後遺症
アンの体調が落ち着いてから、話せる部分だけを聞いた。
殆ど話せないみたいだけれど、要はフォードルン侯爵家の離れに来てくれれば分かると言う事みたいだ。
アンはずっと妹の事を諦めていたみたいだが、私が神殿以外にも外出するようになって、もしかしたら来てくれるのではないかと一縷の望みをかけて話したそうだ。
「身勝手なお願いである事は重々承知しています。
難しい事も……ですがどうか検討だけでもして頂けないでしょうか?」
アンは真摯に再度頭を下げてきた。
「そうね……一度行ってみないと何も分からないし……」
「なりません」
アンの問いかけに私が答えようとすると、マーサが待ったをかけた。マーサはいつもニコニコして私のやる事には口出ししないけれど、今回の事はダメらしい。
真剣な顔で、マーサは否を突きつける。
やはり敵勢の本陣に行く様な真似は出来ないよね……。
けれどサーラさんの事はとても気にかかる。
フォードルン侯爵家の罠……かもしれないけど魔力過多症の治療を、受けれないなんてどんな状況なのか……前世の医療に携わる者として助けられるなら助けてあげたい。
マーサにお願いしようと私が話し始める前にマーサが続けた。
「フォードルン侯爵家当主の考えは大方予想がつきます。
あそこは魔力レベル至上主義ですからサーラさんは、かなり魔力柱のレベルが高いのでしょう。
それを惜しんだ当主が、治癒魔法のみで他の治療法を拒否しているのだと思われます。
けれどフィリア様にお願いするのは間違いです。
魔力レベルは下がりますが、治療法はあるのですからフィリア様が危険を侵す必要はありません。
フィリア様は治癒魔法師では無いのです。
魔力過多症の最終手段である治療は魔力レベルを抑えつける治療ですから、フィリア様の魔力では治療出来ません。
資格のある治癒魔法師に頼みなさい。
魔力レベルが下がって、もし追放されれば貴方の様に旦那様が雇って下さいますよ」
マーサの言葉に、アンの顔が曇る。アンはもしかしたら、魔力過多症の治療で高位から中位魔法使いにランクダウンしたのかもしれない。
魔力過多症の魔力発作のレベルにもよるが、最終手段の治療は魔力柱の成長を無理矢理抑えつける事になるので、たまに副作用として、レベルが下がりすぎる事があるのだ。
特に治療が遅れてギリギリまで渋る場合は起こりやすいとされている。
「……っ。確かに私がこうしていられる事は幸運なのは分かっています。ルクセル侯爵様には感謝しかありません。魔力レベルが下がってしまったのも、治療が遅れて器や回路がボロボロになっていて、予想以上に、レベルを下げないといけなかったのも……、後遺症が残ってしまったのも仕方がない事と思っていました。
けれどフィリア様のお陰で、私の魔力過多症の後遺症は随分軽減されたのです。
フィリア様で有れば何か別な方法で治療出来るのではないかと……。これは勝手な私の希望なのです」
どうやらアンの頭痛は魔力過多症の後遺症が原因だった様だ。
私は敵陣に来ていたストレスによるものだと思っていたのだけれど違うらしい。
私の治療は頭痛につながる神経に伝わらない様に遮断したものなので、原因の違いはあれ、結果的に成功したみたいだ。
魔力過多症の治療は確立されてはいるが、私のアレを使えば魔力レベルを落とさずに、治療する事は理論上は可能だ。
多分副作用もないと思う。ただ一度の治療では終わらず、長い間経過を見守らなければいけないので、私の成人までに治すのは難しいかもしれない。
「ちなみにサーラさんは成人していないのよね?」
アンは首肯した。サーラさんが成人してると治療は難しくなる。まだ成人してないのなら、魔力柱のレベルを下げずになんとかなるかも。
「フィリア様!?」
私が質問を続けてるのに対してマーサは、驚きを隠せない様だ。フォードルン侯爵家には、次期侯爵になる息子がいて確かお兄様と同じ歳で優秀な人だと言っていた気がする。
だとすれば、後継の心配ではないはずだ。
それなのに、サーラさんの魔力レベルにこだわると言う事は、是が非でも欲しいレベル……サーラさんの魔力柱のレベルは王位魔法使いかそれに限りなく近い魔法レベルではないだろうか……?




