交流会前日 ペティと中央孤児院
バネッサに明日、明後日は、実習が、お休みになったことを伝えた。
「フィリアは何かする予定はある?」
「散歩でもして、地域を見てみたいなぁとは思ってるけど、特にこれと言う用事はないです」
「なるほど、なるほど、じゃぁ明後日、孤児院の交流会があるんだけど、大人の手も必要なのよね? 前日は、交流会に持っていくオヤツを作る予定なのだけど、出来る事だけで良いから参加しない??」
「ええ勿論です。私にできる事ならやらせて下さい!」
と言う事で、今日は早めに寝て明日に備える事になった。
たくさんの人達が集う場は、人見知りの私は本来は苦手だ。
けれど、なるべく裏方にまわり、いつも良くしてくれているバネッサの手伝いが出来たらいいなと、前向きに考える事にした。
いつも最悪の場面ばかり考えてしまう私だけれど、バネッサの隣なら、そんな酷い事にはならないと、不思議とそう思う。
ワクワクと不安が入り交じりながらも、今日の研究で気が張っていたのもあってあっという間に眠りについた。
◇◇◇
今日はペティ孤児院にて、手土産の準備だ。
内容は、日持ちするクッキーとビスケットの詰め合わせ。
クッキーの味はチョコ、塩チョコ、紅茶、塩バター、プレーンだ。
ビスケットはプレーンとチョコ。
種類も多いので、四班に別れて作業する事になった。
1班、大人2人に対して子供達が3、4人、よく目が行き届く人数だ。
大人達が見守る中、小さい子達は型取りしたり、丸めてぎゅっと平たくつくったりしている。
手の器用な子は、アイスボックスクッキーの応用で、顔の形にしたり、花の模様にしたり、大人顔負けの技術だ。
私はバネッサと班を組み、子供2人を担当した。隣でバネッサも2人の子供達を見ている。
私が担当した子供達は、ルナとサン7歳と3歳の子だ。
5歳のルナは、女の子で、濃紺の髪を肩で切り揃え、山吹色の綺麗な瞳は意志の強さを感じた。年齢よりもしっかり者。
几帳面で、私に何度も確認しながら失敗しないように一生懸命作ってる姿が可愛かった。
3歳のサンは、ルナと髪と瞳の色を入れ替えた男の子で、髪は短くカットされ、瞳は顔の比率に対して大きくクリクリだった。
ニコニコしていて愛嬌があり、つい甘やかしてしまいそうになる子だ。
ペティでは、ルナがサンのお世話がかりで、ルナがサンに怒っている場面によく出くわした。
ザ3歳児なので、じっとしているのは苦手、思いのまま、生地をこねくり回している。
あまり、捏ねるとクッキーは固くなってしまうので、そろそろやめさせようとしたら、その前にルナちゃんの怒りに触れてしまった。
「サン! それは、明日会うお友達に、渡す大切なクッキー! 遊ばないで!!」
ルナが、サンに注意すると、サンはしゅんとなる。
しゅんとなるが、生地で遊ぶことはやめなかった。
「サン!!」
再び、ルナが怒るとサンは、漸く手を止めた。
多分サンは、怒られている理由がわかっていないのだ。
でも、ルナが怒っているからやめた。
これじゃぁまた同じ事を繰り返す事になる。
でも、サンの対応の前に、まずはルナだ。
しょぼんとしているサンには申し訳ないが、サンをフォローする前に怒っているルナの対応の方が大事だ。
「ルナちゃん。心配してくれてありがとう。
サンの生地が、美味しいクッキーになるか心配なんだよね?」
「うん。みんなに美味しく食べてほしい! 大事にしないとダメ。美味しくなぁれってするのがいいって聞いた!」
「そうだね。大事にしたいね。ルナちゃんの気持ち、交流会のみんなが知ったら、とっても喜ぶと思うよ。ルナちゃんは交流会楽しみ?」
「うん!! とっても楽しみ!!」
「そかそか。ルナちゃんが怒っていると、このクッキーが怒った味になっちゃったらどうしよう?」
私の問いに、ルナは青白くなった。それは考えていなかったらしい。
「こまる」
「大丈夫、今からまた気持ちを込めたら美味しくなるよ。
私が、注意しなかったからルナちゃんに、怒らせちゃってごめんね。今度は私が見てるから、大丈夫」
「わかった。私、大丈夫だから、サンをしっかり見ててね」
「うん。わかった。ちゃんと見てるね」
子供が怒っている時はまず、聞いてあげることが大事、話を聞いてくれると、感じる事で、怒り自体が収まることもあるし、話す事で心の整理もできる。
ルナはしっかり者なので、正義感から怒ってしまっただけで、交流会のお友達の事を思う、優しい子だ。
私が、早くサンを注意しなかったのが、1番の原因なので悪い事をしてしまった。
ルナの話を聞いて、こちらの考えを話すと、ルナはちゃんと理解して納得して怒りを鎮めてくれた。
ルナは、自分の担当のクッキーに集中し始めた。
ここで私がまたサンを甘やかしてしまうと、ルナからの信頼が無くなるので、ここが勝負どころだ。
今度はサンに向き直る。
サンは、また怒られるのでは無いかと、私が視線を向けただけでびくついた。
「サン……。このクッキー美味しく作りたいの。手伝ってくれる?」
「……?」
サンは怒られる事を想像していたのに、全然別の言葉が来たのでポカンとしていた。
「てつだう?」
「そう。美味しくするには、サンの力が必要なんだ」
「……ボクできる?」
「うん。私も一緒にしていい?」
「うん!!いいよ!!」
サンも、好奇心旺盛で思いのままに行動するが、元来、素直でいい子なのだ。今までのサンは、頭ごなしに怒られるとびくついたり、逆に癇癪を起こしたりしていたみたいだ。
けれど、怒らず、ゆっくり話をすると、素直に聞いてくれる。
今度は2人で作り始める。生地を一纏めにするのは私がして、伸ばすのはサンがしてくれた。
多少生地の厚さの違う場所もあるが、型抜きをすればそれ程気にならない。オーブンは真ん中が若干強く、端が少し弱い。多少の厚さの違いは、置き場所に注意すれば、焼きムラにはならない。
サンは型抜きが気に入ったのか、次からか次へと型を押していく。3歳はまだ目が離せない時期だ。怪我をしないように見守りながら全てのクッキーを作り終えた。
ルナは、時々サンの事が気になって見ていた。
サンが夢中になって型抜きしていて、別の型抜きがサンの肘で落ちそうになっていた時、ルナは何も言わずに型抜きを奥に置き直してあげていた。
それを見ていた私に気がついて、目が合ったけれど、人差し指を口に当てて内緒にして欲しいと意思表示された。
多分、注意しないであげてと言う事だろう。
ルナもなるべくサンに怒りたく無いんじゃないかな。
そんな気がした。
私はにっこり笑い、首肯したのだった。
前世以来、がっつり子供達との関わりだったけれど、哀愁を漂わせる時間もなく、あっという間に時間が過ぎた。
子供達が怪我をせず最後は楽しそうに、作業を終えていたのは印象的で、やって良かったと思う。
クッキーは焼き上がり、粗熱をとってから、ラッピングした。リボンやシール、お手紙を添えて、心の困ったプレゼントが出来たので子供も大人も大満足だ。
片付けも終えて、簡単な夕食を済ませ、みんな解散となった。
明日も早いので、各自身支度の準備だ。
私も身支度を終えて、寝床に入ろうとしたが、中々寝れない。
こうやって一息付くと、前世の子供達は、どうしているのだろうか? と考えてしまいがちになる。
このままじゃ寝れないと思い、思い切って部屋を出て、屋上に出た。今日は綺麗な夜空で星が瞬いていた。
ぼーっとしてたら、意識もぼんやりしていく。
なのに、空を見ても、やはり考えてしまう。
前世の子供達の事を考えたって、答えが出るわけじゃ無いけれど、考えずにはいられないのだ。




