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新国-神国-のフラリッシュ  作者: 楠林 シン
-第3章-一年生編
28/28

第27話 シーナの決意

大変長らく更新できず、申し訳ございませんでしたm(_ _)m


今回は、ついにシーナが大空へ飛び立つお話です!


いつもより長めのお話となっておりますので、お時間のある時に読んで頂ければ嬉しいです( ´ ▽ ` )ノ


では、これからもぜひ「新国-神国-のフラリッシュ」を宜しくお願い致します!m(_ _)m

「おはよう、千早。いよいよ今日から……だね!」


まだ眠たそうな瞳を擦りながら、ゆっくりと3段ベッドから降りてくるシーナ。しかしその瞳の奥には希望に満ちた光が確かに瞬いている。


「おはよう、シーナ。半年間一生懸命頑張った甲斐があったね。ついにあの憧れの戦闘機で大空に飛び立つ事ができるよっ!」


下のベッドから起きてきた千早は、にっこりと微笑んでそう答える。部屋の小さな窓から降り注ぐ日の出の光は、2人の希望に燃えるその心を象徴している様であった。


……


「飛行兵科1年 第一小隊、全員整列終了致しました!」

「同じく飛行兵科1年 第二小隊、整列完了致しました!」


校庭には、起床ラッパと同時に沢山の学生が素早く整列を始めていた。


続々と他の小隊が整列を完了する中、第七小隊は教官に整列完了を伝えられないでいた。そう、千紘が寮から起きて来ないのだ。


「あれだけ友穂さんが起こしましたのに、まだ寝てるのかしら。何度も何度も寝坊して……本当に千紘さんは失敗から学習してほしいものですわ‼︎」


千紘の度重なる寝坊に、ロゼのストレスはピークに達しつつあった。腕をがっちりと組み、苛立ちを隠しきれない様子である。


そうしているうちに他の小隊は整列を終え、1人の教官が第七小隊のもとへ近づいてきた。


「また中井は寝坊か?そろそろきつい説諭が必要な様だな。高坂、体操が終わった後に中井に教官室に来る様に言っておけ、いいな」


無表情だが強烈な恐怖と気迫を感じさせる口調で、中尾教官はシーナに告げた。


シーナは条件反射のように俊敏に最敬礼をして、「申し訳ございませんでした。中井にはその様に伝えておきます」と深々と謝った。しかしその表情はどこか怒りに満ちているような雰囲気である。


暫くして、殆どの学生が整列を終えた頃、寮の方角からこちらへ走ってくる1人の少女の姿があった。


「ごっめーん、寝坊しちゃった。もう、ちゃんと起こしてよねっ!」


そう言ってヘラヘラと列に加わる千紘の表情には、全く反省の色は見られない。

何度も寝坊を繰り返し、全く悪びれる様子の無い千紘の態度に、遂にシーナの怒りは最高潮に達していた。


「……して」


シーナは小刻みに震えながら、俯いたまま小さな声で呟く。


「えっ?何?もう一度言ってくれない?」


千紘はまだシーナが憤慨している事に気づいてはいない様子である。


「……ざ……して……」


「え⁇もう一度大きい声でお願い!」




「そこに正座して、皆に謝りなさい‼︎」

挿絵(By みてみん)


校庭中に響き渡るほどの大きな声で、シーナは怒りのあまり千紘に正座を要求した。シーナの長い黒髪は忽ち白銀に変化し、耳はロゼのようなエルフに見られる特徴的な形へと変貌する。普段は温厚な性格であるシーナの怒りを本能的に覚った千紘は、シーナの前にピシッと綺麗な土下座をして慈悲を請う。


「すみませんでした‼︎ 以後、この様な失態を重ねぬ様、一層気をつけます‼︎」


千紘が本当に生活を改める気があるかはともかく、誠意ある対応を見せたので、シーナの怒りは徐々に和らいだ。美しい白銀の長髪と特徴的な耳は、徐々に普段の姿へ戻ってゆく。


「以後、厳重に気をつけるようにっ‼︎」


そう一言千紘に告げると、シーナは中尾教官に整列完了を伝えるためにその場を離れていった。


シーナが離れるのを見計らって、千紘はむくりと起き上がる。


「ふぅー、今日のシーナはなかなか迫力があったなぁ。そろそろ殴られるかと思ったよ!」


そう額を腕で拭いながら答える千紘は、やはり反省していない様子であった。


しかし体操終了後、寮へ帰ろうとする千紘をすかさず捕まえ、服の襟を掴んで教官室に連れて行く中尾教官の姿があった。


……


シーナたちは午前の座学を終え、第七小隊の皆と一緒に食堂で食事を摂っていた。今日のメニューは、コロッケ、かき卵汁、そして白米だ。


「うーん、やっぱり士官学校の食事は最高だねっ!メニューも豊富だし、何しろ美味しいし!」


シーナはその美味しそうな食事をゆっくりと堪能していた。


シーナたちが食事を始めてしばらくして、教官室でこってり油を絞られた千紘が、フラフラと食堂へ入ってきた。


自分の食事をよそって、シーナの隣に座った千紘の頬は、げっそりとした様子であった。


「あれだけ怒ってて何だけど……大丈夫……?」


シーナはその魂の抜けたような千紘の姿に、思わず同情して声を掛ける。


「……うん……本当の地獄を見たような気がするよ……。とりあえず、今後寝坊は絶対にしないと思う……」


中尾教官から猛烈な説諭を受けた千紘のその決意は、固そうであった。


……


食事を終えた飛行兵科1年の学生たちは、校舎に隣接する練習飛行場に集合していた。


「うわぁ、こんなに迫力のある風景は人生で始めて見たかも……」


「こんなにたくさんの航空機が一同に会しているところなんて、これまで見た事がありませんわ!」


シーナたち飛行兵科1年の学生たちは、その迫力に驚く一方、胸の高鳴りを抑えられずにいた。


砂利敷きで土埃の舞う殺風景な飛行場には、その砂利の灰色とは対照的な暗緑色の迷彩に塗装された機体が整然と駐機されている。その機体の側面には、「敷島」と誇らしく印字されていた。

数は約40機にも及び、まるで一大航空基地の様であった。飛行兵科3年の先輩たちが、離陸前の最終点検であるエンジンランナップを行なっている。

飛行場は、多数戦闘機のエンジンの試運転に伴う、けたたましい音で包まれていた。


「小隊毎に整列しろ!授業を始めるぞ」


すっかり飛行機に見惚れていると、中尾教官が飛行場にやってきて、エンジンの音にかき消されないように声を張り上げて点呼を始めた。シーナは、これまで半年間に渡って行なってきた基礎訓練の繰り返しが実を結ぶ時が漸く来たという事で、とても感慨深い感情で一杯であった。


「やったね、シーナ。漸く私たち、飛行機に乗れるんだね!さっきから胸の鼓動が高鳴って止まないよっ」


あれだけ生気を失っていた千紘も、これだけたくさんの飛行機を目の前にしてすっかり全快した様子であった。

点呼を終えた中尾教官は、今日の実科の内容を説明する。


「今日は、先輩搭乗員の操縦する飛行機にり、飛行機がどういう物なのかを実際に体感してもらう。いきなり自分たちで操縦するのは、大きなリスクを伴うからな」


中尾教官は続けて、

「今日乗ってもらう飛行機は、『敷島皇国陸軍二式複座戦闘機 屠龍』だ。学科見学の時に見てもらった『一式戦闘機 隼』が単発単座戦闘機であるのに対し、この屠龍は、双発複座戦闘機である。隼に比べて上昇力、加速力に長けており、様々な作戦に転用可能な新型戦闘機だ。この飛行機は敷島皇国の陸軍航空基地から借りてきた機体だから、丁寧に扱ってくれよ!」


シーナは以前の見学で見た隼に比べて、屠龍は一回り大きい印象を受けた。

離陸準備をしている機体の方から一人の先輩が教官のもとへやってきて、離陸準備が整った事を告げる。


中尾教官は手元の資料に幾つか書き込みをした後、ついにシーナたちに命令を下す。


「じゃあ1年生の諸君、各自順番に機体に乗り込み、離陸の準備をしてくれ!」


「「「「はっ!」」」」


威勢の良い返事と共に、一斉に飛行兵科の1年生はそれぞれの飛行機に向かい、3年生の指示を受けながら各自搭乗していく。


「本日はよろしくお願いしますっ!」


シーナは指定された戦闘機の前で待機していた先輩搭乗員に、深々と挨拶をする。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますね、高坂シーナさん」


その物優しい話し方に聞き覚えのあったシーナは、ハッと頭を上げて確かめる。


「小倉先輩っ、私の名前、覚えていてくれたのですねっ!ありがとうございます!」


「いえいえ。大分昔の話だけど、学科説明会の時はいろいろと質問してくれてありがとうね。シーナさんのように熱心な学生が飛行兵科に入科してくれて、本当に嬉しいわ!」


彼女はそう言って、シーナの飛行兵科の合格を祝福してくれた。彼女は学科説明会の時に、新入生に飛行兵科について説明してくれた先輩であった。


「では、私たちも行きましょうか?」


「はいっ!」


シーナが後部座席に乗り込み、つづいて小倉先輩が操縦席に乗り込む。安全ベルトを装着し、風防が閉められ、いよいよ離陸の時が近づく。


「高坂さん、準備は良い?そろそろ滑走路に移動するわよ!」


「はい、大丈夫ですっ!お願いします」


数人の整備士に押されて、機体は滑走路の起点に移動する。滑走路からは次々と機体が飛び立ち、まるで何処かへ出撃に出る時のような光景である。そして、遂にシーナの搭乗する機体の順番がまわってきた。


「じゃあ、離陸するからしっかり掴まっててね!最初は少し驚くかもしれないけど!」


小倉先輩はシーナにそう告げると、左手側のスロットルを全開まで後方に押し倒す。同時に、エンジンの排気口から真っ黒い煙が噴き出したかと思うと、凄まじい勢いで機体は前進しはじめた。タイヤから伝わる振動も、バスの振動などとは比べ物にならない程の衝撃である。また、加速していくにつれて座席に押し付けられるような感覚がだんだんと強くなってゆく。

最初は少し恐怖を覚えたが、小倉先輩が操縦桿を握っていると考えると、途端にその恐怖は何処かへ消えていった。


「……これが座学で勉強した、慣性力なのかな……少し息がし難いかも……」


砂埃を巻き上げながら急速に速度を上げていく機体。小倉先輩は速度計を注視し、ある一定の速度になったところで操縦桿を一気に手間に引く。すると、数千キロもある機体は簡単にフワっと宙に舞い上がり、そのまま機体は大空へと駆けてゆく。


シーナの搭乗する戦闘機はぐんぐんと高度を上げる。あれだけ大きかった校舎もあの大講堂も、だんだんと小さくなっていき、すぐに高雄島の全域が見下ろせる高度へと到達した。離陸時の凄まじい騒音は無くなり、機内にはただエンジンの音と、機体が風を切る音のみが響く。


シーナは少し身を乗り出すようにして、辺りの景色をぐるりと見渡した。機体から眺めるその景色は、シーナがこれまで見てきた景色の中で最も美しいものであった。真っ青な海に浮かぶ緑豊かな高雄島。その向こうには敷島皇国の本土も薄っすらと見えている。


「海って、こんなに綺麗な青色をしていたんですね……私、知らなかったです」


「そうでしょう。私も飛行機に乗るまでは、この青さに気付かなかったわ。身近に感じるものでも、遠くから見つめるとまた変わった表情を魅せたり、いつもとは違った感情を感じたりする事も、案外多いのかもしれませんね……物も、風景も、人間も……」


「私、第七小隊のみんなと共に、もっともっと訓練して、勉強して、強くなって、この青い海と美しい大地を守り続けたいです。そして、私がおばあちゃんになった時、この美しい景色をそのままに、未来の敷島皇国の少年少女たちに、再び眺めさせてあげたいです……」


シーナは両手を強く握りしめる。その強い決意は、決して揺るぎないものであった。

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