魔力柱の分割
それから更に1週間経ってから、私たちはフォードルン侯爵家を訪れた。
エイベル様からは再度謝罪があったが、流石に遅すぎるのではないかと苦言があった。
こちらにも色々準備が必要だった事、もし私達との約束を反故にするようなことがあれば治療を中止する事は言わせてもらった。
エイベル様は、不服そうな顔をしつつも了承した。
いつものように重厚な扉が開くと待ちきれないとばかりにサーラ様が来た。
「遅いじゃない!!」
詰るように向けられた目線に怯みそうになるのをなんとか耐えて私は言い返す。
「サーラ様、私達にも様々な事情があります。ご理解くださいませ。ご理解頂けないようであれば治療を中止せざるを得ません」
「……っ。仕方ないわね。とにかく早くしちゃいましょう。長居は出来ないのよね?」
サーラ様は少し寂しそうにした。サーラ様は最近私との会話を楽しみにしている節があった。最初はあんなに嫌われていたのに……サーラ様も同年代のお友達がいない。ずっと病床に臥せていたと言うのもあるけど、サーラ様は今も体調が落ち着いてもアカデミーに通っていないし、隠された存在だったから……。私たちはレベルの違いはあれど、似た様な境遇だ。サーラ様は傲慢なところはあるけれどまっすぐな所は憎めない人だ。
私は陰キャラだから大丈夫だけど、サーラ様の性格を考えるとアカデミーに通っていないのは寂しいのではないかと思う。
エイベル様が甘やかしてるのはそのせいもあると思いたい。
文句を言いつつおしゃべりしながらの治療は私にとっても良い刺激になってはいると思う。
「そうですね。まずは診察しましょう。それから今後の治療方針をお伝えします」
鑑定結果も良好で、ちゃんと指示も守っている様だ。これなら考えてきたやり方でも大丈夫かと思う。
「経過も順調ですね。良く頑張っておられます。
良く頑張っておられているので、これからは私が頻繁に訪れなくてもある程度、自己裁量で治療のステップを上げれる様に治療の仕方を工夫しようと思います。
工夫する為に少しサーラ様の魔力柱を操作しますが宜しいですか?」
私の訪れる回数が減ると言うと少し寂しそうな顔をしたが、治療ステップが上がる事の方が嬉しいみたいで笑顔を見せる。
「治療が進むなら構わないわ」
エイベル様も了承したので、私はサーラ様の魔力柱を操作する事にした。
今まで一纏めに凍結させていた魔力柱を細かく分けて凍結し、一つ一つを魔力クッションで包む。
一つ一つの魔力クッションに紐付けされたビー玉サイズの魔力玉を作成した。サーラ様の魔力は多いので全部で100個くらいになった。
ビー玉サイズの魔力玉を私は5つを残して、後は空間魔法の中にあるマジックバックにしまう。
私は13歳になり、ようやく空間魔法が使える様になった。ただ、半端者の魔力では容量は小さく三方が50センチくらいの小さな空間だ。空間が小さいので私はこの空間を最大限利用する為に空間魔法内はマジックバックで仕切られている。こうすれば50センチの空間が何倍にも活用できるのだ!! グレゴリーさん直伝のサバイバル用マジックバックも勿論収納されている。マジックバックごとに用途を分けているので整理整頓もできて良いのだ。じゃなかったまた話がそれた。
私はビー玉をエイベル様に渡しながら説明する。
「このビー玉は、サーラ様の凍結された魔力柱と一つ一つ繋がってます。このビー玉を割ると凍結が解除され、割った分だけサーラ様の魔力柱レベルが戻ります。まずは一つ割ってみてください。魔力を込めれば割れるはずです」
「わかった」
真剣に話を聞いていたエイベル様がビー玉を一つ取り魔力を込める。するとパリンという音と共にビー玉は粉々になり跡形もなく消えた。
鑑定してサーラ様の紐付けされた魔力柱も解凍出来て、結合されているのも確認できた。
「今の治療法にも、驚いているが……これは一体どういう仕組みなんだ……」
驚いている様子の2人には申し訳ないが、詳しく話すつもりはない。私は今後の治療方針を話す。
「ビー玉一つ分がいつも私が増やしていた魔力柱の量だと思ってください。今まで通り、丸一日治癒魔法が不要になれば、次のビー玉を割ってください。絶対に2個同時に割らないように、体に負担がかかり、余計に治療が遅れますので。サーラ様も、エイベル様に無理を言って早いペースで上げないようにして下さいね」
私が念を押して話すと、エイベル様は神妙に頷いた。
「わかった。治療が遅れては意味がないからな。サーラが待てずに催促してきそうだが、ちゃんと守らせる」
「私だってわかっておりますわ!!」
「よろしくお願いしますね。お渡ししたビー玉が無くなれば、また連絡をください」
今回はフォードルン侯爵家当主には会わずに終わらせる事ができた。偶々イレギュラーだったと思おう。
これで週1回の訪問から月1の訪問に減らせそうだ。
…………
その後は順調に経過が進み解凍する魔力柱のペースも早くなってきたので、渡す量も1回に10個ほどになってきた。残り半分くらいになった時に事件は起こった。
いつも通りに、フォードルン侯爵家を訪れたが、今日は何だがいつとも違うような感覚に襲われた。それはオリバーも同じだったらしく、少し眉を寄せている。
「何だが変な感じね……。今日は戻った方が良いかしら?」
「その方が良いかも知れません。また後日にしましょう」
「もうお帰りになられるのかな?
ぜひ当主として、サーラの治療をしていただいている高名な治癒魔法師殿にご挨拶させていただきたくて、外で待っていたのですよ?」
気配を隠していたのだろう。嫌な感覚はこれだった。
当主……フォードルン侯爵家当主が姿を現した。




