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【コミックス1巻発売中!】ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる。  作者: ゆいレギナ
11章 ひっそり青春を楽しんでいた

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第92話 悪女、色男を泣かす。


 気が付けば、私はアイヴィンに連れられて階段の陰に連れて来られていた。

 適度に暗くて、人目も避けられる場所。つまり見方によっては、女の子に告白する絶好スポットだったりする?


 案の定、アイヴィンが私の顔の隣の壁に手をついてくるしね。


「俺さ、きみに興味があるんだよね」

「私には……ありません」


 これが一緒に回帰してきたアイヴィン相手ならもうちょっと柔和な対応してあげるところだけど。

 もちろん、今私に詰め寄っているアイヴィンは純正十八歳のアイヴィンである。


 つまりあれだ。私が王子だったマーク君を狙った暗殺者じゃないかとか疑っての行動である。


「へぇ、俺けっこう見た目には自信あるんだけどな。ちょっと残念かも」


 そう言いながらアイヴィンさん。より顔の距離を詰めてくるのは勘弁してください。

 私は全力で視線を逸らすけど、めちゃくちゃ至近距離で見てきますね。特にメガネに興味が津々ですか。見る目ありますね、これあなたの義父が作った最新作ですよ。


 ……というところで、私は思い至る。これ、誤魔化すのに限界があるのでは?


 だって魔導研究所の最新作をかけているわけだし。ちょっと服とか捲られたら、彼が復元真っ只中の実験サンプル本体なのだし。その前に魔法をぶっ放して逃げるのは……大事になっちゃうし。


 あと、私はとっとと部活に行きたい。


「だったらまぁ、先手必勝か」

「え?」


 考えを口に出したら、口調の変化もあってか彼が目を丸くした。

 そのあどけなさが年相応でかわいいね。

 ご褒美に顎の下でも撫でてあげましょう。


「私は未来のあなたが作った人形だよ。中には稀代の悪女が入っているの」

「は? 何の冗談を……」


 あー、この頃のアイヴィンは、まだシシリーの中身が稀代の悪女ノーラ=ノーズだってことも知らないんだっけ? そこから全部話していると、ちょっと時間がかかりすぎちゃうかも。


 だったら私の練習時間のために、インパクト勝負である。


「それじゃあ、説明を割愛するかわりに未来の予言でもしてあげるよ。そうだなぁ……あなたのお母さんの実験、失敗するよ?」


 私の言葉に、アイヴィンは目を見開いたまま声すら漏らさなかった。

 ただ、表情を失くしたその瞳からひとしずくの涙を零す。


 あれ……これ、言ったらいけないことを言っちゃった……?


 私としては、ちょっとやそっとの人じゃ知らなくて、アイヴィンにとって印象深そうな出来事を話してみたつもりなのだけど……。


 心の中のアニータが『あなたには人を気遣う気持ちがないんですの⁉』て怒っている気がする。うん、怒られて当然のことをしでかした気がする。


「そんなの、信じられるはずがないだろう!」


 この去り際のセリフ、すごく印象に残っているよ。

 あれだね、これ、アイヴィン失恋事件のやつだ。


 つまりあれだ。あのときアイヴィンを泣かした原因もやっぱり私だったわけだ。

 さすがに心の中で反省していると、『かつての自分』が驚き半分わくわく半分の眼差しでこちらを見ていた。我ながら性格悪いな?


「このことは他言無用で」

「言われなくても言いふらしたりしないけどさ」


 だけど私は知っている。

『かつての自分』はこんな殊勝なことを言いつつも、授業中に先生に対して『失恋した友達を励ますにはどうしたらいい?』とか聞いてのけちゃうやつだ。


 立ち去ろうとする私に対して、そんな『かつての自分』が聞いてくる。


「ハナちゃんとアイヴィンって、どういう関係?」


 その疑問に答えるのは、ただの遊び心だった。


「悪女とその最大の被害者、かな」


 だって自分はアイヴィンの人生を大きく狂わせた大罪人だからね。

 今頃、私のアイヴィンはどこを一人で旅しているのだろうか。


 私はその場を去ったあとで、初めて自由を満喫しているだろう彼に向かって性格が悪いことを呟く。


「なかなか楽しいよ、二度目の青春も」


 ただちょっとだけ、この過去の自分らが振り回されているのをニヤニヤ眺めるという、意地の悪い楽しさを共有できないことだけが寂しいかな。


 ほんのちょっとだけ、ね。


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