断罪? ラルフ編 sideバネッサ
「次! ポンコツ親父!!」
「はい!!」
私のハシタナイ言葉に、無邪気に返事をする父さん。
言った私もアレだけど、返事した父さんも父さんだと思う。
父さんは普段、仕事も家事もそつなくこなすのに、フィリアや私たちが絡むと途端に挙動不審のポンコツになる。
時々それを楽しんでいる様な気もするが、概ね私が尻にひいているのは間違いない。
さっきはあんなに勢いよく返事をしていたのに、今は真剣な眼差しで私を見ている。
多分、予想はついているのだろうけど、私の意見を聞いてそれに沿うように行動しようとしているのだろう。
父さんは常に私優先だから。
前世で私の母親を救えなかった罪悪感よりも、今世の父親としての矜持なのだと思う。
フィリアが来てからは優先順位はあやふやにはなってきているけれど、多分それでも、父さんにとってフィリアよりも私の方が優先順位は高いと思う。
ただの自惚れかもしれないけど。
それくらい、父さんは、仕事一筋だった前世の頃から変わったのだ。
私が、父さんを考察して見つめていたら、父さんはそれを別の意味と捉えたようだった。
「私はとりあえず、今回の事に関しては外から見ておく。という事で良いのかな?」
少し困ったような残念そうな顔で、でも納得している感じ。
確かに、前世の子供達が前世で楽しく暮らしている事を今のフィリアに印象付けるのが今回の目的だけれど、父さんのフィリアへの謝罪をやめさせる事なんてするつもりはない。
謝罪が良いのかどうかは別だけど。正直言って私からしたら今更だと思う気持ちもあるし。
でも、私が言いたいのはそうじゃない。勝手に納得しないで欲しい。父さんは賢いから、聞き分けが良すぎるのだ。
「そんな事は言ってないよ。父さんも家族でしょう? 一緒に話し合いの場にいて欲しい」
「だが、私とフィリア……楓との話を交えると複雑になるだろう? 私がいる事で楓は萎縮してしまうかもしれない。
俺の謝罪はまた後でいいさ」
「全部一緒にした方が、父さん……お爺ちゃんもお母さんもすっきりすると思う」
あえて私が、前世の呼び方で呼んだ父さんの顔は、少し困ったような、少し照れ臭い感じがありありと出ている。
「ありがとう。ただ……ラルフの姿で謝罪するのは、やめるよ。そういう意味だろう?
バネッサの考えは、わかったつもりだ。
私もその方がフィリアは、自分らしく生きていってくれる気がする」
「うん。ありがとう。そうして欲しい」
本当に、一言で、私の言いたい事を汲んでくれる良い父親だ。
そのせいで、父さん自身が言葉が足りない事が多いのが玉に瑕だ。
「それに……謝罪は自己満足だってわかってはいるんだ。
自分が許されたいが為の自分の為だって……。俺はずるい奴なんだよ。
俺が直接、謝罪する事で、楓は私を許さないといけなくなる。
……楓の性格を考えたら、例え納得してなくても許す事は目に見えているからね」
父さんは、申し訳なさそうな顔をしつつ、それでも許されたいと思っているのだろう。
過去を消す事は出来ない。謝罪しても心の傷が消えるわけじゃない。それでも、謝罪は2人が進んでいく一歩にはなると思う。父さんは勝手に反省して頂いて、私はフィリア(母さん)を全力でサポートするつもりだ!!
「大丈夫だよ。フィリアが、無理してると思ったら、私が爺ちゃんを許すのを全力で止めるから」
私は、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
フィリア(お母さん)の性格上、謝られたらどんなに辛い心の傷であっても、感情を押し殺して許してしまいそうだ。
そんなのは、爺ちゃんも望んでないだろう。
わだかまりは、キチンとぶつかった方がスッキリするものだ。フィリアが、本音をぶつけられるまで、許すべきじゃない。
母さんの時代が時代なので、その時代の日本の標準的な躾だったのだろうけど、それが母さんの閉所恐怖症の原因になっているのは明らかだ。
転生しても、症状が出るくらい心の傷になっているのだ。
他にも色んな出来事があったのだと思う。その全部を知っているわけではない。
どれくらいかかるかわからないけれど、簡単に許されるべきではないのだ。
「私が、母さんの味方でいるから覚悟しておいて」
私の不敵な笑みに、父さんは目を丸くした後、眩しそうに目を細めた。
「そうだな。簡単に許されるべきではない。よろしく頼む」
そう言った父さんの顔は、少し安堵した様にも思えた。




