フォードルン侯爵
「もうお帰りになられるのかな?
ぜひ当主として、サーラの治療をしていただいている高名な治癒魔法師殿にご挨拶させていただきたくて、外で待っていたのですよ?」
ゆっくりと威厳のある声で話しかけてきたのはフォードルン侯爵家当主であった。漆黒の髪に同じ目をした男性だ。威厳のある声に似合う顔立ちで、均整のとれた体躯はアンのお父様とは思えない年齢を感じさせない若さだ。にこやかな顔をしてるはずなのに薄寒いのは何故だろう。背中に冷や汗が流れた。
オリバーが私を庇うように前に立つ。直ぐに転移魔法で転移することも可能だったはずなのに、オリバーがそうしなかったのは私の性格をよく理解しているからだろう。私は最後の挨拶をする事にした。
「私は無名の治癒魔法師です。高名なフォードルン侯爵家当主様にお会いできるような者ではありません」
「ご謙遜を、今までにない発想にてサーラを治療していただいている。素晴らしい治癒魔法師だ。ぜひお近づきになりたいですな」
余裕を崩さないフォードルン侯爵はにこやかに話を続けてくる。その後ろに顔色の悪いエイベル様がいた。
「名乗るほどではございません。……フォードルン侯爵令息様、残念ですが、契約不履行です。契約は打ち切りにさせていただきます。サーラ様に最後にご挨拶出来ずに申し訳ございませんとお伝え下さい」
私の言葉にエイベル様は青ざめ何か話そうと口を開くが、フォードルン侯爵がそれを遮る。
「何故私を避けるのか理解に苦しみます。是非とも治療を続けていただきたかったが、治療を投げ出すなら、魔力玉とやらを返してください。それはもともとサーラの魔力でしょう?
こちらで適切に管理しますので、魔力玉さえ貰えれば安全にお帰りいただけますよ」
フォードルン侯爵の言葉で、四方から魔法使いが現れた。どの人も手練れなのがわかる。
先程までににこやかだったフォードルン侯爵が、こちらに魔力を飛ばして拘束魔法を仕掛けてきた。
オリバーは危なげなく回避魔法を放つが、余りにも敵の人数が多すぎる。オリバーであっても転移魔法はコンマ数秒だが無防備になるので、何か気を逸らさなければならない。私は今回渡すはずだった魔力玉を四方にばら撒いた。
「魔力玉に魔力を当てるな!!魔力玉が割れてしまう!!」
エイベル様が叫んだ事で、敵陣に一瞬の隙ができた。
その隙にオリバーは私を連れて転移した。
以前の時以上に、転移と移動を繰り返し追っ手を巻くことにした。
サーラ様との関係はこんな感じで呆気なく途切れてしまった。
何故このタイミングでフォードルン侯爵が現れたのか考えてみたら、そういえば前回の魔力玉で鑑定上のレベルが王位魔法使いレベルになっていた為ではないかと思った。
それにもしかしたら最初からフォードルン侯爵には私達の存在は知られていたのかもしれない。エイベル様は知らなそうだったが……。
王位魔法使いのレベルにサーラ様がなったことで、フォードルン侯爵にとっては私たちは不要だと思ったのかもしれない。ただ、まだ王位魔法使いレベルになったばかり、残った魔力玉は今も私の空間魔法中にしまってある。本来は返すべきなのだろうけど……。
迷った末に、すぐに返すのは嫌な予感しかしないので、以前以上に分けて少しずつ返す事にした。
だってサーラ様に罪はないのだから。サーラ様の努力を無駄にしたくなかったから……。
…………
その後サーラ様は無事に2年遅れでアカデミーに入学されたらしい。
王位魔法使いとして颯爽と現れた美しいサーラ様は、今ではビンセント王子の婚約者候補筆頭と言われているらしい。是非夢を叶えて欲しいものだ。穏健派と過激派の架け橋になって欲しい。フォードルン侯爵の意向はわからないままだが、サーラ様の想いは本物だったと思うから……。
…………
もうすぐあの日がやってくる。私は15歳になっている。
後、数ヶ月で16歳。この国の成人は16歳だ。
そう、私はもうすぐ成人を迎える。
私の魔法レベルは18になったが、勿論半端者だ。
半端者は余裕を見て1ヶ月前には神殿に入る様になっている。
その日が刻一刻と迫っていた。




