実咲と正輝
「ふぇっ?」
思わず変な声が出てしまった。
人懐っこくて、距離が近い実咲だったけれど、馴れ馴れしくは感じなかった。
私の緊張をほぐそうとしてくれた実咲は、口調や雰囲気がバネッサと重なる。
あれ? っと思ったけれど……それよりも今は2人の事に集中しよう。
「えっと? 私の事は良いから。実咲や正輝の話を聞きたいな?
どうしてここへ?」
「えぇ〜。私達のことよりお母さんの話をしたいんだけどなぁ。……まぁまずは私達の事話さないと母さんは、納得しないよねぇ」
何故か、実咲は私の事をよく理解してくれているようだ。
私の事よりも、どうして2人がここにいるのか。何かあったのかと、不安で心配だし、特に、私が死んだ後の事は一番の気掛かりな事だった。
まずはその話を聞きたい。私が1番そう思っている事を実咲は理解しているようだった。
それから2人は掻い摘んで、前世の私の死後の話をしてくれた。
私に気を遣ってか、受験は第一志望合格したとか、良い仲間に恵まれたとか、良い就職先を見つけたとか良い話ばかりだ。
それ以上に、苦労かけたのは分かっていたので、その話をして欲しいと言ったら、嗜められた。
「お母さん? 私たちも見ての通り大人になったのよ?
私達にも見栄みたいなものがあるの。
確かに、お母さんがいなくて苦労した事はあるよ?
でもね? 色んな事があって今の私達がいるの。
その結果がこれ! だから今の私達を見て欲しい。
苦労や嫌な事を蒸し返した所で何も良い事なんて無いよ?
それを踏み台にして乗り越えてきた私達を見て?
母さんは今の話を聞いて、凄いな。頑張ったね!偉いね!でいいの! ってな感じで、むしろ褒めて欲しいな!!
だいたい、今の私達が不幸に見える??」
2人とも服装は、キチンと自分に合った服装を着こなしている。
特にくたびれた様子もなく、お金に困っている様子は無さそうだ。
顔色も悪く無いし、2人とも運動しているのか、スタイルがとても良い。前世の私とは違う。自分と違う所は何となく寂しいような気もするけれど、私に似なくて良かったと思う反面もあった。
話を聞いていても何か思い悩んでいてる様子もない。
ほとんど実咲が喋っていて、正輝は相槌を打っている程度だけれど、端々にエリートコースを進んでいる事がみてとれた。それに、正輝が腕にしている時計はどこぞの有名な奴だ。二十代であんな時計を買えるなんて、凄いとしか言いようがない。
実咲がつけているネックレスやピアスもさりげない大きさだけどダイヤモンドだ。
それを普段使いのように着こなしていると言う事は、2人の話を聞いている限り人生を謳歌していそうだ。勿論見栄を張っている可能性はあるけれど、子供達が背伸びしている姿を見せたいと言うのなら、私はそれを受け入れるべきなのだ。聞いても私は何かをしてあげることも出来ないのだから……。
実咲が言う通り、過去を蒸し返した所で、今更、私が何か出来るわけじゃない。私が今、謝罪した所で、過去が何か変わるわけでも無い。
気にはなるが、2人が話したく無いと言うのなら、これ以上過去の苦労を聞くのは諦める事にした。
それにそれを乗り越えたからこそ、今の輝きがあるようにも思えた。
この話はここまでにしよう。
子供達が充実した人生を送れているならそれに越した事はない。この先も見守られないのは残念だけれど。
「2人が充実した人生を送っているのなら良かった。
2人が頑張ったからに他ならないけれど、本当に凄いわ。
えっと? ……それでどうしてここに?」
「漸く、私達の本題ね!!」
実咲は、ピシッと私の方に向き直り、合わせた視線はとても力強いもので思わず後退りしそうになった。
「私達は幸せに暮らしてるの!
なのにお母さんはどう??
楽しく暮らしているの?」
思っても見ない質問だった。
子供達は殊の外、私の事を気にかけていてくれたようだ。
正輝も真剣な眼差しでこちらを見ている。
今の問いがこの子達の本題なのは見てとれた。
楽しく暮らしているかと問われれば、答えはイエスだ。
トライア地区に来て、まだ駆け出しだけれど、興味のあった魔道具に関わる勉強も出来ているし、充実している。
「えぇ。楽しく暮らしているわ。
興味のあった分野の勉強も出来ているし、何よりここの人たちは皆良くしてくれているの。
恵まれた環境だと思っているわ」
私の返答に、実咲はどこか嬉しそうだった。
けれどすぐに顔を引き締め、そうじゃないと言わないばかりに、ムッとしてしまった。
何かが気に障ったらしい。




