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【完結】半端者の私がやれること〜前世を中途半端に死んでしまった為、今世では神殿に入りたい〜  作者: ルシトア
第二部 ルルーシオ王国編

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絶縁

 前世の子供達が、元気に暮らしていると言う事実は、私の心にあった鎖を溶かしてくれたと思う。

 今すぐに、今までの意識が変わると言う事はないけれど、心は軽くなったような気がした。

 私が心配していた転生の話も教えてくれた。

 女神様が私を不憫に思い転生させたらしい。

 だから、私が急に何処かへ転生する事はないとの事。

 だから安心して結婚、出産しなさいと、言われた。


 何だか親子の立場が逆転してるな。と思わなくも無かったけれど、それだけ子供が成長しているのだと嬉しくも感じた。


「じゃあ私達の話はこれで終わり」


 実咲が殆ど喋っていたので、正輝は良いのかと視線で訴えたが、正輝は口を開きかけた後、首を横に振った。

「また会える。だから今日はこれで」

 正輝がそう言うのだからそれで良いのだろう。

 口数が少ないのは私に似たのかもしれない。

 急に距離を縮めなくていい。まだ『これから』があるのだ。焦る必要はない。


「じゃぁ次はあの人ね!」


 そう言って実咲が視線を向けた先には、前世の夫。佐藤 芳樹がいた。

 先ほど2人と対照的で、芳樹は年齢を重ねたのもあるだろうけど、どこか窶れていて覇気がなかった。いつもの軽いふわふわした感じは形をひそめ、重苦しいオーラが滲み出ていた。


「私達は、これからの話し合いには参加しないし、聞かないけれど、見える範囲で側に居させてね。何かあればいつでも駆けつけるから!! 私達は母さんの味方だよ!」


 そう言って実咲と正輝は席を立ち、少し離れた位置にいつの間にかセットされていたテーブルと椅子に座った。


 私は真ん中に座っていたが、ソファーの端による。

 芳樹も遠慮がちに反対側に腰を下ろした。

 何と言うか微妙に距離があった。多分これは私達の今の心の距離感でもあったのだと思う。

 何とも気まずい雰囲気の中、芳樹の方から話しかけてきた。

 どうやらフィリアの見た目だが、芳樹も中身が楓である事は承知しているようだ。


「本当に申し訳なかった」


 謝罪から始まった芳樹の話は、あまり気持ちの良いものでは無かった。

 私を都合のいい女として見ていた事。

 仕事を態と忙しくして子育てから逃げていた事。

 私の死後も、子育てから逃げていた事。

 全てが苦しく辛い内容だった。

 何ともやりきれない気分だ。


 でも……今は全てを後悔している事はありありと感じ取れた。


 後悔をしているのは感じても、こんな事を言われたら普通は、怒るのだろう。都合のいい女と言われて怒らない方がおかしい。詰ったりするのかもしれない。

 けれど、私はそんな風に思わなかった。今はもうフィリアとして生きてるのもあるけれど、子供達が無事で楽しく人生を送っていると知ったのが大きい。

 ロクデナシの親がいたから今の子供達がいたとも言える。

 反面教師だ。


 勿論、これは結果論だ。けれど、実咲が言ったように、過去を否定ばかりするのは違うのだと思う。

 今がいいなら後ろを振り返る必要はない。

 わざわざ過去を思い出して暗い気分になる事もない。

 前を向くべきだ。今の私も、トライア地区に来てとても充実している。

 他の人からしたら、ちっぽけな夢や願い事かもしれないが、私にとっては、楽しい事ばかりだった。

 これから物作りに関わっていく。魔道具に関われる事。自分の望む事をさせてもらえる事は本当に嬉しいものだ。

 だから、私に前世の嫌な過去は必要ない。


「もういいです。謝罪は受け取りました。

 私も……話し合いが大切だったと思います。

 たとえ、断られたとしても、向き合うべきだった。

 私はすぐに気を回して、すぐ諦めてしまっていました」

「それは俺がそうなるように誘導していたから……」


 申し訳なさそうに謝る芳樹に、私の心は凪いでいた。


「でも結婚したのだから話し合いが必要でした。

 嫌な事、辛いなら貴方にまず頼るべきだったのでしょう。

 それができなかった。夫婦としては破綻していたのでしょうね。

 ふぅ……。もうこの話は終わりにしましょう。

 私は見ての通り、別の人生を歩んでいます。

 もう芳樹とは関係のない人生です。

 芳樹も、向こうで新たな人生を歩んでください」

「えっと……」

「私と貴方の縁は切れました。

 これからは子供達の事がない限り、貴方に会うつもりもありません。子供達はもう大人ですからその必要はないでしょう。

 どうぞお帰りを。」


 謝罪は受け取ったが、許すつもりはないし、関係を修復するつもりもない。私が前を向くためには、芳樹は必要ない。


 私の強い意志を感じたのか、芳樹は、それ以上何も言わなかった。

 少し見つめ合った後、芳樹は立ち上がり、もう一度謝罪の言葉を述べた後、ゆっくりその場を後にした。


 ◇◇◇


「お母さん大丈夫?」


 芳樹が去った後、心配そうに子供達がやってきた。

 ショッキングな話を聞いた後なので、顔色は悪かったのだろう。心配させてしまった。


「大丈夫。辛い話だったけれど、スッキリはしたの。

 本来なら死後に話し合いなんて出来なかっただろうし、神様には感謝しないとね」


 そう言って笑顔を作る。

 強がりも入っているけれど、子供達が心配してくれている事に不謹慎かもしれないが嬉しかった。

 そんな子供達に心配かけたくない思いが強かった。

 母親は強しである。


「後1人会わせたい人がいるんだけど、今ので辛かったら日を改めてもらうよ」


 どうやら、私に会いたい人がもう1人いるらしい。

 正輝の言い方だと、あんまり私にとって良くない人なのだろう。

 そして、もう1人もきっと前世絡みの人なのだろう。だったら早い方がいい。

 前世を振り返るのは、子供たちのことを除いて今日までにしたかった。


「ううん。会うよ。早く終わらせたい」


 子供達は私のことを心配しながらも、私の意志を汲んで、ある人を連れてきた。その人物は意外な人だった。私は、前世の姉や母を想像していたのだ。

 私との関わり合いが深いと言えばこの2人だったから。

 けれど目の前に現れたのは父親だった。


 ◇◇◇


 いつの間にか用意されていたのは対面式のテーブルだった。ブレンは本当によく気がきく。正直、さっきのソファーに2人で座るのは遠慮したかった。

 テーブルには紅茶がセットされていて、2人ともぎこちなく座った。


 前世の父親の記憶はあまりない。

 忙しい人だったから朝は私が起きるより早く家を出ていたし、夜はその為に早く寝ていたり、出張でそもそも居なかったりと、殆ど家にいなかった。

 ただ、たまに会う父親は、とにかく恐く、昭和の頑固親父そのものだった。

 試験は満点が当たり前。それ以外は厳しい叱責が待っていた。褒めることなく、兎に角、粗を探して叱責ばかりされていた。

 何かわからない逆鱗に触れると押し入れに入れられるのもザラ……。よくわからない理論に振り回されたりもした。

 父親がいる時はいつも緊張の糸が張り巡らされたようだった。

 現代なら通報モノだなと思うが、あの時代だから許されていた。まぁ、それで、私はトラウマになり、閉所恐怖症になってしまったけれど。


 そんな父親は今更何の用だろうと思っていたら、まさかの謝罪だった。あの気位が高い父が……驚きで目が点になる。昔の父親は自分に非があっても絶対に謝らなかった。

 それがどうしたのだろう? 天変地異か?


 どうして謝罪しにきたのかを聞いたら、子供達の影響だと言う。どのような影響かはわからないけれど、父に心境の変化があり、今回の事にいたったと。

 私の子供達は、凄いとしか言いようがなかった。


 確かに私は幼少期のトラウマで、ビクビク小心者になったり、後ろ向きな発言ばかりで自己肯定感は物凄く低いと思う。最悪なことばかり想定してどんどん殻に閉じこもる。ファンタジー等に、現実逃避してオタクになったのも、この父親が原因とも言える。


 けど、まぁ、オタクな自分は、けっこう気に入っているし、小心者で人見知りでもあるが、今は少しは改善してきてると思うし、バネッサ達のおかげで私の世界は少しずつ広がっていっている。

 父親も過去の話だ。


 今、目の前にいる父親は、子供の頃と比べるととても小さく見えた。

 もう怖くない。

 父親にも謝罪は受け取った。そしてすぐにお帰りいただいた。


 ◇◇◇


 本当は子供達ともっと話したかったが、情報過多だったので、私は1人にしてもらった。

 前世の事が一気に解決したと言うかスッキリしたような変な感じだ。

 何より子供達の事は現状が知れて良かったし、後の2人は過去に折り合いをつける事が出来た。辛い過去だが、過去は過去に出来たと思う。


 1人になり、ソファーに深く腰掛けてふっと力を抜いたら、そのまま意識が薄れていくように感じた。


フィリアだって言う時は言うのです。

バネッサのお陰ですね。

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