番外編 焦り 前半 sideメイソン
話は戻ってメイソン視点です。
『フィリア、俺はもっと強くなる。
いつかフィリアを超えてみせるから待っててくれ。
フィリアが万全の状態でも勝てるようになってみせるからな!
その時は勝負してほしい。
勝ったら、聞いて欲しいことがある』
フィリアに、そうは言ったが、試練を超えたからと言っても、最初は下位魔法使いのレベルに到達しただけ……。
フィリアは半端者にも関わらず、魔力効率が良いのか下位魔法使いになったくらいでは敵わなかった。
フィリアは意外と抜けている部分があるので不意打ちなら勝てるだろうが……それじゃぁ男が廃る。
正々堂々と勝ちたかった。
俺は、すぐにオリバーを師として鍛錬に明け暮れた。
オリバーは指導は厳しかった。鍛錬では何度も死んだんじゃないかとすら思う。
それだけでなく、エイムで開発した物とは違う未発表の魔力ポーションの服用もあり、そのお陰があってレベルがおかしいくらい急上昇した。
やはり、エイムのポーションもオリバーが?……と思う事はあったが、こちらはレベルを上げてもらっている立場なので、そのことに関しては何も聞かず素直に言われた事を淡々とこなした。
多分だけれど、オリバーは俺を『フィリアの恋人候補』くらいには認めてくれている。
ただ、今の段階では任せる事ができないから、指導しているのだろう。
もちろん俺が、オリバーの考えているレベルまで達しないと判断されれば、そこで切られてしまう。
オリバーは最終的にフィリアを任せる相手を育成している気がした。
オリバーはフィリアに対して過保護だ。
物凄く厄介な番犬だ。
オリバーは絶対にフィリアのことが好きだと思っていた。
にも関わらず、恋人になろうとはしない。そういう素振りもみせない。
オリバーの考えがよくわからない。
オリバーはフィリアに対して悪意のある者は、フィリアが気づく前に排除するか、関わらせない事が殆どだ。
先に関わってしまったとしても、最終的に良好な関係に持っていくように裏で動いている。
それ程までに大切にしているのに自ら手放そうとしているのは何故なのだろう?
◇◇◇
その姿勢は、フィリアがトライア地区に来てもそうだった。
フィリアと生き別れた家族との時間を大切にしたいからと、表立っての護衛は禁止された。変装して影から護衛する事になったのだ。生活が落ち着くまでは、メイソンの姿で時折、会いにいくのも禁止された。
フィリアの側に居るのに、話す事も出来ないのは辛かった。
その頃には、俺は高位魔法使いに達していて、多分フィリアと勝負しても勝つ事が出来ただろう。
けれど、オリバーが認めない限りはきっとうまくいかないと、数年のオリバーとの付き合いで確信していた。
なので俺は、フィリアがトライア地区の生活が落ち着いたら……家族が和解したら、想いを伝えたいと、オリバーに直談判した。
「……勝手にしろ」
少し間があったが、漸く、オリバーに認めてもらえた瞬間だった。
これで再度フィリアに向き合うチャンスが巡ってきたと浮かれていた。影からフィリアを見守りつつ、後少しだと思っていたのだ……。
◇◇◇
そう思っていたのに、地震が起きた、日常が緊急事態へと変わる。フィリアは安全なペティから抜け出した。
しかも、急に姿を消したのだ。
慌ててフィリアの魔力を探すと海岸近くにいる事がわかる。
誰かに転移魔法で攫われたのか?
不安が過り、急いで転移をして、再度魔力を探り、フィリアのもとへと急いだ。
漸く見つけた時は、フィリアが海の中に入ろうとしていた所だった。
1人だったので、攫われたのでは無いのに安堵したものの今にも海に入ろうとするフィリアを止めなければいけなかった。まだ、海はかなり荒れていた。また、第二の津波が来るとも限らない。
オリバーから影からしか護衛は認められていない。
メイソンの姿で会えば、約束は反故にされてしまうかもしれない。
オリバーの性格から、オリバーとの約束を破れば、俺との約束も反故にしかねない。
こちらでは変装姿でメイスと名乗っていたが、フィリアとの接点は無かった。
メイスの姿では、怪しい者と思われ、フィリアは警戒してまてまた何処かへ行ってしまうかもしれない。
苦肉の策で、フィリアがトライア地区でよく知っていてここにいてもおかしくないダンに姿を変え、フィリアを止めたのだった。
フィリアはどうしても海に入り、やりたい事があると譲らなかった。
フィリアが頑ななのは本当に珍しいが、意思の籠った瞳は説得が難しいのを物語っていた。
俺は渋々、少し離れた場所で見守る事にした。
それが仇となった。
俺の魔力が干渉しないように、海の中まで着いていくのはやめていた。
いや……少なくともフィリアが魔力を手放した時に駆け寄っていればよかった。
後悔は先にたたずだ。
俺が支えたかった。
フィリアの体が傾いた時、俺が瞬間移動でフィリアの下に行く前に、別の男が支えた。
その男は嬉しそうにフィリアを抱える。
そして額と額を合わせて、フィリアに魔力を送っているようだ。
夕日に映えるオレンジ色の髪に、エメラルドの瞳、
王位魔法使いにしか許されていないローブを纏っている。
魔力が殆ど残っていないフィリアに魔力を与えることの出来る人物。
本来なら魔力の授受は、簡単ではない。拒絶反応が起こるからだ。開発された魔力授受を助ける専用の魔道具が必要になるが今はここにない。
それ以外の特別な方法……それは以前フィリアの中にあった魔力を受け取った人物……元々フィリアのものだった場合は多少変化しても拒絶反応は起こりにくい。
そんな事が出来る人物は1人しか居なかった。
ルイス殿下だ。
直接会った事は無かったが状況からそう判断するしか無かった。
今すぐ引き離したい衝動に駆られるが、フィリアの安全が1番だ。魔力枯渇まではいかないが、一度に消費する魔力が大きいと反動で体が動かなくなったり、後遺症が残る時がある。
少しでも魔力の補給はあった方がいい。
そう思いつつも思わず睨んでしまったのは仕方のない事だ。
魔力の授受が終わったのか、ゆっくりと額を離して、こちらを向いた。余裕のある王族の微笑みに、余計に神経が逆撫でされた。
「今までありがとう」
「貴方に、感謝される言われはありません」
という事で、ダンに扮したメイソンでした。
フィリアを支えたのはルイスですね。




