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【完結】半端者の私がやれること〜前世を中途半端に死んでしまった為、今世では神殿に入りたい〜  作者: ルシトア
第一部 アーレン王国編 

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片付け

 神殿に入る前にやる事がある。

 まずは15年間お世話になった自室だ。

 もともと私は物をたくさん置く様なタイプでは無かったので必要最低限だったけど、もう戻ることはない部屋だ。

 両親はそのままにしておくと言っていたけれど、お兄様の代になればそれは難しくなるのは明らかだ。

 ここは日当たりもいい部屋だし、ずっと空室にするのは勿体無い。それならば次世代の子供達に使ってもらいたい。

 私はお兄様にそれをお願いすると、「わかった」と言葉少なくけれど肯定してくれた。



基本的には神殿に入る際、持ち物は制限される。

神殿内は基本的に神官服か、修道女の服を着る為、私服も必要ない。

 パジャマと下着、あと思い入れのある物数点が持ち込みを許されるのだ。

 ……けれど、少し私はズルをしようと思う。せっかく空間魔法を覚えたのだ。それに私は物欲は少ないが物は捨てれないタイプだ。この部屋にある物は品数が少ない分それぞれ思い入れのあるものばかりである。


 私は空間魔法の中にあるマジックバックを取り出して、手当たり次第に入れていく。

 私は物欲がなかった為か、私が時々欲しがった物には、両親はその中でも最高の物を用意してくれた。

 このマジックバック達もそうだ。このマジックバック一つでこの部屋のすべてのものが入るくらい容量が大きい。一体いくらするのか恐ろしい値段だろうけど、値段は教えてもらえなかった。


 お母様から友人価格で売ってもらったから大丈夫と言われたが、その横でお父様が渋い顔をしていた……。

そんなに高い値段なのかと私が心配そうにお父様を見ると、私の頭を撫でながら、

 「友人価格じゃなくて正規の値段で売ればいいものを」

 と何故か怒っていた。

 これはお父様が焼き餅を焼いているのだと思った。

お父様は普段寛容だが、お母様に関してだけは狭量なのだ。きっと、このマジックバックを作った人は男性でお母様に気があったのではないかと思う。

 いつまでも仲のいい両親にほっこりしつつ、半端者の私にも惜しみなく愛情を注いでくれて感謝している。



 洋服やもう着ることはないだろうドレスも入れる。

この部屋で1番場所を占領してるのは本だ。

 基本的に侯爵家の図書室で事足りるのだが、お気に入りの本は私専用に、買い直して部屋に置いてある。その本が15年間で結構あるのだ。構わずボンボンと入れる。優秀なマジックバックのため、勝手にインデックスは付けてくれるし、私の思ったものをすぐに出してくれるのだ。整理整頓の必要がない。ありがたい。


 あと数日着る服を残して全部入れるととても殺風景な部屋になった。物は少ないと思っていたけどなんだかんだ物って増えていたのだと思う。


 この部屋を見たお母様は泣いてしまった。本当に両親には申し訳ない事をしてると思うが、私の人生……許して欲しい。



 やんちゃだったカイは今は13歳になりアカデミーに通っている。かなり優秀で、先生にも一目置かれているとか……。月日が経つのは早いものだ。

魔法研究に魔力の効率的な使い方とレベルの上げ方を選んだと聞いた時は、思わずうるりときた。

 男の子だったのもあり、あまり関わり合いが少なかったけど、私の事をカイなりに考えていてくれて嬉しかった。


 お兄様はアカデミーを卒業して、お父様の後を継ぐまでは王宮に出仕するらしい。

 ビンセント王子に気に入られたらしく忙しいながらも充実した日々を送っている。

 お兄様はアカデミーを卒業してから、仕事の休暇は必ず家に帰って来て、私とお出かけしてくれていた。お互い変装して領地のあちこちを周った。オリバーには負けないと何故か張り切っていた。どこを訪れてもアーレン王国はとても豊かな国だ。

 何故過激派の人達は今の平和を壊したいのかわからない。サーラ様には是非架け橋となり頑張って欲しいものだ。


 一度ビンセント王子に神殿で会うことがあった。サーラ様の事をどう思うか聞かれて、真っ直ぐで頑張り屋ですと答えておいた。ビンセント王子を全力で支えるだろうとも。

 私の答えに何故かビンセント王子は寂しそうな顔をしていたが、私がビンセント王子からもらったブレスレットに少し触れた後、諦めた様な顔で

「そうか……」

という言葉を残した。その何ヶ月後かに、ビンセント王子とサーラ様の婚約が発表された。とても素晴らしい事だ。これで平和な日が続けばと思う。


ルイス王子とはあれ以来会っていない。けれどこれでいいと思う。ルイス王子のこれからの人生に私は必要ないと思うから。


 オリバーは相変わらずお兄様にチャチャを入れながら、時々青白い顔をしている。毎日が楽しそうだ。

 出会った時のボロボロで痩せ細っていた姿は微塵もない。後数日で私の専属護衛としての役目は終えるけれど、オリバーならどんな仕事でもやっていけそうだ。


 なんかしんみりしてしまったが、別れだけじゃなくて変わらない事もある。

それは精霊や妖精達だ。彼女達は神殿に入ってからも、関係性は変わらない。


 手続きが煩雑だけど、家族にだって会えなくなるわけではないのだ。そう思えば住む家が変わるだけとも言える。



 あっ! 1つやり残した事があった……。

そう思った私は、足早にある所は向かった。



…………


私が向かった所は、厩舎だ。


「デュー!」


私が呼ぶと愛らしいデューイは姿を現す。

私の身長も大きくなりデューを撫でるのに困らないくらいになった。

デューは基本的に厩舎にいるが繋がれてはいない。ペガサスは本来、自由な生き物らしく縛られる事を嫌う。愛想がつかれたりしない限り、基本的に逃げ出したりもしない。

デューはルクセル侯爵家の血筋を気に入っているので、代々のルクセル侯爵家人達に仕えてくれている。厩舎にはデュー以外のペガサスや馬、大きな鳥?の様な魔獣とか沢山居る。

私はデューにお願いをしてみた。


「ねぇ? デュー……私を背中に乗せてくれない?」


今お願いしなければもう一生叶わない夢になるだろうから……。デューはじっと私の目を見ている。

 見極めているのかもしれない。実はオリバーと一緒であれば乗せてもらったことはある。転移に慣れていない頃の移動はデューの背中に乗せてもらっていたのだ。デューは飛べないと思っていたけど、あれは私の事を考えて陸路にしてくれただけみたいだ。

 オリバーと一緒だと乗せてもらっているので、ある意味夢は叶っていると言えばそうだ。

 けれど今日はそういう意味じゃない事をデューは正確に読み取っている様だった。

見つめ合いが永遠とも言えるほど長く感じたが、デューの可愛い鳴き声と共に前膝をおって、私が乗りやすい様にしてくれている。許可が降りた様だ。

 私は振り返り、マーサとオリバーに向かってこう叫んだ。


「今日は1人で行ってくるね」


私が急に思い立っても何も言わずに着いてきてくれる優秀な2人だけど、今日だけは1人になりたい。


「……デューがいれば安全だと思いますが、何かあればすぐにお戻りくださいね。後、ここから見える範囲でお願いします」


 オリバーから色々条件は出されたが、どうやらオリバーからも1人で乗る許可は出た様だ。マーサは何も言う気がないらしく。微笑んで見送ってくれる。


「じゃあ少しだけ行ってきます!!」


私とデューは青空を楽しんだ。それは私にとっては夢の様な時間だった。最初に出会った3歳の頃、私にはデューに乗ることは無理だろうと思っていたのが嘘の様だ。グレゴリーさんとオリバーの指導の賜物だけど。ううん、この15年間に、関わってくれた全ての人のお陰で今私は、デューと共に空の旅を楽しめているのだと思う。

 出会った全ての方に感謝を。私はそう思いながらデューとの短い空の旅を楽しんだ。



…………


 数日はあっという間に過ぎて、私は明日、神殿に入る日になった。

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