佰玖
それから、何事もなく事は進んだ。
聡は巴ちゃんと踊らず、ずっと私と話し続けてくれた。まぁ......自分がいなくなったら、私がボッチになるって分かってたんだろうね。
自分で言ってて悲しくなってきた。
一応、これは誕生日会兼舞踏会。社交の場である。
適当に優しそうな人に話を吹っかけて、交友関係を作っても良いが、天性のボッチ属性にそんな事が出来るはずもない。
それにしても、黒川さんとマッツー、戻ってこないなぁ......一体、何を話してるんだか。
「ねぇ聡、このパーティって、何時くらいまでやる予定なの?」
「ん? 大体こういうのは、夜通しやるもんだが......サリンはどうする? いるか?」
「いやぁ、多分十二時頃になったら『何しても黒川さんに許される』っていう魔法が解けるから、それくらいまでかな、いるのは」
「シンデレラかよ」
あ、そうだよ。
私、今日一日だけは何しても良いって黒川さんに言われてたんだよ。
うわぁ、色々しときゃ良かった。
黒川さんの顔面にケーキでもスパーキングしときゃ良かったわ。
いや、それは流石にケーキが勿体無い、か......。
***
十二時までは、駄弁ったり、少し踊ったり、食べたり飲んだり、私は舞踏会を満喫した。
一緒にいたのも喋ったのも聡と巴ちゃんくらいだけど、それでも私は十分だった。
だって、人の誕生日会に招待されるなんて初めてだし......凄い料理美味しいし。流石、西園寺家直属のシェフ達ですね、美味美味。
本当は、誕生日プレゼントは、もっと庶民的な物で良かったんじゃと私は思っている。
お嬢様相手ではあるが、何百万とするネックレスを誕プレにって......どうよ。金銭感覚おかしすぎるでしょ。
「サリン、そろそろ帰りますよ」
「あっ......黒川さん」
少しすると、黒川さんが戻ってきた。
あまり穏やかそうには見えない。
マッツーと何かあったのだろうか? それとも、私の今夜の行為に少し腹を立てている?
何方にせよ、機嫌が悪いという事は確かだろう。
「私、もう帰るね。今日は楽しかった」
「あ、あぁ......俺も楽しかった。組長さんの許可が下りたら、また巴に会いにきてくれ」
「うん」
そこで、自分を含ませない所が偉い。そんな事言ったら殺されちゃうもんね。
黒川さんは、女の子なら一緒にいても許してくれるから、巴ちゃんなら許容範囲だって、彼も分かっているのだろう。
「あの、ドレスは......」
「あぁ、母上が、貰ってくれて良いってさ。遠慮しないで貰ってくれ。思い出の品として」
「......そうだね」
黒川さんも嫌そうな顔はしていない......寧ろ少し嬉しそうなので、これは了承しておこう。
だがしかし、宝石のついたアクセサリー等は丁重に返却した。
それから、黒川さんに許可をとって、巴ちゃんにお別れを言いに行った。
「お、お姉さま、帰ってしまわれるのですか? また遊びに来てくださね」
「勿論」
抱擁は......黒川さんの前なので遠慮しておいた。
巴ちゃんも察してくれたらしい。無理にしようとはしなかった。
西園寺家の誕生日パーティ。
何事もなかったと言えば嘘になるけれど、それでも、私は楽しかった。
一晩だけ許された自由。
少々心理的に囚われてはいたが、気分は舞踏会へ行ったシンデレラのようだった。
しかしその魔法は、十二時きっかりに解けてしまう。
黒髪の魔法使いと共に、私は車に乗り込んだ。
***
「楽しかったですか? パーティは」
「えぇ。それはもう」
はい、お楽しみタイム終了。
やってきましたよホラーな時間が。
黒川さん......一体何に怒ってらっしゃるの?
一緒に踊れなかった事ですか?
「......サリンと踊りたかった」
「まだまだ時間はあったのに。言ってくれたら、最後に一曲くらい踊りましたよ」
「......ハァ、やっぱり、サリンが他の人間に見られるのが嫌で」
玲海堂に入学した時、嬉々として新入生代表の言葉を言わせたのは、一体何処の誰でしょうかねぇ。
しかし、黒川さんの瞳は哀愁が漂っていた。
何で......そんな顔するんですか。
「もう逸そ、監禁でもしてしまいましょうか。それならサリンが、他の人間の目に触れる事はないわけですし......」
王道ヤンデレ発言、いただきました。
全く美味しくございません。
貴方が言うとね、洒落にならんのですよ。ほぼ本気だから。だから止めて。恐くなってくる。
「家に帰ったら......サリン、お酒を飲みながら踊りましょう。一晩中」
「......分かりました。ただし、私はお酒は飲みませんからね」
その後、ガチで踊り明かしました。