レルートの算段
本日より完結まで毎日投稿に変更します。
よろしくお願いします!
「何だって!?
でも、津波警報は出てないじゃないか?
それは事実で間違いないのか?」
「信頼できる情報筋からよ。
後数時間で着岸するらしいわ」
「俺たちが、観測値にしているのは50キロ圏内だからな……。警報は鳴らないのはその為か。
次までにもう少し範囲を広げて観測値を増やす必要性が?」
「警報の範囲はまた今度でいいから、今回の事をまず考えて!!」
レルート教官が、警報装置の改善点に向きそうになったのをバネッサが修正した。レルート教官は結構マイペースなようだ。
「あぁ。すまない。
で? 規模は?」
「予測では、魔法使いが派遣されるか微妙な規模らしいわ」
「となると、海岸沿いの街が海に沈むと言う事だな。
今から避難を行えば、人的被害はほぼないであろうが……。かなりの経済損失になるな」
アーレン王国との協定では、人的被害または物理的被害が15%を超える恐れのある場合に派遣要請が出来るとなっている。
トライア地区の海岸沿いの街だけでは、トライア地区全体の15%になるかは微妙なラインらしい。
微妙なラインは、派遣要請が可能だが、アーレン王国でも緊急事態になっているので、派遣はなるべく避けたい。
「派遣は、ほぼ無理な状況。まぁ、ポンコツ親父は当てにならないけれど、私がいるから最終は大丈夫」
「まぁ、そうだな」
「えっ?」
「あれ? フィリアに言ってなかったっけ?
えっへん! お姉さんは、高位魔法使いでございます」
何故かアーレン王国式の礼で挨拶するバネッサ。
バネッサが高位魔法使いだなんて……。
よく考えれば、お母様は王位に匹敵する魔力の持ち主なのだから、あり得ない話じゃない。
でも、20年前は、2人の魔法使いが必要だったはず。
大丈夫なのかとバネッサを見ると、それを察したのか安心させるようにバネッサは微笑んだ。
「大丈夫!!
こっちもあれ以来、津波についてすごーく研究して対策を練ってるからさ!
まぁレルートが中心なんだけど!」
津波の話をしても2人とも落ち着いているなぁとは思っていたけれど、最終はバネッサが、レルート教官にも事前の作戦があるそうだ。話を振られたレルート教官も安心させるように頷いた。
「日頃の研究成果を見せるところですね。
とりあえず、こちらの用意した魔道具でできる限り対処します。魔道具だけで対処するつもりでやりますが、難しそうなら、バネッサはフォローをよろしく」
「はいはーい!まかせて!」
頼もしい2人が揃ったようだ。
「あっ!そうだ!このメンバーなら、もう一つ作戦を増やしたくて……」
「えっ? 今から?」
あと数時間しかないのに、今からレルート教官は魔道具を、作成するようだ。
ニヤリと嬉しそうに笑うレルート教官に対して、バネッサは、大丈夫なのかと懐疑的だ。
「手かずは多い方がいいだろう?」
「まぁ? そうだけど?
ダンには、緊急メールで津波の事は知らせているから、住民避難はもう始まっているはずだし、私で協力できる事はするわよ?」
「えぇ、助かります。
ただ、1番必要な協力はフィリアです」
「え? 私?」
ずっと2人で話していたから、私に急に話が振られるとは思ってみなかった。
「どうせなら、今わかった事も試してみましょう」
そう言ってニヤリと笑ったレルート教官の手には、先日の測定記録を元にしたレポートの束が握られていた。
◇◇◇
私は誓約魔法で2日間、魔導線を引くのを禁止されていたはずだが、あれは2日=48時間だったみたいで、今日の昼過ぎには解除になっていたようだ。
なので、散々レルート教官にこき使われ……じゃなくて魔導線を初めて書いたあの日くらい沢山魔導線を引かされた。
特に、黒を指定される事が多かった。
他にも色の指定を次々に、言われた通りに引いていった。
沢山引いたらダメじゃなかったの?? と思いつつ。指先は痛くならなかったので回路の方は大丈夫みたいだ。
限界になる迄には、やらせないだろうと思う。
限界を超えたら、次はそれよりも引ける量が多くなるのかな?
レルート教官は、新しい魔道具作成に夢中で、説明等は省かれてしまった。原理はわからないが、レルート教官が大丈夫と言うのだから良いのだろう。
嬉々として私が描いた魔導線を組み立てていく。
本来なら魔導線の制作者である私が組み立てる事まで出来た方が魔導効率は良いらしいが、実習をしていない私には無理みたいだ。
早く習いたいなと思いつつ、今は時間との勝負な為(レルート教官はブレンの空間に入れないのが残念だ)バネッサと時折喧嘩しながらも、楽しそうに組み立てているレルート教官を見て私も何が出来るのかとても楽しみになった。




