第25話 努力と現実
昨日は投稿出来ず、申し訳ありませんでした(>人<;)
第25話、完成致しましたので、是非読んで下さい!m(_ _)m
それからというもの、連日のように午前は一般座学、午後は実科という起伏のない生活が淡々と繰り返された。実科では憧れの飛行機に触れる事すらなく、ただただ航空機に関する学習(航空法規学、航空操縦学など)と、基礎体力訓練を積み重ねるだけであった。シーナの不満は積もってゆくばかりである。校庭の片隅には、既に紫陽花が咲いていた。
一体いつになったら飛行機に乗せて貰えるんだろう……このままじゃ、お母さんにも顔向け出来ないよ……
シーナは内心焦っていた。他の同級生たちも、単調で進歩のない日々に少しずつ不満が溜まってきている様子である。
よし、明日勇気を出して教官に聞いてみよう!
日が傾き空が夕焼けに染まる頃、いつものように随意運動が終わって皆が寮の方向へぱらぱらと帰っていく中、シーナは校舎の隅にもたれ掛かって煙草を吸っている中尾教官のところへ来ていた。
「中尾教官、少しお時間宜しいでしょうか?」
シーナの顔は少し引きつってはいたが、その目には確かな強い意志が感じられる。
「構わんが」
シーナの意志を感じとったのか、いつもは授業中以外の時間にはあまり学生とは話さない中尾教官が、珍しく許可を出した。シーナは意を決して単刀直入に自分の意見をぶつける。
「私達は、いつになったら飛行機に乗って訓練を受けられるのでしょうか?この学校に入学してから既に2ヶ月が経ったにも関わらず、私たちはまだ操縦桿に一度も触れた事すらありません。」
シーナの顔は真剣で、中尾教官の目をじっと見つめている。
中尾教官は、短くなった煙草を靴で踏みつけ、ハァーと煙混じりのため息をつく。これまでにも、幾度となく同じ質問をされてきたかのように。
「高坂。お前はまだ飛行機、いや、戦闘機に乗るという事が分かっていない様だな。」
最初にそう吐き捨て、話を続ける。
「一人前の飛行機乗りというのは、この学校で3年間厳しい訓練を受け、その後に各配属先で数年間実践を経験して初めて一人前の飛行機乗りと言えるんだ。そう簡単になれるものではない。気長に精進する事がなによりも大切で、何よりの近道なんだ。」
……‼︎
そうか……。この学校に入る前から、分かっていた事じゃないか!そう簡単に飛行機乗りにはなれないってことは。それを、私は入学出来た事に満足して、そんな簡単な事も忘れていたなんて……。
シーナは、目先の目標に固辞しすぎて、本来見失ってはいけない一番大切な事を忘れていたという事に、中尾教官の言葉で初めて気づく。
「不躾な質問申し訳ありませんでしたっ!私は大切な事を忘れていた様です。その事を思い出させて下さりありがとうございました。では、失礼致します!」
シーナは力強く敬礼をして、その場を後にする。夕焼けに照らされたシーナの影は、校庭に大きく広がっていた。
初心に戻れた事で、シーナの心の中でもやもやしていた物が、急に晴れた気がした。気長に頑張ろう。たとえすぐに芽は出なくても……。
「ちょっと待て、高坂!」
寮へ向かっていたシーナを、唐突に中尾教官は呼び止める。シーナは想定外の事に少し戸惑いを隠せない。
えっ!何で呼び止められたんだろう。何か気に触るような事をしてしまったのかな!
「な、何でしょう?」
再びシーナは中尾教官のもとへ駆け戻る。顔色は既に真っ青だ。
「ご、ごほん。これは、あまり公言してはいけない事なんだが……。あまり他の者には言わないでくれるか?」
シーナはコクコクと頷く。いつもは鬼教官と恐れられる中尾教官が、少し照れくさそうな顔をしている。とりあえず怒られる訳ではなさそうなので、シーナは安心した。
「今度、中間考査があるだろう。その中間考査が終わったら、実科での基礎体力訓練は終わりだ。飛行機での訓練となる。」
飛行機での……訓練……⁉︎
「あ、ありがとうございます‼︎私、これまで以上に精一杯頑張ります‼︎」
シーナは満面の笑みでビシッと敬礼する。さっきまでの曇った顔が嘘のようだ!
中尾教官も、その反応を見て満足そうな表情で答える。
「うむ。ぜひ頑張ってくれよ。敷島皇国の興廃は、君たち士官学校の学生に掛かっているのだからな!」
「はい!頑張ります。では、失礼しますっ!」
やっと大空から、雄大な景色を眺めることができる!これまでの努力が報われる!
シーナは希望に胸を膨らませながら、キラキラした表情で寮へ駆けていった。




