バネッサの思慮 sideフィリア→バネッサ
地震が起こります。
地震の話は最初だけです。
詳しい話はないですが、産後うつと言う単語も出てきます。
苦手な方はご注意ください。
それは本当に突然だった。
ドンと突き上げる揺れを感じた後、立ってはいられない程の横揺れが始まった。
私は本当に運がなかったのだと思う。
いや、そうではなく、突然の事に対応できない私の反射神経の無さなのかもしれない。
今世の私はまだ運動神経は良い方だったはずなのに……。
そういえば咄嗟の判断は苦手だったな。
本棚は、建物に固定されていたけれど、本は固定されていない。
偶々、私の身長よりも高い位置にある本が、頭目掛けてバサバサと落ちてきて……。あっ…魔法で対処すれば! と思うと同時に私の意識は途切れた。
◇◇◇
sideバネッサ
凄い揺れを感じて、とりあえず体制を立て直すためにしゃがむ。更に怪我をしない様に体全体に保護魔法をかけた。幸い私のいた所は、本が落ちる事も無かったが、バサバサと本の落ちる音があちこちから聞こえていた。
揺れがおさまって、直ぐにフィリアがいた方は急いだ。
フィリアは、意識を失って倒れていた。
急いで、サティカのメディカルチェックを作動させる。
どうやら軽い脳震盪、命の危険はなさそうでホッとした。
ゆっくり仰向けにして顔色を伺う。
青白く、クマのできた目下は寝不足なのだろう。
フィリアも、保護魔法は使えた筈だが、咄嗟のことで判断が鈍り、使えなかったのか、それともこの体調不良が原因なのか……。
体調不良は5級魔道具作成免許の勉強もあるだろうけれど、それだけじゃない。
心配になり、今日、フィリアとの夜の約束をもぎ取ってたが地震があって悠長な事は言ってられなくなった。
この地震は、トライア地区でこれから大きな何かが起こるのは予兆に過ぎない。そんな気がする。私の感はあたるのだ。
それでも、まずはフィリアの事である。フィリアの方が大事だもん。
私は今までのフィリアの様々な場面を思い浮かべる。
最近フィリアは、思い詰めた表情をしていた。
他にも、子供は好きなのに、一定の距離を取りがちな所も気になる。
結婚の話は逸らされるし、子供の話は、ブーメランのように私に返ってきた。とほほ。
……。もしかしなくても、フィリアは前世の事をずっと後悔している。
と言うか自分を責めているように感じた。
フィリアと関わる様になって、性格からそう思っているに違いなかった。
責める事も、後悔する事もしなくていいのに。
母さんは、一生懸命私達の世話をしていただけ……。
寧ろ、子供達(私達)が聞き分けが無くて、大変だったの?
物心がつく前だから、覚えていないんだ?
ごめんね?
そう思っているけれど、今の私では、その事を言い出せなかった。
フィリアは私の前世のことを知らないから。
……私にも、前世の記憶がある。
フィリアの前世は、佐藤 楓。
楓の第一子であり、楓の娘である実咲が、私の前世だ。
前世の母さんが、どのようにして亡くなったのかは、ここ最近まで誰も教えてくれなかった。
漸く、ポンコツ親父が重い口を開いたのは最近だ。
ポンコツ親父も、前世の記憶があり、前世は楓の父親だ。
礎 次郎、前世は私の祖父でもある。
前世の祖父が、今世の父親なんて、と思うが子は親を選べないので仕方ない。(ホントややこしい!! 父さん? なのか、じいさんなのか!! もう、ポンコツ親父で統一していいだろう)
まぁ今、その事は、あまり関係ないので、話は置いておこう。
漸く白状した内容は、なんと言うか予想通りだった。
楓は、産後うつを患っていて、精神的にも体力的にも抱え込みすぎ、誰にも頼れずにいたらしい。直接の死因は心臓発作で亡くなったが、おそらく風邪と過労もあったであろうと言われたらしい。
亡くなる前日まで普段と様子は変わらなかったと、周りは気づかなかったらしいが、証言が乏しい為、定かではない。
ポンコツ親父は、前世において、子供達である私と正輝(前世の弟)が、自責の念に駆られない様に、と言うよりかは、周りがとやかく言うのを防ぐ為に、詳しい話はせず、楓は病死だったと、軽く処理された。
礎家は、代々続く名家らしく、精密機械のなんたら部品のシェアトップらしいので、醜聞になりえそうな話は消したかったのだろう。
ポンコツ親父は、当時、それが正解だと思っていたが、前世の終盤から今世にかけて、気持ちの変化があり、今は反省していて、謝罪の気持ちでいっぱいらしい。
ポンコツ親父、曰く、楓は夫である佐藤 芳樹の転勤について行き、実家から遠く離れていたという事もあるけれど、実家が近くてもきっと頼らなかっただろうと、自嘲していた。
前世では父子は折り合いが悪かった。
ポンコツ親父も、後悔は凄まじく、前世の楓が生まれ変わると知ると、兎に角、前世の事を謝りたいと、常々言ってはいた。
が、まさかフィリアに初日、あんな態度をとって、支離滅裂で(本当に、大企業の社長していたの? と思う。婿養子で肩身が狭かったらしいけど)、フィリアを困惑させたのは如何なものかと思う。まぁ私が強制退場させたけどね。
とりあえず前世の事は私に一任する様に約束させた。
ポンコツ親父は、フィリアを前にすると謝罪する衝動に駆られると、訳のわからないことを言うので、近づくな! ととりあえず言ってみたけれど……。
今夜、フィリアはどんな話をしてくれるつもりだったのだろう?
前世の話かな?
フィリアの前世の子供達への気持ちを知りたいと思う反面、バネッサとしてフィリアの気持ちを聞いてしまうのは、なんだか狡いような気がした。
最初は、他人のフリしていた方が喋りやすいだろうと思っていたけれど、フィリアの場合は違う気がする。
他人だからこそ遠慮している様な……。
なら、本人として向き合う方がいいんじゃないかと思う様になっていた。
私たちが前世、あんな死に方をしたと知ったら、フィリアはもっと自分を責めると思う。
そんな事は絶対させたくない。
今も元気に暮らしていると思って欲しい!
と言うか、バネッサとしてだけど、実際に元気に生きてるしね?
世界は違うけれど細かい事は気にしない!
それに私は、バネッサとしての今のポジションを気に入っている。
姉としてフィリアが甘えてきてくれるポジションは、私の性格上合っている。
逆は嫌だ。私がフィリアを甘やかすのだ!!
私が姉よ!
バネッサ(私)が前世の娘だと知ったら、フィリアは確実に遠慮し始める。そんなのは絶対に嫌だ!!
うん。バネッサ(私)が、前世の娘である事は、墓場まで持って行こう。
関係者全てに誓約魔法をかけて、喋らない様にしてしまおう。
うん。その方がいいと思う!!
そうしよう!!
じゃあまずは、関係者全員を集めないとねー!!
私の中で、方針が決まった!!
フィリアは寝不足もあるので、安眠魔道具を頭に被せて(もちろん呼吸から、心音からバイタルチェックは完璧!!)、ゆっくり寝てもらうことにして、私はある所に転移した。
バネッサは思い立ったら吉日!
どこかの誰かと似ていますね。まぁ血縁だから似てるのでしょう。




