよいよわしも歳じゃな。
「まあ良い。そこにかけなさい。」
少し店の奥にある灰色のテーブルへ案内する。ここでは良く将来を占ってあげている。あくまで未来の一端しか予言できないわしじゃが、ときにはその予言を確かに実現する人もいる。
預言者以外への説明としてはかなり難しいのである。しかしあえて上手くひと言でまとめるとなると、運命の螺旋に組み込まれやすい体質のひととでもいうのだろうか。つまりはこの吸血鬼そちら側の存在であった。
なんの苦労もせずとも彼女の未来は見えていた。だがどの程度本人に伝えれば良いものだろうか。ここがいつもの悩みどころではあるが、変えないように、逃げないようにわしは事実を少しだけ口にする。
「お主のパーティのメンバーがお主のことを探しておるぞ。早く帰ってやると良い。お主の死に場所はこの時代ではない。もっとずっと先の未来にお主が気になり始めた種族。やつとの出会うじきにお主の生は尽きるであろう。今言えるのはこれだけじゃな。」
最初こそ目を見て話していたものの、次第に気まずくなりわしはこやつの背後の薬棚へと視線をそらした。
「そうなのか。ありがとう。おば様。また来るよ。」
「なにをいっておる。お主よりも何倍もわしの方が若いわい! はよいけ。お代はお主の遠征先のムランヴァジェーレ.176の薬草でよいぞ。」
「なんとそこまでお見通しか。まいったな。任務が終わりしだいに送らせてもらうよ。世話になった。これはほんの気持ちだ。」
「良いといってるじゃろ。まったく頑固な吸血鬼じゃな。置いていこうとなさらないではくまいか。」
軽く手を振りやつは嵐のように去っていった。もう2度とあうことはないじゃろう。お主はこれからあらゆることに巻き込まれる。わしの老い先短い人生の中でそのことを思い出す暇もなくなるのじゃからのう。
だから、あえて送らせて便箋にしたためて彼女が思い出すことのできるきっかけを作らせてもらおうとしようか。せめてもの彼女の応援のためにな。なにを隠そうわしは昔から彼女の大ファンだったんじゃ。昔からのう。まさか占い師としてわしの名が広まり、王家御用達だとかそのような身分になれたわしの元に彼女は来てくれた。
ああ。わしは占い師になって良かった。昔は魔術師になるか薬師になるか、今自分が歩んでいる道に自信をもてなかったのじゃが。それでも、少女だったわしが出会った特別な魔族。親を戦争で殺され夜の闇に怯えていたときに彼女だけが手を差し伸べてくれた。
ほんの気まぐれだったのかもしれない。いやおそらくは彼女の日常の他愛ない日常の一幕にすぎぬのかもな。だが彼女にとってはその程度の関わりであったとしても。わしとその他大勢の孤児たちを転移魔法で戦火の外へ逃がしてくれたときの彼女の後ろ姿がいつまでも頭を占めている。
虚空をきりさく火矢の雨、景色をおおう魔弾、耳を震わす大規模魔法の爆裂音。生きた心地がしなかった。とんできたがれきで頬を切り裂かれたことにも気付けないほど慌てふためいていた。
ー<大規模転移魔法・シノグランデ> 手のひらに圧縮された魔力が集まり、一瞬にして視界は真っ白にそまった。
ポケットの中を探った。家族との思い出の肖像画入りの持ち運べる用の折りたたみ手鏡をつま先でなぞる。
「ここは安全だ。怖い思いをさせてすまなかったな。救えなかった命もあった。だが、そのものたちの願いはお前たちが生き残こることだ。私にはここまでしかやれることはない。すまぬな。修道女たちよ後はたのんだ。」
そのとき感じた憧れが心の中に今でも根付いている。幾十年ものときが流れてもあの時の出会いはわしにとっては特別であり続けている。本人の前ではとても言えなかったのが残念ではあるが。
だからこそ、ていの良い返事をし、彼女を戦線へ復帰させた。彼女はそこにいなくてはならない存在だ。そこにいるだけでたくさんの命が救われるのだろう。例え彼女にたくさんの悩みがあろうとも。
彼女が消えた玄関先へ向かい、そっと戸を開いて虚空を見つめた。もう彼女はそこにはいない。ただ名残惜しいような嬉しいようなこの気持ちがやんわりと満足していくのを感じた。
ありがとう。商店街には何人か買い物客が出入りし、挨拶が交わされていた。
ーリンゴーン。もうこんな時間じゃったか。そういえばしばらく訪ねていなかったが、教会の生臭坊主も彼女に命を救われたくちじゃったな。
これは良い土産話ができたわい。いつもより早めに店をしめ、わしはやつの元へと向かうことにした。
*****
そしてこの第二部のヴァンパイア編はこのときから始まっていた。月日は流れ、今では戦争も終結し、國のトップが変わるようなこのご時世。
ふとしたときに開いた物置の書類の束の前にたたずむ一人の吸血鬼。昔を懐かしむような気持ちとともに次にやるべきことを自分の中で見つけていた。
「ふむ。やはり人間じゃな。どれ少し探してみようか。物好きなやつを、な。」
闇の中に彼女の微笑みが溶け込んでいった。満月のある夜、お妃候補が命を落としたと世間ではされている日。一つの影がゆらりとひとの街へ踏み込んでいった。
読んでくれてありがとう♪ 久々の投稿ですみませんm(__)m だいぶ短い話です。




