海岸
そのまま、ブレンの部屋で魔法の練習をする。
魔力は潤沢にあっても扱えなければ意味がないからだ。
魔法の知識は本や周りの人から教えては貰ったけど、魔法使いが扱える魔法の実践は初めてなのです。
そんな私に、ブレンが特別に魔法訓練用の場所を用意してくれた。どんな魔法を放っても失敗してそこら中にとんでも、全て吸収してくれる凄い部屋だ。
こんな部屋を用意できるなんてブレンって一体何者?と思うけれど、元々、全ての知識の源のような存在だったのだから、こんな事も出来るだろうと深く考えないことにした。
ここでは失敗を恐れずなんでも出来る。
とりあえず、津波が再度来た時に、身を守る為に必要な転移魔法、簡単な攻撃魔法、保護魔法を練習した。
どんな失敗をしても大丈夫だとの事で、私は安心して練習できたのは僥倖だった。
私が思いつく限り練習して自信がついた後、ブレンに声をかけてから、私は海岸に転移した。
◇◇◇
海岸に出ると私は海の方へ歩く。海に近づくにつれて精霊の怒りがピリピリと肌に刺さる。
水面まで後少し…と思っていたら肩を掴まれた。思わずびくりとして振り返り、手に魔力を込める。
そこには焦って走ってきたのだろう、息を切らしたダンさんがいた。私の手の中の魔力を感じたのか、すぐに肩からを離し両手を挙げている。
「おっと、すまない。驚かせるつもりは無かったんだ。
まだ津波が来る恐れがある。海岸は危険だ。
鐘がなり安全が確認できるまでは避難していてくれ」
「お手数をかけてすみません。
心配して急いで来てくださったんですね。
忠告ありがとうございます。ですが、大丈夫です。
その……転移魔法が使えるようになったので、危険が迫れば転移します」
私の返答にとても驚いた顔をしていた。
ダンさんは、私の受け入れ態勢を整えてくれた1人なのだから、私が半端者である事を知っていたのだろう。
なので私が転移魔法を使えることに驚いたのだ。
半端者なら自分だけで転移魔法が使えない。
「えっと……その本当に転移魔法が?」
「はい」
私はそう言ってダンさんの前から後ろ側に転移した。
気配を感じたのか、すぐに振り返ったダンさんはさらに驚いて、目を見開き固まってしまった。
これは転移というか瞬間移動のように感じるかもしれないが、少しは安心してもらえただろうか?
「信じてもらえましたか?」
「あ…ああ。ただ。ここはやはり危険だ。
早く離れたほうがいい」
「危険なのは充分、理解しているつもりです。
ですが、試してみたい事があるのです」
私はダンさんに計画を話した。
話し終えるとダンさんはとても悩んでいた。
どうするべきか迷っているようだ。
「フィリアに危険はないのかい?」
「危険はないと思います。ただ、こんなに広い場所に祈りを捧げた事は無いので、私の魔力が足りるかどうかの不安はあります」
「魔力が枯渇してしまったら命の危険があるのでは?」
「命を削ってまで、魔力を注ぐ事はしません。
私も自分の身は可愛いので無理はしませんよ」
「本当に…? フィリアは他人は大切にするのに、自分の事となると軽く考えているきらいがある」
(? ダンさんはデータだけでなく、私のことをよく知っている? そんな事までデータに書いてあったのかしら?)
私が不思議に思っていたら、慌てたようにダンさんは言い訳を始めた。
「いや、その。バネッサから聞いていて……」
バネッサと仲は良さそうだったので、そうなのだろうか?
ダンさんの手を煩わせるのは心苦しいが、折衷案を模索すると、これしか無いのだろう。ダンさんが怯んでいる時に、ダメ押しで提案する。
「そうですか。バネッサから聞いているなら、私は正しいと思った事に関しては、意外と頑固なのも知っているはずです。少しの時間で良いのです。
気になるのなら見守って頂けませんか?」
大丈夫だから持ち場に戻って欲しいと言ってもダンさんは首を縦に振らないだろう。
私も、これからする事は止めるつもりはない。
このままでは押し問答になるのは目に見えてるので、少しの間、ダンさんの時間を拝借する事にした。
ダンさんは悩みながらも側で見守ることを条件に、最後は了承してくれた。




