026 再会
メルシカ製麺所をオープンすることにより、メリットとデメリットが発生した。
まずデメリットから。断片的な情報から、この製麺所の店長が俺であると辿り着いてしまう可能性がある。これは、さっきのデカい鎧男へのうっかり発言で今更気がついた。3ヶ月ぶりに外の人と会話することにテンションが上がって、うっかり『新メニューよろしくねー』なんて言ってしまった。なので、このデメリットは俺が黙っていれば問題ないデメリットである!!
次にメリットだ。さっきのデメリットよりも、こっちのメリットのほうが格段に大きいので製麺所はオープンし続けている。
まず、冒険者の情報が手に入る。入店した冒険者の情報をナビちゃんが解析しているので、ほぼ全員の情報を所持している。一部の冒険者の情報は得られていないが、日本でS級と呼ばれる冒険者の情報は全員得られたので問題ない!
次に、定期収入が手に入る。金持ちの冒険者から巻き上げた金がUMPに変換されるので、うどんジョンの拡張やガチャ、俺達の食費にバンバンUMPを使って問題なくなった。
最後に冒険者の強化。これが一番大きい! 黄泉の国ダンジョンや他の高難易度ダンジョンに挑む冒険者が強くなれば、それだけダンジョンの攻略が進むということ。このぐらいのレベルの冒険者が進めているんだから、俺達も多分大丈夫だろうという自信に繋がる。
「――ですから、黄泉の国ダンジョンへの入場は認められません」
と、いうことなのだ。
は? 何言ってんだこの受付ってなるだろうが、俺は非常に重要なことを忘れていた……!!
「ルシカ、そういや俺達……ランク上げてないわ」
「冒険者にランクが存在していたの、すっかり忘れてたわね。どうやって上げるの?」
そう、俺達はなんと……Fランク冒険者だったのである!!
そうだよね、うどんジョンしかやってないもん。うん……。
「他のダンジョンで実績を積んで頂く、もしくは冒険者協会への多大な貢献、または……」
「または、高ランク冒険者パーティへの加入だ」
「な、南場さん! 今日も、黄泉の国ダンジョンへの入場ですか?」
あ、さっきのデカ鎧の人。南場っていうのか~……。連れの女の子達とはどういう関係? ただのパーティメンバー? それとも2人とも夜までお供!? あ、ルシカの視線がちょっと刺さる。怖い。
「いや、ちょっと彼と話があってね」
「は、はあ」
「ちょっと、良いか?」
どうしよ、南場って人に絡まれたんだけど、応じるべきかねぇ~……。多分この人、俺のさっきのうっかり発言から、メルシカ製麺所の店長じゃないかって気がついてるんだよなぁ。
「はい。大丈夫ですよ」
「萌、サイレントの魔法を頼む」
「良いけど。そんなに重要な話なの? サイレント!」
へえ、これって風魔法か? 音を遮断する空気の結界……みたいな感じかな? 風魔法の適正はちょっとしかなかったけど、この魔法ぐらいなら俺も使えそうだなぁ。
「まず、自己紹介させてくれ。俺は南場剛樹、Aランク冒険者パーティの【八咫烏】のリーダーをしている。クラスは守護者だ。メンバーを紹介する。スカウトの佐藤かえで、風魔法使いの新山萌だ」
「ちょっと、彼Fランクよね? そんなベラベラと私達の情報まで……」
「いや、俺達より彼のほうが強い。その気になれば、1秒足らずで全滅するかもしれん」
なんだ、こいつ。俺の情報を知っているのか? どこまで? 何者だ? さっきすれ違ったばっかりで、どうしてここまで俺の情報を掴んでる?
「ああ、警戒しないでくれ。さっき君とぶつかっただろ? その時怯んだのは俺の方、君は微動だにしなかった。これは恐らく、完全なるステータスの差によるものだろうと気がついたんだ。つまり俺と君には、絶望的なほどのステータス差が存在している……そう思ったんだ」
「…………稲庭犬人です。犬に人で犬人。獣人じゃないですよ、人間ですからね」
「ありがとう。犬人さんと呼んで良いか?」
「犬人でいいですよ、南場さんの方が年上でしょ? 俺、26歳ですし」
「…………お、俺のほうが下だ。25だ……」
「え゛」
「う゛う゛ん゛……」
「ぷっ……」
「南場さん、ウケるぅ~……」
やべ、年下だったのかよ。めっちゃオッサン顔だし、30は超えてると思ってたわ~……。す、すまんなぁ……。
いや~しかし、さっきちょっとぶつかっただけでここまでバレるとは、恐ろしいもんだね、Aランク冒険者ってのは。さすが戦闘のプロって感じだわ。
「まあ同い年みたいなもんだし、剛樹と犬人で良いじゃないか?」
「ああ、じゃあ……そうしよう。それで犬人、あのダンジョンに入りたいのか?」
「ねえ! ちょっと!」
ん? どうしたんだ? たしかこの人は……新山萌って言ってたか。萌さんで良いのかな。
「どうした、萌」
「犬人さんの後ろの人、まだ紹介して貰ってないけど。どういう関係で、どういう人なのかしら?」
ああ、ルシカのことを紹介してなかったな。う~ん、どう紹介したものか……。
「メリューシカよ。はい、冒険者証」
「…………え? まさかそれで終わり!? 嘘でしょ……!?」
「ルシカは俺の嫁。可愛い、綺麗、言う事なし!」
「そこまで褒められると恥ずかしい……」
「ふ、夫婦で冒険者なのか。まあ俺達も似たようなものだが……」
あ、やっぱりそういう関係! そういう関係なんだ、剛樹くぅ~んやるねぇ~!! え、どっちと? どっちとそういう関係?
「ちょっと南場さん、口を滑らせすぎ……」
「剛樹、そこまではバラさなくて良いのよ!」
「ああ、すまんすまん」
…………まさかこいつぅ~!? どっちもぉ!? どっちもなのぉ!? はぁ~~~~~!? こんな可愛い子ちゃん2人を、どっちもぉおおおおおお!? うお、ルシカが居なかったら殺してた。危ねえ。
まあその図体ならぁ!? 夜の冒険はさぞかし捗るんでしょうからぁ!? 低階層みたいな子が1人だけじゃ、余しちゃうんでしょうけどねぇ、体力ぅ!! くそ、なんだこの、うらやまけしからん! ああんルシカちゃん、ケツを抓るのやめてね!!
「ま、まあ、話を戻そう。あのダンジョンに入るには、Aランク以上の冒険者パーティでなければならないんだ」
「それはさっき受付のねーちゃんに言われた。あ~あ、今からランク上げってなるとメンドイなぁ~」
「それは仕方ないとして、入るための抜け道がひとつだけある」
「おお、それはどんな?」
うん、大体予想は付いた。なるほど、そういうことね。
「俺達八咫烏のパーティに、一時的でも良いから加入することだ」
「本加入じゃなくても良いのか?」
「ああ、大丈夫だ。ずっと入るとなれば本加入が必要になるが、今回だけなら仮加入で問題ない」
要するに、剛樹は俺がどんだけ強いのか興味があるってことだ。人間誰しも、メリットがなければこういうことはしない。剛樹のメリットは、俺の強さを知ることが出来て、尚且つ恩が売れるので友好関係が築けるってところだ。ああ~悪い癖、サラリーマン時代のこういう考え方が抜けないなぁ~……。
「ルシカ、仮加入でも入れるらしい。どうせ下見程度なんだし、それで良くないか?」
「そうね、私もそれで良いと思うわ」
「かえで、萌。悪いがこの場は納得して貰う。久々にリーダー権限を使わせてくれ」
「さっきも使った気がしますけど、良いですよぉ~」
「剛樹がそうするべきって判断したなら、別に……」
剛樹の連れは、かなり渋々って感じだな。それじゃあ、仮にでも加入させて良かったと思えるぐらいには活躍してやらないとなぁ。
「冒険者証を出してくれ。パーティ仮結成」
『――パーティ【八咫烏】に仮加入しますか?』
ああ~そういえば、冒険者登録証にはこんな機能が御座いましたねえ~。いやはや、3ヶ月前に1回やっただけだから、忘れてたなぁ~。
「おっけー、これで仮加入出来たかな?」
「……ああ、大丈夫だ。よろしくな、犬人。それとメリューシカさん」
「よろしく、剛樹。それにかえでさんと萌さんも」
「よろしくぅ~」
「はい、よろしくお願いします……」
「よろしくお願いね」
これで黄泉の国ダンジョンへの入場は可能になったわけだ。さぁて、ナビちゃんの元クソ上司が管理を手伝ってるダンジョン、いったいどんなクソダンジョンなのか、見せて貰いにいこうじゃないの~!!




