私の願い
「……という事なんだけど、いいかな? ここでやっても」
「構いませんよ。そんなに心配なさらなくても大事にならないでしょう」
決意と共に、お願いをしに来た私に対して、ブレンは穏やかに返事をした。孫の成長を見守るおじいちゃんみたいだ。何となく私の決意を喜んでくれていると思う。
「ありがとう。ブレン。
ミィ……お願いがあるの。
出て来てくれる?」
私は懇願するように祈った。
ミィは、ルイス殿下との魔力授受をしていた時以来、顔を出していない。忙しいと言っていたので呼ぶのが申し訳なかった。
当時も、ほとんど三姉妹のティナ、レナ、モカが、代わりを務めてくれていた。後から知った事だけれど、ミィはとても高位の精霊だったので、本来なら人間の前に現れる事はないそうだ。
もう今更願ったとしても現れてくれない可能性が高い。
元々精霊は気まぐれだし、契約をしていてもこちらに応える必要はないのだ。
だから、私は祈る事しか出来ない。私は心を込めてミィを呼んだ。
「はいはーい!! 呼ばれて飛び出て来たミィだよぉ!!」
明るいハキハキとした口調は初めて会った時と変わらなかった。
けど、見た目は大人っぽく髪もさらに伸びていて成長したようだ。
「久しぶりだねミィ。呼びかけに応じてくれてありがと」
「ふふふ。いいよ〜。やっと私の使命を果たせる時が来たと思うと、遅すぎるー!! って思うし!!」
「使命?」
「いいから、いいから!! 呼び出したのには理由があるんでしょう??」
ミィが呼びかけに応じてくれた事に安堵しつつも、ミィの使命って? と疑問が浮かぶ。
それを、ミィはニッと笑い、何も言わずに先を促してきた。
「えぇっと……これはお願いであって強制とかではないの。私からお願いした事なのに今更って思うんだけど……」
「もう!! 御託はイイから!!
ミィに何して欲しいの??」
本当に自分勝手だと思う。けれど、私は意を決して、自分のやりたい事をする為にミィにお願いをした。
「その。魔力を返して欲しいの」
「イイよ!!」
「そうだよね。ダメだと思うの。自分から逃げておいて今更ダメ……」
「だから!! イイって言ったの!!」
「えっ? イイの?」
「じゃぁ、返すね! はい! どうぞ!!」
「えっ? いきなり? 心の準備は!?」
「そんなものはとっくに出来てた筈でしょう?」
ミィにそう言われて、ハッとした。
確かに決意をしてここに来た。その通りである。
展開が早すぎてちょっとついていけなかったけれど、私が望んだ事だ。
荒れている海を見た時、精霊たちが怒っているとそう感じた。
水や、風、海の精霊達が自分達の領域を侵されて憤慨したから津波が収まっても荒れたままなのだ。
精霊達が怒っているのならば、精霊の怒りが静まるまでは、荒波は収まらない。
精霊は気まぐれだから、すぐかもしれないし、何十年後かもしれない……。それでは住民は困るのだ。
精霊達を鎮めるにはどうしたら良いかと考えたのだ。
その時、私の魔力は精霊達にとって好物なのだと思い出した。なら怒り感情がある精霊達に祈りを捧げ、私の魔力をあげれば喜んでくれて、早く収束するはずだと思う。
自惚れかもしれないが、試してみる価値はあると思った。
ただ、半端者の私の魔力では、広大な海を満足させられるほどの魔力は持ち合わせていない。
……そうして私は決意した。
魔力が多く扱えるように、私は魔法使いになる。
そう決めた。子供達にも背中を押してもらったのに、ここで手をこまねいている理由はなかった。
そこで、自分の中にある凍結していた魔力柱を解凍したのだけれど、思ったよりも魔力は増えなかった。凍結させていた時間が長かったから上手く魔力が増えない。
そこで無理を承知でミィにお願いをしたのだ。
元々魔力が戻ったら試練の扉を越えなければいけない。
ブレンの部屋ならば、外の世界の時間は止まっているので、別の世界にある試練を乗り越えるまでの時間がかかっても大丈夫と思って選んだけれど、高位の精霊に、お願いするとなると不安だった。精霊は気まぐれ……。
もし、反感をかえば、ブレンの部屋がどうなるかわからない。それでもブレンは了承してくれた。
ブレンはこの未来が見えていたのだろうか?
ブレンは私達を見守るように少し離れた位置で静かに佇んでいた。
ミィはどこまでもミィだった。どこまでもマイペースで、思い切りがいい。
本当に、ミィがイイよと言ってすぐ、もう魔力が戻って来た。
それもミィに渡した以上に、膨れ上がって魔力柱が返ってきた気がする。
「えっ!? 何だか多くない!?」
「そりゃそうでしょう?? 子供の頃に貰った魔力柱なんだから成長と共に大きくなっただけだよ。私は凍結なんかさせずに大事に育ててたんだから!!
それでも全部は返してないんだからね?
ふふふ。ミィはフィリアとの繋がりは残しておきたいからね!!
ちなみに、フィリアの中で凍結していた魔力柱は、これから体に馴染んで、成長するから、まだまだ魔力は増えるよ!!」
「えぇ!?」
そうこうしているうちに体から魔力が溢れ出した。




