10話
新年あけましておめでとうございます。第2章をつくる初の作品になります。いったん完結したのに、また再開する軟弱ものの作者でごめんなさい。頑張って1章のように楽しい作品を目指せたらと思います。
異世界転生ってもしかしたら意外と知られていないだけで、案外大多数の人が経験があるのかもしれない。
自分が元日本人で、気づいたら乙女ゲームの世界に転生していたと気づいてしまったら?
そんな前世を思い出したようなノリでおれは自身の境遇に驚いていた。おれ、異世界転生してるじゃんと。
ここはあるネット小説の世界観で、ここはギセイニナール王国。そして今は悪役令嬢が処刑された直後である。
第2王子の権力は盤石なようにみえた。おそらく国民の聡い人たちは大変なことになったと騒いでいるものの、おれはそんなに危機感を抱いてなかった。
それにこの街にはある素敵な夫婦が経営する喫茶店がある。仕事の息抜きがてらに大変愛用していた。
そして、その店にはあの人がいる。
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「おい、兄ちゃん!? この魔導書もう少しまけてくれねえか? そりゃあ需要はあるようだけれどよ・・・。これファイストの発動短の詠唱魔法と基礎知識って。あんまり貴重とは言えないだろうがよ!」
「すみません。店長の言い値から少しだけがんばらせてもらいましたので、この辺で勘弁してください。」
「うーん。でもよ・・・。」
「それにお客さんは今これが必要なんです。あなたは本を探しに来たんじゃない。あなたの世界をひろげるために来たのですよ。ああ。この魔法が使えたら便利だろうな~。冒険とか!」
「グググ・・・!」
おお揺れている。あと一息♡
「それになかなか習得が大変でして・・・。今なら魔法について詳しいあの人に一筆書いてあげるんだけどな~。どうしよっかな~? 」
「ご、ゴクリッ。」
「そ、その辺のお話詳しく!」
「まいど~! また来てくださいね~!」
「お、おう! そんでちゃんと話通しておいてくれよ!? 本当に頼むからな!?」
「もちろんです!」
ドアまでお客さんを見送っておれはググっと両腕を伸ばして天を仰いだ。
「ああ。今日も仕事疲れたなあ~。やっとあそこに顔を出せる・・・。」
店に鍵をかけ、おれはさむさむ言いながら手をこすり合わせ外へ出た。そうここは魔導書や過去の歴史書のお店。そして異世界転生者であるおれはそこの店員である。
むかしから本が好きだった。おそらく前世でも。あまり覚えていないが好奇心旺盛であったように思う。
そんな前世のしがらみか・・・。おれは転生しても本に関わる仕事を選んだらしい。
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この国にも昔はなにがあって今はどんな感じだみたいな議事録のようなものがある。おれの上司、つまり店長は初老の男性のかたで、王宮御用達のお偉いさんである。
だからこの店はなんていうかまあ前世でいるとこのブランド店みたいな箔がついていて、どこにいっても名が通っているので不便に感じたことがなく、大変仕事しやすい。
毎日に不便なんて感じていない。夜のそのみんなが寝静まるその瞬間におれは少しだけ睡眠時間を削り、この国の歴史や人物、また魔術についても学んでいた。
別に魔術師ってわけでもない。そりゃあ簡単な魔法くらいは使える。だが、あくまで初級魔法である。
プロフェッショナルな職業であるので、まあそれなりに知識を必要とするものの、あくまでそれなりである。
まあ自信があうものと言えば、魔術書が燃えたり破損したりしないようにする「”保存の魔法”」くらいだろうか。
仕事でよく使うし、それなりの腕だとおもう。別に特別な能力でも何でもないのだが。
残念ながらおれは転生チートとは無縁の生活を送らざるを得ないらしい。
「もうすっかり冬景色になっているな。」
「いらっしゃいませー! 美味しいココアはいりませんか? いれたての美味しいやつです! きっと身も心もあったたまりますよ! そこのお兄さんはいかがですか?」
にこにこと笑みを浮かべてくる売り娘の彼女はおれの幼馴染のアリスである。
昔はお兄お兄と懐いてくれていたもんだが、それぞれが大きくなるにつれ、お互い距離をとるようになった。それに今となっては付き合っている彼氏もいる。
まったく大したもんである。おれなんて仕事するだけで心が精一杯であるというのに。
「ああ。じゃあ。一杯頼もうかな。繫盛しているかい?」
「ふふっ。まあまあかな? ちょっと多めに入れたげる! あんたも早く彼女見つけなさいよー!」
「ハハッ。余計なお世話です。」
別に嫌味なんかじゃない。ずけずけしたものを言うやつなので、かえって気兼ねなく話せる良い関係だとおもう。
「はいどうぞ。またあのお店? ほんとに気に入っているね? あんたらしいわ。後・・・。今日もお疲れ様。」
「ありがとう。」
コップ越しに伝わってくるココアがあったかい。いや。アリスの気づかいかもしれないな。異性として意識していないのが救いである。
月明かりに照らされた夜道を歩く足取りは軽やかだった。
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ちょうど5分後。
「どうも~! こんばんは! また来てくれたんですね! ふっふっふ! 今日はとってもすこぶる調子がいいんですよ! 私!」
ニコニコと笑いながら栄養ドリンクをカップ一杯につめて差し上げる。
「あら。ありがとう。」
軽く会釈をし、吸血鬼は微笑んだ。
「はーい。毎度ありがとうございます。お客様。」
ここの店主が完璧な営業スマイルをふりまく。
吸血鬼はほっとこの空間でひと息ついた。まるで 吸血鬼さえもがリラックスさせるようなホワッとした雰囲気の店。
いつも週末訪れるのが大変楽しみである。
「あの、マスター!? 今週のスペシャルデザートの注文よろしいかしら? まだご注文できます?」
「ええ。もちろん。ホールは頼みましたよ。シャンドラさん。」
「ええ。」
任せろとばかりにふふんと得意げに力をこめ、グラスを割るウェイトレスさん。彼女は吸血鬼だった。今では旦那さんと一緒に店を切り盛りしている。
ああもう少しでアイツが来るな。
カランカランとドアのベルが鳴る。カツカツと革靴の乾いた音が近づいてくる。
「お隣おじゃましても!?」
「どうぞ。なんだ・・・。 またあの話を聞きに来たのか? 君もこりないねえ。」
「ええ。よく言われます。」
「ふふっ。だろうねえ。ではなにから話そうか?」
「この間の文献の真相からお願いしたいです。」
「ああ。では始めようか。おっとその前にほら。飲み物を君も頼んで。なに。時間ならまだあるさ。私も今から食事なんだ。君に合わせて・・・。ね・・・。」
「もう・・・。からかわないでください。」
「あら。意地悪な女性は嫌いかしら!?」
「嫌いじゃないですよ。ところで、なんでそんなに昔の話に通じているのかお聞きしても?」
「あら? そろそろ気になって来たのかしら? でもそれについてはお答え出来かねます。」
「やはりそうですか・・・。」
「ご不満!?」
「い、いえいえそんな! 不満だなんて! むしろこんなめんどくさい話に付き合ってくれて感謝しているくらいです。」
彼女はふっと笑い昔の話をはじめた。おれはこの時間がたまらなく好きだ。まるで時間がタイムスリップしているようで。
「今から300年前・・・。あの日はそう陽光が野原を照らし、戦争あとの血があたりにかぐわしい香りを醸し出していた。」
「??? あ、そうか。そういえばお姉さんは吸血鬼でしたね?」
「もちろん。たまにはこちら側からの歴史を学ぶも悪くはないあるまい? 後話をおるな! あんまり時間がとれないぞ?」
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*以下話の内容
●●●年。闇の生物たちの歴史が大きく変わろうとしていた。とはいっても各種族のいがみ合いはおびただしくあくまでも吸血鬼一族のみであったが。
ある特殊個体の出現が確認され、勢力図をたじたじと広げていた人間の国家たちは思い知らされることになる。
自分たちはこの世界の”支配者”には成り得ないということ。その特殊個体の特徴は漆黒の艶やかな黒髪とも夜を照らす満天の月の化身のような銀髪ともいわれ、詳細は誰にもあずかり知れないことであった。
だが、人類史には後の世にこう刻まれたのだけは確かだった。かの個体の出現により周辺諸国の連合軍壊滅的な敗北をせり。
敗因を人類は現在にいたってもあらゆる軍人研究者によってされているものの、とうとう解明されずにいる。
あまりにもきかかいな出来事であったのだから。
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「ここのところなんですけど、それくらいしか人には伝わっていないんですよねえ。ほんとのところはどうなんでしょう? (ワクワク)」
「ただの吸血鬼だ。なにも他の個体と大差なかったとも言われている。人類はなにかと理由をつけたがっていかんな。そういう運命だった。そう思えば良いじゃないか?」
「でも、そんなんじゃあ納得できませんよ? おれは!」
「ああ。だろうな! 君ならそう言うと思っていたよ。じゃあ・・・。行ってみるか? 魔物の國へ? 私と一緒にな。」
お、お姉さんと一緒だ・・・・・・と・・・・・・?
まるで時が止まったように。おれの思考は停止した。
机から床から黒いもやが黙々と立ち上がる。背筋がゾクゾクとするのはご愛嬌である。
「店長勘定よろしいかしら?」
「はい・・・。いえ。こんなには。」
「あら。チップよ!? 受け取って。」
「まいど~!」
「ちょっと!? ここで転移広範囲魔法使わないで下さいよ!」
とちょっとご立腹な吸血鬼。
おれの意志は置いてけぼりに新たなる旅が始まろうとしていた。
読んでくれてありがとう♪




