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【コミックス1巻発売中!】ど底辺令嬢に憑依した800年前の悪女はひっそり青春を楽しんでいる。  作者: ゆいレギナ
9章 文化祭で恋が打ちあがる

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第77話 悪女、やっぱりフラれる。


(あの薬、本物なの?)

(アイヴィンやアニータには信じてもらえなかった気がするけど……私は本気で作ったよ?)


 そんなことを話しながらも、あっという間に文化祭は明日に迫っていた。

 今日は一日、準備日として授業はお休みである。


 魔術解析クラブの花火はマーク君に任せ、私は演劇部のリハーサル。

 私も少し懐かしさを感じるドレスを身に纏いながら、まだお客のいない舞台の上で、懸命に高笑いをあげていた。……本当はこんなキャラではなかったんだけどね。脚本担当の生徒から『もっとパッションを出していいっすよ!』と言われた結果、こんなことになったのだ。


 だけど、やっぱり……主役の演技と歌は圧巻だった。

 ハナちゃんである。とってつけたような高笑いキャラでは敵わない。正真正銘の繊細なセリフ表現と、歌の迫力。正直、十代の女の子とは思えない奥深い演技に、ただただ心の中で崇拝に似た感情を抱いていると。舞台袖で後輩たちが話していた。


「今朝、ハナ先輩の発声練習見ちゃったの」

「うわぁ、毎日やっているって本当なんだぁ?」


 ふーん、そっか。練習の賜物なんだ。

 きっと友達になるのも、この舞台が最後のチャンスだろう。努力を続ける人は好き。私は急いで売店に行って、お茶を買う。そしてリハーサルが終わったハナちゃんに「おつかれさま」と渡すんだ!


 そう意気込みつつ、舞台袖の邪魔にならない位置でハナちゃんを出待ちしようとしていた時だった。


(あら、もうリハーサル終わっちゃったの⁉)

(ノーラがお茶選びにこだわっているから……)


 だって、どうせなら喉にいいお茶を飲んでもらいたいじゃないか!

 このお茶を無駄にしないためにも、私がハナちゃんを探そうとして、なんとなく校舎裏へと向かってみる。すると、シシリーが不思議そうな顔で聞いてきた。


(リハーサルの後なら控室の方じゃないの?)

(理屈で言えば、私もそう思うんだけどね)


 だけど、なぜだろう。なんとなくハナちゃんの魔力がこっちから流れてきている気がするのだ。

 さすがの私も犬じゃあるまいし、他人の魔力を嗅ぎ分けるような特殊能力は持ち合わせていないつもりだ。八百年前の身体ならともかく、今はシシリーの身体を借りているわけだし。


(お、当たったね)


 どちらかと言えば、やっぱり長くなってきた憑依生活で私の魂が変質でもし始めたのだろうか。本当にハナちゃんは校舎裏で部員の二年生と密会をしていた。


 自分で自分の才能が怖いな、と改めて思いつつ、物陰で耳を澄ませば。


「も、もしよければ、文化祭の最終日に自分と時計塔に登ってくれませんか⁉」

「私、あなたにそんな興味ないから」


 ……えーと。思わずこっちの背筋が凍るのは気のせいかな⁉


(ハナちゃんさん、容赦ないね……)

(私も人のことは言えないけど……もうちょっと……ねぇ?)


 いやぁ、今の現場はあれだよね? 後輩君が勇気を出して告白前哨戦に挑んでいたんだよね? それを、こうもバッサリ『興味ない』とは……無念、後輩君。君の青春に幸あれ。


 と、代わりに涙を流してあげていた時だった。


「盗み聞きなんて趣味が悪いと思うけど?」


 どうやらハナちゃんの帰り道がこっちだったらしい。

 ばっちり盗み聞きがバレてしまい、絶対零度の眼鏡の反射光を向けられるも。

 ここで八百年生きた根性を出さなくてどうすると、私は両手でお茶を差し出した。


「明日、私と時計塔に登ってくださいっ!」

「ばかじゃないの」


 氷点下の返答と共に、ハナちゃんはスタスタと去っていく。

 私が本物の涙を流していると、心の中のシシリーが励ましてきた。


(絶対に今の流れで、いい返事はもらえなかったと思うな)


 ……励ましてくれているのだ。

 だってシシリーは優しい子。励ましてくれているのだ!


(無理にハナちゃんさんと友達にならなくても、ノーラにはアニータさんも……わたしもいるじゃない……)


 なぜかシシリーがむくれているけど……励ましてくれているんだよね?




「どうして、こんなにハナちゃんに嫌われているんだろう……」


 アニータ曰く、『一緒のおしゃれの勉強をしよう!』という出会いがしらの第一印象が最悪だったらしい。それはそうとしても……あれからもう半年くらい経つのだ。そこまで尾を引く失言だっただろうか。


「まぁ、恋愛の聖地に女子同士で登ろうってお誘いは、警戒されても仕方ないんじゃないの?」


 落ち込んだ私がひきこもる先は、もちろんアイヴィンの研究室である。

 だってここに来れば、無料でアイスが出てくるのだ。


 今も無断で転移してきた私にさして驚くことなく、私の顔を見るやいなや「アイス食べる?」と冷凍庫から出してきてくれて、今に至る。


 そんな気遣い満点の色男・アイヴィン=ダールに、私はアイスを舐めながら口を尖らせた。


「警戒って、何を警戒されるのかな?」

「そりゃあ……同性間で色恋感情を抱く趣味の人、八百年前にはいなかった?」

「あ~~、生物学的にはまったく無駄なやつか」

「言い方」

「否定するわけじゃないよ。ただ恋愛感情というのは子孫繁栄を助長させる機能の一つなのだから、生物学的には誤作動だよねってだけの話で」

「……それ、他の人の前では絶対に言っちゃいけないやつだからね?」

「つまり、私は今も昔もそういうのには個人的興味はないよって話だよ」


 私がはむっとアイスをくわえようとした時だった。

 顎をそっと掴まれたと思いきや、目の前に迫る整った青年の顔。猫のような切れ長の瞳が、少し憂いを帯びて私に訴えてくる。


「それじゃあ、異性に対しては?」


 甘い吐息と共に紡がれた提案は、まるで私の耳を舐めるようだった。


「最終日、俺と一緒に時計塔に登ろうよ」

「だーめ。花火の打ち上げがある」

「点火装置を作ったのは後輩たちなんだし、先輩は一番いい場所で観測するってのもアリでしょ?」


 さすが口が回るアイヴィン=ダール。もっともらしいことを言って、何が何でも私に『行く』と居合わせたいらしい。だけど、私も伊達に八百年生きていないのだ。


 私は指一本でアイヴィンの顔を隔てて、にこりと微笑んでみせる。


「それなら、私にはもっと相応しい相手がいると思うけど?」


本作の小説発売日が決まりました!!


2023年 11月 15日 です!!


イラストはとよた瑣織先生。

(「伝説の勇者の伝説」や「この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる」

「恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。―妹と結婚した片思い相手がなぜ今さら私のもとに?と思ったら―」などのイラストレーターさん)


レーベルはサーガフォレスト(一二三書房)様です。


表紙イラストなどの公開はまだなのですが、

また告知許可がでましたらお知らせしますね。


引き続き「800年悪女」をよろしくお願いいたします!!

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