これから
私が戸惑っていたら、メイソンさんと目が合った。
「フィリア」
想いのこもった声にびくりと肩が揺れた。どうして良いか分からず何故か私は下を向いてしまった。
私の影に大きな影が重なった。
「そんな風にされると結構傷つくんだけど……」
メイソンさんの自嘲気味の声音に、思わず顔を上げた。
少し悲しげに優しく微笑むメイソンさんは、以前から大人だったけれど、更に大人びていた。
そんな姿にどきりとした。
「オリバーから話は聞いてる。
居住区の問題を解決してくれてありがとう。
俺に出来る事は何でもするつもりだから後は心配するな。
ジョアンナさんとも話をしないといけないが、本当にフィリアはそれで良いのか?」
多分ルーチェ草の事を言っているのだろう。
私は名前を出したくないのでオリバーが人材を探したと言っていたが、メイソンさんのことだったのか。
確かにメイソンさんで有ればエイムのリーダーだし、半端者の事もわかってくれている。
悪いようにはしないだろう。
私は、首肯した。
「メイソンさんなら安心ですね。これからルーチェ草の事もよろしくお願いします。
あっでもメイソンさんは居住区から出られるんですよね?
でも維持管理は私達でも出来ますので安心してください。
販路の事についてはオリバーがしていますが、いずれはメイソンさんに委ねると思います」
私は至極真面目に答えたのだが、
「あ、うん。そうだな。オリバーか……」
何故かメイソンさんは明後日の方を向いて諦観してしまったのだ。
よほど訓練が大変だったのかしら? まぁオリバーの訓練は嫌らしさ満点だから。
これで終わりだと思っていたら痛い目に遭うのよね。
私も思わず諦観してしまったのだ。
オリバーに関しての想いが通じ合ったのか、目が合うとお互い笑ってしまった。共通の友人? 師匠を持つと連帯感が生まれるとはこうゆう事だ。
私がまだ笑っていたら、メイソンさんが急に真剣な顔になる。私はそれに背筋がのびた。
「フィリア、俺はもっと強くなる。
いつかフィリアを超えてみせるから待っててくれ。
フィリアが万全の状態でも勝てるようになってみせるからな!
その時は勝負してほしい。
勝ったら、聞いて欲しいことがある」
「わかりました」
私は畏まって頷く。ここは逃げてはいけない事だ。
「オリバーとの話し合いで俺はまだまだやる事があることが分かった。まだ俺は未熟だ。
魔法使いになったスタートラインとも言える。
与えられた役割をこなすだけでもこれから忙しくなるんだ。
……けどまぁ、エイムの指導者にもなるつもりだからな。
ここに全く来ないわけではないし、顔を合わせないわけではないから、これからもよろしくな!」
そう言って満面の笑みでメイソンさんは握手を求めて来た。
何故握手? と思いつつも、私は応援のつもりで握り返す。
そうすると何故か私の体がふわりと宙を舞いメイソンさんの腕の中に収まってしまった。
え? っと呆気に取られていると直ぐに体が離された。
驚いて思わず見上げると、メイソンさんがニヤッと笑った。
「俺が頑張るための充電だ。ありがとな!」
「へ?」
ますます意味がわからないのと、私の顔は恥ずかしさで真っ赤になっているだろう。思わずメイソンさんを睨む。
メイソンさんはこれ以上はするつもりがないのか、手を上にして降参のポーズをする。
そんな私に後ろからギュッと抱きついて来た人がいた。ケイティさんとキャサリンさんだった。
「私のフィリアに、手を出そうなんていい度胸ね。覚悟は良いのね?」
いつもの明るいケイティさんとは違う声音に私が言われた訳ではないのに肩がびくりと揺れた。
メイソンさんは慌て出す。
エイムの裏ボス? は実はケイティさんだ。
ケイティさんに敵う人はいない。メイソンさんは正座をしていた。
私は何故か、キャサリンさんに全身消毒されている。
これからどれくらい説教が待っているのだろうか?
自業自得ね。と思いつつ、ケイティさんが代わりに怒ってくれたので、私は今回は許そうと思うのだった。
次が第一部最終話です。




