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【コミックス1巻発売中!】ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる。  作者: ゆいレギナ
9章 文化祭で恋が打ちあがる

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第79話 悪女、笛を吹く。


 その後、アイヴィンと回った学園祭はなんやかんや楽しかった。

 特に語るべきなにかがあったわけじゃないけど、普通に楽しかった。


(ほんと、アイヴィンと一緒だといつもこうだから困るよね)

(おそらくアニータさんの方が困っていると思うよ)


 そして、アニータと約束した夕方。待ち合わせ場所のカフェテリアの前に行けば、すでに待っていたアニータが私を見るやいなや、とても令嬢とは思えないひっどい顔をしていた。


「あなた……学園祭を満喫しまくりましたのね」

プピー(そう)? プププ(別に)ピプッピーッピーッ(普通だと思うけど)?」


 縁日というか……射的や輪投げ、クイズ大会などに挑戦しつつ、あちこちの出店を食べ歩き、こども向け体験教室に参加したり……そうして四時間程度遊びまくってきただけである。


 まぁ、その結果。頭にはお面、目には鼻がついた丸眼鏡、口元にはプピープピー伸びる笛に、片手に水風船をパシャパシャ、髪は超絶縦巻きロールと、少々愉快な恰好になったのことは否めないけれど。


 すると、思いっきりため息を吐いたアニータが「まあいいですわ」と肩を竦めた。


「緊張していたあたくしが馬鹿馬鹿しくなりました。行きましょう」


 そうして、アニータに連れられてカフェテリアに入る。

 カフェテリアも文化祭で一般開放されているということで、いつもより花瓶の数が多い気がするがいつも利用している場所である。その奥まった一席には、金髪の鮮やかな紳士と婦人が待っていた。


 そのそっくりな美貌と気品に聞くまでもない、アニータのご両親であろう。

 ご夫婦は私を見るやいなや、目を丸くしてアニータに尋ねる。


「アニータ、その人は……?」

「あたくしも人選を間違えたような気がしていますの」


 ちょっとアニータちゃん?

 相変わらず辛辣なら、どうして私を連れてきたのかな⁉


 だけどアニータが「お座りになって?」と隣の席を勧めてくるから、私も「プピー」と座ることにする。


 すると、アニータは真剣な顔でご両親に頭を下げた。


「来てもらったのは他でもありません。彼との結婚は延期させていただきたく思います!」

「ちょっとアニータ。それじゃあ話が違うでしょう?」


 夫人の口調は柔らかいものの、扇子の奥の瞳が鋭い。

 それに、アニータも固唾を呑みながらも一歩も引かなかった。


「違わなくないですわ。立派な魔術師になる夢は、別に王立研究所に行かなくても叶えられます。この学校で身に着けた魔導の知識を使って、専門的な営業から始めたいと考えておりますの。営業を通して様々な夫人方と交流し、人脈を広げることは我が家にとっても利になる話でしょう?」


 そう力説した後で、アニータは冊子を差し出す。

 それは化粧品開発メーカーのパンフレットのようだ。この会社名は……以前アニータがよく使っている化粧品メーカーのものだね。なるほど、元からお得意さんのようだったし、その伝手を使って雇ってもらえるように交渉したわけか。


 さすがアニータ。やるじゃん。


「もうすでに面談の約束は取りつけてあります。ただ面談時に必要な書類に、親のサインが必要なの」


 そして、アニータは深く頭を下げる。


「結婚は致します。ですが、あたくしも彼もまだ若い。すぐに子作りする必要もございませんでしょう? 子供ができたあかつきには、しっかり休職する旨も伝えてあります」


 さすがアニータ。ただただ自分のやりたいことだけではなく、自分の責務に関してもしっかり果たす様子らしい。本当に尊敬するしかない。私が本当の十八歳の時は……目の前の研究と興味にしか関心なかったもの。


「だからどうか、この書類にサインを。そして先方への説明を一緒にしてもらいたく存じます!」


 ただ、ひたすらに。

 真剣に頭を下げるアニータの横顔に、私は小さく「プピー」と笛を鳴らすことしかできなかった。


 ついこの間まで、あんなに落ち込んでいたのにね。

 あれから一週間も経っていないのだ。だけどここまで決意して、しっかり自分で段取りを組み、両親を説得しようとしている。アニータの両親も決してバカではないのだろう。就業訓練(インターン)の後もちょくちょく連絡をとっていたみたいだし、だからこそ彼女の短期間の努力はわかるはずである。


 そして、アニータの両親だからこそ……彼女が遊びで言っているわけではないことが嫌でも伝わるのだろう。


「ですが、やはりヘルゲ家の令嬢が営業なんてはした仕事を――」

「まあまあ、母さん。いいじゃないか」


 そう言うやいなや、父親はアニータから書類を受けとり、胸元から取り出したペンでスラスラと署名を始めていた。


「あなた⁉」

「化粧品の営業ということは、名家を回るということだ。アニータの社交性をこれ以上に生かせる場所も他にないと思うよ」


 そして「はい、これでいいかな」とあっという間にサインが終わる。

 アニータ自身もこんなに交渉がすんなりいくと思わなかったのか、目を丸くしていた。

 対して、父親はゆるく口角をあげている。


「正直、王立研究所に勤めると言われた時のほうが怖かったな。あそこは有事の際は軍事勢力としても徴兵されてしまう場所だからね。だけど、化粧品開発なら安全だろう? 魔導を使った薬や化粧品の開発は、これから伸びていく事業だ。そこに娘を噛ませることができるのは、たしかに我が家にとって悪い選択肢ではない」


 あくまで、穏やかに。だけど、その問いかけは誤解のしようがないほど端的だった。


「だけど、アニータ。わかっているかい? 仕事だけに専念できるのは十代のうちだけだ。二十歳になったら、きちんと結婚もすること。その上で、外での仕事と夫人としての仕事を両立するのは、並大抵の努力では務まらない。その覚悟ができているね?」

「勿論、覚悟の上ですわ!」


 きっぱりと言いのけるアニータは、どこか嬉しそうで。

 そんな娘の姿に、母親は唇を噛んでいるも……父親はしっかりフォローするらしい。


「母さんも、それでいいね?」

「……娘を無駄に苦労させたい親なんていませんことよ?」

「あぁ、君の愛情は僕もアニータもわかっているさ」


 そうして肩を抱く、美しき夫婦愛よ。

 あぁ、いいものを見せてもらったなぁ。


 これよ、これ。私が求めている夫婦像や親子像て、まさにこれだよ!

 さすがアニータ。私に素敵なものを見せてくれてありがとう!


 感動のあまりにまた「プピーッ」と笛を鳴らしていると、かの母親がとても気まずそうに視線を向けてきた。


「それで、こちらの令嬢はどなたですの?」

「あぁ、彼女はこの話とはまったくの別件で連れてきましたの」


 ちょっと~~?

 てっきり両親を説得するのに一人では勇気がでないから連れて来られたのだと思っていたのだけど⁉ だからいつでもテーブルの下でアニータの手を握る準備もしていたのに!


「プピ~~ッ⁉」

「あなたもいつまで笛を咥えておりますの⁉」


 そして無理やり、笛を引き抜かれる。

 ついでとばかりに鼻付き眼鏡も取られて、ちょっと痛い。

 顔をしかめている私をよそに、アニータは清々しく胸を張っていた。


「紹介しますわ――彼女はあたくしの親友ですの!」

「え? それだけ?」


 私が思わず疑問符を返すと、彼女は顔を真っ赤にして口を尖らせる。


「大好きな友達を大好きな両親に紹介したいと思って、何か問題でも?」


 あぁ、もう。本当にもう。

 今日も私の友人がとても愛いすぎる。


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― 新着の感想 ―
縁日の小学生か!?!? アニータちゃん、良かった良かった。 そして可愛すぎないか、この親友!!?
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